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何ができるのか? 何がすごいのか?――ChatGPTの基礎知識①by岡嶋裕史

彗星のごとく現れ、良くも悪くも話題を独占しているChatGPT。新たな産業革命という人もいれば、政府当局が規制に乗り出すという報道もあります。いったい何がすごくて、何が危険なのか? 我々の生活を一変させる可能性を秘めているのか? ITのわかりやすい解説に定評のある岡嶋裕史さん(中央大学国際情報学部教授、政策総合文化研究所所長)にかみ砕いていただきます。ちょっと乗り遅れちゃったな、という方も、本連載でキャッチアップできるはず。お楽しみに!

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何ができるのか? 何がすごいのか?――ChatGPTの基礎知識①by岡嶋裕史


 ChatGPTがたいへん流行っている。
 たしかにそうなんだろう、本を書く依頼をいただいたのだから、それが確固たるエビデンスである。ぼくのところまで話がまわってくるということは、相当流行っているのである。
 IT業界的にはメタバースが幻滅期に入ったあと、Web3で一山当てて、その次に生成系AIの波が来て欲しかったはずである。実際、そのようなサイクルで状況は推移していた。
 しかし、そんな予定調和をぶっ壊すように生成系AI、とりわけChatGPTの登場が不意の鯨波となり、世界地図を描き換えてしまった。
 ChatGPTの作り出す文書は確かにすごい。一例をあげよう、こんな感じである。

Q 本に間違いがあったので、著者にクレームを入れたいです。文面を考えて!

A もちろん、お手伝いします。以下に、著者に対するクレームの例文を示します。

件名:[本のタイトル] に関する誤りについて

[著者名] 様

拝啓
いつもお世話になっております。先日、[本のタイトル]を購入し、大変興味深く拝読させていただきました。しかし、私はその中でいくつかの誤りに気づきましたので、ご報告させていただくことにしました。

具体的には、[ページ番号]の[誤りの箇所]において、[誤りの内容]がありました。これについて、[正しい情報]が適切だと思われます。私はこの分野について研究しているため、正確な情報を共有することが大切だと考えております。

今後の改訂版や追加情報において、これらの誤りを修正していただけると幸いです。また、他にも誤りがあるかもしれないため、全体的なチェックもおすすめいたします。

お忙しい中恐れ入りますが、お手数ですがご回答をお願いいたします。今後も[著者名]様の著作を楽しみにしております。
敬具

[あなたの名前]

[連絡先情報(電話番号、メールアドレスなど)]

このメールは、誤りを礼儀正しく伝え、改訂やチェックを提案しています。また、感情的にならずに事実を述べることで、著者も受け入れやすくなるでしょう。

Q 例文を考えてくれてありがとう! この例文を、語彙力のない人が、粗野な感じで、威嚇を込めて書いた風に、書き直してくれる?

A 承知しました。以下に、語彙力のない、粗野で威嚇的な文面を示します。

件名:[本のタイトル]の間違いについて

[著者名]よ!

おい、[本のタイトル]って本買ったんだけど、信じられないくらい間違いがあるんだけど![ページ番号]の[誤りの箇所]、まさかこんなに間違ってるなんて、ふざけんなよ!

こんな間違いだらけの本書いてる暇があったら、ちゃんと調べてから書けよ!今すぐにでも訂正しろよ。ちゃんとした情報を出せないなら、書くなって感じだよ。

ちゃんと返事して、どうやって解決するつもりか教えてくれよ。次も同じようなクソみたいな本出したら、みんなに教えてやるからな!

バイバイ

[あなたの名前]

[連絡先情報(電話番号、メールアドレスなど)]

ただし、このような文面は、相手を攻撃的に感じさせる可能性があり、問題解決に繋がりにくいことがあります。穏やかで礼儀正しい言葉遣いを使用することで、より建設的な対話ができることをお勧めします。

