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代理婚活で苦悩する当事者の本音――「ありがたい」と「放っておいて」が半分ずつ

簡単には結婚できない=婚難
平成に入って加速した結婚離れ。男性の4人に1人、女性の7人に1人が生涯未婚(50歳までに一度も結婚しない)であることは周知の事実となっています。一方で、それに反比例するかのように「婚活」はどんどん多様に。住職がサポートする「寺コン」や我が子に代わり親が相手を探す「代理婚活」、燃えるような「シニア婚活」、はたまたコロナ禍で活況となった「オンライン婚活」まで。十人十色の婚活模様が広がっています。
そこで本記事では、そんな現代人の婚活・結婚観に当事者目線で迫った『ルポ  婚難の時代』から抜粋して「代理婚活」の実態をご紹介します。積極的に交流会に参加する親たちの姿は我が子を思う気持ちがありありと感じられますが、そこには「昭和の価値観」と「平成・令和の結婚観」の違いによる親子のすれ違いも……。取材に応じてくれた当事者の方の「お母さんはお母さん、私は私でしょう」という言葉には、一筋縄ではいかないリアルな代理婚活の実態が見て取れるようでした。

何度も戻ってくる身上書

良縁の会の紹介で出会い、1年にわたって取材させてもらったのが、都内に住む小倉さん親子(いずれも仮名)だ。

自営業でお店を切り盛りする母親の良枝さん(仮名・66歳)は明るくておしゃべりが好きで、なんでも打ち明けてくれるタイプ。取材も二つ返事で快諾してくれた。病気で手術をした友人の話をするときは涙を流すなど、とても優しい面もあった。

最初に良枝さんに取材させてもらった後、娘の芽衣さん(仮名・36歳)から話を聞いた。私と同年代の芽衣さんはお母さんとは正反対のシャイな女性。最初は人見知りをしているようだったが、趣味の話になると楽しそうに笑顔を見せた。二人には本音を聞くために別々で話を聞いた。

* * *

代理婚活を続ける母親、良枝さんは2017年6月に開かれた良縁の会プロジェクトの交流会にも参加した。それから1カ月後、自宅のポストに届いた白い封筒を見つけ、ため息をついた。

「まただめだった……」

良枝さんは東京都の郊外で夫の充さん(仮名・73歳)と食料品店を営んでいる。封筒の中身は、家業を手伝う長女芽衣さんの写真と身上書。交流会のときに参加者の親と交換したものだった。個人情報が含まれているため、断りを入れる場合は相手に返送することになっているが、丁寧に「うちの息子には立派すぎてもったいない。今回のお話は遠慮させていただけませんか」という手紙まで同封されていた。

すれ違う親子の気持ち

良枝さんたちは10年前、人と打ち解けるのに時間がかかる芽衣さんに代わって婚活を始めた。芽衣さんには20代の頃、店の客に紹介を頼んで結婚寸前までいった男性もいたが、うまくいかなかった。6年前から参加している代理婚活では実際にお見合いをした人もいるものの、今回のように会う前に断られることが多い。少しでも出会いにつなげようと充さんが、「箸にも棒にもかからないかもしれませんが、一度だけでもお会いいただけませんか」と気に入った相手の親に手紙を出したこともあった。

芽衣さんは専門学校卒。良枝さんは返却された身上書を眺めながら、「年齢や学歴だけでなく、もう少し人物本位で見てくれたらいいのに」と目を伏せた。

良枝さんは取引先の会社で働いていた充さんと21歳で結婚し、長男(44歳)と芽衣さんを授かった。

「苦労も多かったけど、子育てを経験して夫婦で成長できた。娘も結婚して子どもを育てて、平凡でもいいから幸せになってほしい」

芽衣さんの将来に対する心配もある。長男は2011年に結婚し自分の家庭を築いた。ずっと手元で育てた娘は精神的にも、経済的にも自立していない。自分たちの死後、一人になって寂しい思いをするのではないか。人生の伴侶を見つけることが唯一無二の解決策だという焦りが募る。

断られることが続いたせいか、最近芽衣さんは「婚活」「お見合い」という言葉を嫌がるようになった。

「親が子どもの結婚に出てくるなんておかしい」
「そこまでしなくても」

という批判もたびたび耳に入る。充さんと良枝さんにも「人生は自分で切り開いた方が本人のためかもしれない」という葛藤はあるという。それでも、奥手な愛娘の幸せを願うのは「親心」だと考えている。

「ありがたい」と「放っておいて」が半分ずつ

一方の子どもは、自分に代わって必死に婚活している親に何を思うのか。
「ありがたい」と「放っておいて」が半分ずつ──。芽衣さんは両親に対する正直な気持ちをこう表現する。

芽衣さんは女子高出身で、卒業後は女性が多い製菓の専門学校に通ったため、異性と話すのが苦手だ。友人に誘われて合コンに参加したときも、その場の雰囲気になじめず「早く帰りたい」としか思えなかった。27歳のとき、親が持ってきた縁談がとんとん拍子に進んで婚約。しかし、さまざまな事情が重なり、両家で話し合って破談になった。

