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【65位】ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの1曲―「ド」付きで帰還したド名曲、ロックの未来を最後に開闢する

「ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)」ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス(1968年10月/Reprise/米)

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Genre: Psychedelic Rock, Blues Rock, Hard Rock
Voodoo Child (Slight Return) - The Jimi Hendrix Experience (Oct. 68) Reprise, US
(Jimi Hendrix) Produced by Jimi Hendrix and Chas Chandler
(RS 102 / NME 246) 399 + 255 = 654 
※当初はアルバム収録のみ。70年になってシングル発売された

これぞジミヘン、これがジミヘン! まさに彼の代表曲にして代名詞的1曲――ということはつまり、ロック史上における明確なブレイクスルーを生じさせたナンバーであることも、同時に意味する。60年代、多くの人々が「ロックの新しいありかた」を試行錯誤していた。そんな時代の終盤にジミ・ヘンドリックスがついに示した、雲に隠れたままの天頂の最高峰にまで確実に続く「登攀ルート」が、ここには書き記されていた。

具体的には、マディ・ウォーターズの影響濃いブルースが、ヘンドリックスの才気によってサイケデリック感覚を付与されたあと、大圧力のハード・ロックへと変貌させられていた。押さえ気味に始まる、冒頭のワウ・ワウ・ペダルを使用したカッティング。そこから一転、まるで火山から溶岩が噴出しているかのような、野太いファズ・ギターのリフが聴き手を襲う。ヘンドリックスのヴォーカルも呪術的に迫る。一聴するだけで血がたぎる、精気に満ち満ちた、荒ぶるロックのスーパー・チューンが、これだ。

71位の「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」同様、当曲は彼の遺作アルバム『エレクトリック・レディランド』に収録された。アナログ盤2枚組で発売された同作のD面、つまり最終面の最終トラックとなったのがこの曲だった(ちなみに、ひとつ前が「ウォッチタワー」だった)。70年9月のヘンドリックス急逝から1カ月後の10月に、UKのトラック・レコードよりシングル・カットされ、初の全英1位を獲得した。

ここで「チャイル」問題について整理しておきたい。ときに混同されるのだが「ヴードゥー・チャイル(Voodoo Chile)」というのはこの曲ではなく、『エレクトリック・レディランド』の4曲目に収録された14分超ナンバーのタイトルだ。それを仕上げた翌日に、元来は映像撮影用のセッションだった場でヘンドリックスらが同曲を再演しているうち、さすが天才、つい「まとまってしまった」のが、こっちの5分台のタイトな「チャイルド」。しかし件のUK盤シングルでは、当曲が「チャイル」と表記されていて……いろいろと混乱が生じた。だがこちらは本来「ド」付きなので、お間違えなきよう。

繰り返しライヴでも実演され、多くのリスナーの魂に刻みつけられたこの曲は、ヘンドリックスが大好きなもの2つの混ぜ合わせだった、と評されている。音楽評論家のジョン・ペリーいわく「シカゴ・ブルースとSF小説を混ぜ合わせた、恒星間フーチー・クーチー」だという。70年代ロックは、まさにこの「ルート」から発展していった。

(次回は64位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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