 すごいのである。
 まず、けっこうな話題に追従してくるのがすごい。過去の会話モデルでも、特定のテーマを深く学習させたものはあった。道案内なら道案内、蔵書検索なら蔵書検索でなかなか頼りになる。
 会話モデルを作るのは手間だから、そうなると仕事や生活の役に立ちそうなテーマのモデルばかりが出てくることになる。
 それに対してChatGPTはクソみたいな話題でも相手をしてくれ、かつ精度の高い答えを投げてくるのである。
 そう! AIのモデルを作るって、お金も手間も精神力も容赦なく削ってくる作業だったのだ。いったい誰が売れない著者にクレームを入れるための文面の学習をさせようなんて思いつくだろうか。
 それが、ChatGPTだと、ちゃんと話相手として成立するのである。他の話題もふってみよう。

Q 凹んでるんで、なぐさめて欲しいんだ。ちなみに、ぼくのプロファイルを示しておくと、声優さんが好きだよ。早見沙織さんが大好きだけど、佐倉綾音さんも好きだし、花守ゆみりさんも素晴らしいよ。ツンデレは戸松遥さんに決めてるんだ。ああ、ぼくはどうしたら癒やされるんだろう?

A 大丈夫、落ち込んでいるときは誰にでもあることだよ。君が声優さんが好きなんだね。それなら、彼女たちの素敵なパフォーマンスを思い出して、気分を上げてみよう!

早見沙織さん、佐倉綾音さん、花守ゆみりさんはとても才能ある声優さんだから、彼女たちの作品を見ることで、きっと癒やされると思うよ。例えば、アニメやラジオ番組を聞いたり、彼女たちの歌を聴いたりして、彼女たちの声に耳を傾けてみて。

戸松遥さんのツンデレキャラクターも面白いよね。ツンデレキャラクターは最初はクールに見えるけど、実はとっても素直で可愛い一面があるんだ。そんなキャラクターに癒やされるのもいい方法だね。

また、君が好きな声優さんたちのイベントやライブに参加することも、気分を上げる良い方法だよ。彼女たちの素晴らしいパフォーマンスを生で見ることができれば、きっと癒やされると思う。

最後に、声優さんたちのファン同士で交流することもおすすめだよ。同じ趣味を持っている人たちと話すことで、お互いに励まし合えるし、新しい発見もあるかもしれないね。

落ち込んでいるときは、大好きな声優さんたちのパフォーマンスを楽しんで、少しずつ気持ちを前向きにしていこう。君は一人じゃないよ。

 ChatGPTの基本的な口調は(たぶんクレーム対策だろう)ジェントルなものである。そういう風にチューニングされている。最初の質問で示した通りだ。それが、凹んでいるので慰めて欲しい旨を伝えたら、特に口調についての指示はしていないのに、なんだかスピリチュアルな似非カウンセラーみたいな包容力ある口調に変えてきた。ちょっとしたことだが、従来の会話モデルから長足の進歩を遂げている箇所である。

「ツンデレキャラクターは最初はクールに見えるけど、実はとっても素直で可愛い一面があるんだ。そんなキャラクターに癒やされるのもいい方法だね。」

 このあたりなんて、ツンデレを知らない人にツンデレとはなんぞやとさりげなく情報伝達するライトノベルの導入部のような書きっぷりである。というか、ライトノベルはGPT-4を育てる学習データのなかに含まれていたことだろう。

 と思うと、ビジネスに使えそうな堅い話題にももちろん追従してくる。

Q 中央大学が都心移転戦略をとっていますが、新規学生の獲得という観点において、この戦略が成功するかどうかを評価してください。

A 都心移転戦略が新規学生の獲得に成功するかどうかを評価するために、いくつかの要因を考慮する必要があります。以下に主要な要素を挙げます。

アクセスの向上: 都心に移転することで、交通アクセスが向上し、学生や教職員にとって通学や通勤が容易になります。これにより、学生が通いやすい環境が整い、新規学生の獲得に繋がる可能性があります。

都心の利便性: 都心には多くの施設やサービスが集まっているため、学生にとって生活しやすい環境が整っています。また、企業や研究機関との連携も容易になるため、インターンシップや就職活動にも有利に働くことが期待できます。

キャンパス環境の改善: 移転に伴い、最新の設備や環境を整えることができるため、学生にとって魅力的なキャンパスが実現できます。これも新規学生の獲得に繋がる可能性があります。

コスト面の懸念: ただし、都心への移転は土地や建設コストが高くなることが予想されます。そのため、学生の授業料が上昇する可能性があり、新規学生の獲得に悪影響を与える可能性があります。