「本当にその人のことを好きだったのかはよく分からない。でも侮辱されたようでつらかった」と振り返る。

そんな娘の将来を思って30代に入ってからも、両親は見合い話を次々と持ってきた。

しかし、実際会っても、明らかにやる気がない態度だったり、デート中に道に迷ったりと、相手に落胆してばかり。会話が続かず30分足らずでお開きになってしまったこともあった。

母親からのプレッシャーが苦しい

今まで「いいな」と思った男性はいない。最近は、会う前に写真と身上書が返ってくることが多い。身上書には、料理教室に通い、趣味でアクセサリーを作っていることなど、家庭的で器用な部分をアピールしている。実際に会いもせずに断られる理由が分からず、困惑してしまう。

理想は少し年上で離婚歴がなく、会話が楽しく、たばこを吸わない人。専業主婦になって、子どもも欲しいので、収入が安定している人がいい。とはいえ、「家事手伝い」で会社勤めではないため、普段の生活で異性との出会いはなく、好きな人もいない。だから、おっとりした自分に代わって熱心に代理婚活をしてくれる両親には感謝している。

普段は結婚についてプレッシャーをかけてくることなどほとんどない母から、「あなたの年齢のとき、お母さんは子育てのまっただ中だったんだからね」と言われたとき、「お母さんはお母さん、私は私でしょう」と少し強い口調で返した。

「耳障りなことを言われると反発してしまうのは、親の希望に応えられていないのが分かっているから」

* * *

良枝さんたちの「親心」を過保護と捉える人もいるかもしれない。最初は私にも、先回りして夏休みの宿題を全部解いてあげる親のように見えた。だとしても、思いつく限りのところに頭を下げてお見合いをお願いしている姿は、娘の将来を心から案じてのことだ。1年後に再び取材をしたとき、芽衣さんは代理婚活についてあまり多くを語りたがらなかった。「うまくいっていないのかな」という予感は的中した。

あきらめきれない子の結婚

2017年9月、良枝さんたちは久しぶりに親子4人のお見合いにこぎつけた。母親と現れた40代の男性は公務員で、良枝さんは「話上手でいい人」と好印象を抱いた。しかし2回目の誘いはなかった。

仲人団体にも入会しているが、30代後半の芽衣さんに紹介されるのは50〜60代の男性ばかり。一度だけ芽衣さんに身上書を見せると、「私は道具じゃない」と拒絶された。年齢が離れた相手の介護を条件に結婚させられると感じたのかもしれないと反省し、無理強いするのはやめた。今は身上書が届いても、芽衣さんには見せずに返却している。

良枝さんの周辺では近頃、病気で他界する親戚や友人が増えている。

「私たちも残された時間は少ない。早く見つけてあげなくちゃ」

焦りは募るばかりだ。夫の充さんと相談し、手先が器用でアクセサリー作りが趣味の芽衣さんが通う習い事の教室を探し始めた。ずっと自宅にいるよりも、外に目を向けた方が出会いはあるのではないか──。わずかな望みだとしてもすがりたい。そんな親心を知ってか知らずか、芽衣さんは最近、結婚やお見合いの話をするだけで「また始まった」「もういいわ」と露骨に嫌な顔をするようになった。

親に従っていた20代の頃に比べ、自己主張が強くなったと感じる。

若いうちに結婚させてあげられなかった後悔はあるが、あきらめることはできない。自分たちが先に死んだら、経済的にも精神的にも独立していない娘が毎日泣いて暮らすのは目に見えている。

「子どもの人生の道筋を付けるのも親の仕事だから」

そう考えている。

以上、『ルポ 婚難の時代』、第3章──悩む親たちより一部抜粋し、再編集して掲載しました。

『ルポ 婚難の時代』目次

はじめに(筋野)
第1章――結婚するって、大変ですか?(筋野)
第2章――夢見るシニア(尾原)
第3章――悩む親たち(筋野)
第4章――母になりたい(井上)
最終章――令和の恋愛と結婚(筋野)
あとがき①(井上)
あとがき②(尾原)

著者プロフィール

筋野茜(すじのあかね)
共同通信社仙台支社編集部記者。1981年埼玉県生まれ。2004年朝日新聞社に入社し、’09年から共同通信社。社会部、盛岡支局を経て、’13年東京本社生活報道部。’20年から東日本大震災取材のため現職。

尾原佐和子(おばらさわこ)
共同通信社ニュースセンター副センター長。1962年生まれ。福岡県出身。1986年共同通信社入社。ロンドン駐在、経済部、社会部、生活報道部などを経て2018年奈良支局長。’21年2月から現職。

井上詞子(いのうえのりこ)
共同通信社大阪支社社会部記者。1982年米国生まれ。出版社から2008年共同通信社に入社。甲府支局、千葉支局を経て、’14年から生活報道部で厚生労働省や国会などを取材。’21年2月から現職。



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