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「ベランダピクニック」と「ベランダ野宿」|パリッコの「つつまし酒」#63

人生は辛い。未来への不安は消えない。世の中って甘くない。けれども、そんな日々の中にだって「幸せ」は存在する。
いつでもどこでも、美味しいお酒とつまみがあればいい――。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、noteで再始動! 
そろそろ飲みたくなる毎週金曜日17時の更新です。

必要なときにだけ出現させられる芝生

 京都在住のライターで、飲み友達でもある泡☆盛子さん。そのペンネームからも想像できるとおりかなりの酒好きで、公私ともに大変お世話になっています。そんな彼女は、ステイホームな昨今の、家飲み環境向上にも積極的。いろいろと「それ、まねしてみたい!」っていう楽しそうな飲みかたを自宅で実践されています。
 そんな泡さんに先日、「いいですよ」と教えてもらって、あまりにもうらやましくなり、その場で注文してしまったのが、ロールタイプの人工芝。最近、あんまり外に出かけられないので、ベランダでばっかりお酒を飲んでいるんですが、そうするとベランダ自体が非日常空間ではなくなってきてしまうんですね。ベランダがマンネリ化してくる。そこに人工芝を敷いてしまおうというわけ。
 そもそも、自宅のそっけないベランダは前からどうにかしたかったんですよ。ずっと第一候補は「ウッド調のタイルを敷きつめる」だったんですが、動きだすのがおっくうでもあり、かつ、全体に敷きつめるぶんを買おうとするとけっこうな金額になってしまう。それに比べると、ロールタイプの人工芝はものすご~くお手軽! 1m×2mのものが、約3000円ほど。ポイントなのが、ずっと敷きっぱなしにしておくわけではなく、天気のいい日に、下にビニールシートを敷いた上に広げる。この方法だと、風雨にさらされることもなく、いつでも寝っ転がることができる。これがね、最っ高に気持ちいいんです!

おつまみ弁当とサンドイッチ

 5月のとある天気の良い休日、絶好のタイミングだ! と、ベランダ芝生でピクニックをすることにしました。ピクニックとくれば、おつまみ弁当を用意しなければいけない。サンドイッチもあるに越したことはないだろう。さっそく地元の商店街やコンビニをかけめぐり、お酒やつまみをあれこれ買いこんで、準備完了。

 せっかくピクニックをするのなら、あんまり部屋とベランダを往復したくない。室内に入るのは、トイレのときだけにとどめたい。そこで、よく冷えた缶ビール、缶チューハイ2種、ハイボールと、保冷剤がわりの冷凍枝豆をクーラーボックスに詰めこんでおきました。これで2時間くらいは持つだろう。
 おつまみは弁当箱に、からあげ、鶏ささみ大葉チーズカツ、ポテサラ、カニカマ、味玉、タケノコの煮つけ、カブとニンジンの浅漬け。それから、コンビニで買ってきたガパオ風サンドと、保温スープジャーに入れた即席のトマトスープ。すでにじゅうぶんすぎるけれども、もし足りなければ冷凍枝豆もある。
 割れないプラスチック製のグラスと、サーモスの保冷ジョッキも用意し、すべてをアウトドア用の鉄製ラックにセッティングし、いよいよ初夏のベランダピクニック、決行!

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我ながらほれぼれする機能美

あまりにも気にいりすぎて……

 まずはグラスに、なんとなくピクニックにいちばんふさわしい発泡酒な気がして久しぶりに買った「淡麗グリーンラベル」を注ぎます。景気づけにから揚げをむしゃりとほおばり、ごくごくごく。っふぅ~、最高すぎ。あれこれつまみつつビールを飲み干したところでその場にゴロンと横になると、視界には、上階のベランダによっていびつに切り取られてはいるものの、抜けるような青空が広がっています。そして吹き抜ける心地いい風。気分はもう避暑地の高原ですよ。
 ガパオ風サンド、缶チューハイに合うな。ゆっくり時間をかけてたどり着いたラストの濃いめハイボールと、まだまだ熱々のトマトスープの相性もばっちり。たった3000円そこそこで、なんという幸せ空間を手にいれてしまったんだろうか。ありがとう、泡さん!

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幸せ要素しかない光景

 その夜、あまりにもこの空間が気にいってしまった僕は、もう、ここで一泊することにしました。バカな男だとお思いでしょう。が、一度抱いてしまった衝動を止めることはできません。寝袋、ランタン、さらに、以前IKEAででかめの棚を買ったときに入っていたダンボールをひっぱりだしてきて、ベランダピクニックから「ベランダ野宿」モードにセッティングを移行。ベランダ飲み第2部の幕開けです。
 え? ダンボール? あぁ、何に使うのかってことね。え~とですね、これで、寝ている自分の頭付近をすっぽりと覆うことで、外でありながら個室感も手にいれてしまおうと考えたわけなんですよ。えぇ、わかります。そろそろ付きあってらんなくなってきたでしょう? いいんすよ。僕が楽しいんだから。
 いや~これがもう、想像の100倍良かったですね。はたから見たら、頭隠して尻隠さずの中途半端状態ではあると思うんですが、気分だけは完全に個室。ここで寝酒を飲みながら、なんせ家のWiFiが届いてますからね。最近ハマっている、ジャルジャルが星の数ほどYouTubeにアップしているネタ動画なんて見ちゃってもう、最高の秘密基地を手にいれた! ってな気分ですよ。

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この良さ、わかってくれる人はいるはず

 翌朝、目を覚まして立ちあがると、足には芝生の感触。空は美しい朝焼け。ひんやりとした空気。完全にキャンプ場の朝でした。

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ふと自分の寝床を見たらなかなかひどかった
パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。著書に『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)など。Twitter @paricco


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