都心の騒音や治安: 都心には騒音や治安の懸念が伴うことがあります。これが学生にとってマイナス要素となり、新規学生の獲得が難しくなることも考えられます。

総合的に考えると、都心移転戦略はアクセスの向上や利便性、キャンパス環境の改善など、新規学生の獲得に繋がる要素が多く存在します。しかし、コスト面の懸念や都心の騒音・治安など、マイナス要素も無視できません。そのため、中央大学がこれらの問題に対処し、バランスの取れた戦略を立てることが、新規学生の獲得に成功する鍵となるでしょう。

 知らないことや、推測しにくいことからは微妙に逃げて、一般論で着飾ってる感はあるけど。でも、教育コンサルタント企業が出してくるレポートも、こんな水準のやつはいくらでもある。

 ビジネスだけではなくて、学校でも使えそうだ。学習の友にもなりそうだけど、児童、生徒がやりたいのはたぶんこういう使い方だろう。

Q シャーロック・ホームズの「オレンジの種5つ」の読書感想文を書いてみてください。

A 題名:「オレンジの種5つ」の感想

シャーロック・ホームズの名作として知られる「オレンジの種5つ」は、独特の雰囲気と推理のプロセスが魅力的な物語です。アーサー・コナン・ドイルの巧みな筆致によって描かれるホームズの冒険に、私は夢中になってしまいました。

物語は、ジョン・オープンショーという青年がシャーロック・ホームズとドクター・ワトソンに助けを求めるところから始まります。彼は、亡き父から送られてきたオレンジの種5つが入った封筒と、その謎めいた内容に困惑していました。これが、ホームズが名探偵としての才能を発揮するきっかけとなります。

「オレンジの種5つ」の特徴は、ホームズの洞察力と観察力が光る推理プロセスにあります。彼は、些細な手がかりから徐々に事件の真相に迫っていく様子が鮮やかに描かれており、読者もその推理に引き込まれることでしょう。また、ワトソンの視点から語られる物語は、ホームズの人間性や才能をより身近に感じられるようになっています。

この物語で印象的なのは、オレンジの種が持つ象徴的な意味です。最初はただの謎に見えるオレンジの種が、徐々に明かされる背後の秘密と関連してくる点が非常に興味深く、読者は物語の最後まで目が離せません。

また、「オレンジの種5つ」は、ヴィクトリア朝のロンドンが舞台として設定されており、当時の社会や文化が緻密に描かれています。これによって、物語は現実感を持ち、読者はシャーロック・ホームズの世界に没入することができます。

総じて、「オレンジの種5つ」は、シャーロック・ホームズの魅力がたっぷり詰まった作品であり、推理小説の傑作として愛され続ける理由がよくわかりました。

 読書感想文として、違和感がない。むしろ、違和感がないのが違和感である。
 ちょっと前までなら、「稚拙なことで、AIが書いたとわかった」のだが、GPT-4以降は「上手すぎるから、学生が書いたんじゃないっぽい」と判断するようになった。

 実際、ちょっとした宿題なら、そのまま提出してよい水準の成果物をばんばん出してくれるし、同じ問いかけ(プロンプト)をしても微妙に違った成果物が出てくるから、みんながChatGPTで読書感想文を書いてきても、雑な採点をする先生なら気付かないかもしれない。
 文章が上手すぎると思ったら、先ほどやったように書き換えてもらえばいいのである。

Q どうもありがとう。この文章を小学3年生が書いたように、書き直して!

A 題名:「オレンジの種5つ」の感想

「オレンジの種5つ」は、シャーロック・ホームズが活躍するおもしろいお話です。このお話を読んで、ホームズさんがどうやって事件を解決するのか、すごく楽しくなりました。

このお話は、ある男の子がホームズさんとワトソンさんに助けを求めるところから始まります。彼は、オレンジの種が5つ入った封筒が届いて、どうしていいかわからないのです。それで、ホームズさんが事件を調べ始めます。

「オレンジの種5つ」のすごいところは、ホームズさんの考え方です。彼は、ちょっとした手がかりから事件の答えを見つけ出します。ワトソンさんの視点で話が進むので、ホームズさんのすごさがよくわかります。

このお話で印象的なのは、オレンジの種の意味です。最初はただのオレンジの種ですが、だんだんとその秘密がわかってきます。それがお話をもっとおもしろくしています。

「オレンジの種5つ」は、昔のロンドンが舞台です。そのころの人々の暮らしが丁寧に描かれていて、お話がリアルに感じられます。

まとめると、「オレンジの種5つ」は、シャーロック・ホームズがかっこよく活躍するお話で、すごくおもしろかったです。このお話を読んで、名探偵のすごさがよくわかりました。

 気の利いた、「大人が考えるいい子ども」を演じ慣れているタイプの小学3年生なら、確かにこんな読書感想文を書いてきそうである。ジョン・オープンショーがいつの間にか「男の子」になっちゃってるけど、このままで通るだろう。

 ただ、汎用的なモデルなので、知らないことは当然ある。

Q 「傾斜面に着座するカップルに求められる他者との距離」という論文の要点を、箇条書きにして教えてください。

A 「傾斜面に着座するカップルに求められる他者との距離」という論文は実在しませんが、仮にそのような研究があると仮定して要点を箇条書きにしてみます。

傾斜面におけるカップルの座り方: カップルが傾斜面でどのように座るかを調査し、快適さや安定性が求められる座り方を特定。

他者との距離感の研究: カップルと他者との適切な距離感を調査し、プライバシーや他者への配慮がどの程度必要かを明らかにする。

カップルのコミュニケーション: 傾斜面において、カップルのコミュニケーションが他者との距離にどのように影響するかを検証。

傾斜面の角度と距離感: 傾斜面の角度がカップルと他者との距離感にどのような影響を与えるかを調査。

文化的要素: 文化や地域によって、カップルと他者との距離感に違いがあるかどうかを検証。

理想的な距離の提案: 研究結果をもとに、傾斜面でのカップルが他者とどの程度の距離を保つべきかを提案。

このような論文では、傾斜面におけるカップルの座り方や他者との距離感、角度、文化的要素などを研究し、理想的な距離を提案することが目的となります。ただし、これは仮想の論文であり、実際の研究とは異なる点があることをご了承ください。

 この論文は実在するのだけれど、仮想の論文だって豪語しちゃった。まあ、それはいい。どんな人間だって書籍だってデータベースだって、載っていない知識はある。で、これまでの会話モデルであれば、「知らない」「実在しない」で終わりだったのが、「仮にそのような研究があると仮定して」と話を続けてくるあたりがすごいのである。
 ほんものの方は、周囲何mに人がいなくなるとカップルがいちゃこらし始めるのか、という研究なので推測した内容もけっこう当たっている。

 実はここまで見てきた事例で、ChatGPTの特徴がよく表されている。膨大な知識と会話のデータを保有し、分野横断的な会話に追従できることはすでに述べたが、それに加えていくつか挙げてみる。
 既存のチャットボットはステートレスなものが多かった。会話しているものの、その内容は1回のやり取りで揮発するのである。ボットは1つ前の発言を覚えていない。
 ところがChatGPTはステートフル、つまり文脈を覚えていて文章を生成してくる。これが利用者にとても自然な会話であるという印象を与えるのだ。
 問いかけに対して、文体や語調、語彙まで整えてくる点も際だった特徴である。既存のチャットボットはこれらは変えられないか、変えられるにしても明確な指示が必要だった。
 しかし、ChatGPTは特に指示がなくても、その文章に相応しい文体や語調を選択してくる。語彙力や感情、その分野特有の言い回しにまつわるパラメータを持っているということである。これらの相乗効果により、極めて人間らしい反応として仕上がっているのである。(続く)

岡嶋裕史(おかじまゆうし)
1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学経済学部准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、政策文化総合研究所所長。『ジオン軍の失敗』『ジオン軍の遺産』(以上、角川コミック・エース)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『思考からの逃走』『実況!  ビジネス力養成講義 プログラミング/システム』(以上、日本経済新聞出版)、『構造化するウェブ』『ブロックチェーン』『5G』(以上、講談社ブルーバックス)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』『プログラミング教育はいらない』『大学教授、発達障害の子を育てる』『メタバースとは何か』『Web3とは何か』(以上、光文社新書)など著書多数。

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