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【1位】○○○○○○の1曲―傷だらけの新生児が、汚水溜まりから大海へ

光文社新書編集部の三宅です。

川崎大助さんの好評連載「教養としてのロック名曲ベスト100」もいよいよ1位の発表です。5位から順に、ビートルズ、ビーチ・ボーイズ、ロネッツ、ビーチ・ボーイズと並びましたが、皆さんの予想はいかがでしょうか? 

ちなみに、下記マガジンで、100位からすべての名曲を確認できます。

では、1位の発表です。

「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」ニルヴァーナ(1991年9月/DGC/米)

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※こちらはイギリス盤シングルのジャケットです

Genre: Alternative Rock, Hard Rock
Smells Like Teen Spirit - Nirvana (Sep. 91) DGC, US
(Kurt Cobain • Krist Novoselic • Dave Grohl) Produced by Butch Vig
(RS 9 / NME 1) 492 + 500 = 992

傷だらけの新生児が、汚水溜まりから大海へ

そして、第1位は、この曲だ。予想した人は、何人いたか(僕は驚いた)。〈NME〉リストの1位が効いた。当ランクでは2位から6点差という「鼻の差」にて、当曲が激闘を制した。ありとあらゆる「才能と努力と『幸運』の結晶」の一大カタログともいえるリストの頂点に輝いたのは、この激烈にして熱気に満ちたロック・チューンだった。

90年代の初頭、米英を中心として「ロック」のブームがあった。いわゆる「グランジ」ブームだ。ファッション用語ともシンクロしながら、突如として「アンダーグラウンドの」ロック・バンドの音楽やライフスタイルが、大流行した。とくにパンク・ロックの遺伝子やガレージ・ロックの系譜も継ぐ「シリアスな」ヘヴィ・ロックの一派が、大きな注目を集めた。だから「オルタナティヴ」ロックがメインストリームを侵食するという、ほとんど語義矛盾のような事態が出来してしまったのだが、その象徴となったのが、当曲だ。巷間「ブラック・サバスとベイ・シティ・ローラーズの合体」とも呼ばれた、ラウドかつキャッチーな彼らの音楽的特質が、最高純度でここに凝縮されていた。

まずは、ギターだ。ディストーション・ギターが叩き出す「おいしい」リフの瞬発力に、聴き手は虜になった。イントロ冒頭から繰り出されるこのリフは、しかし76年に大ヒットした中庸ロック・バンド、ボストンの「モア・ザン・フィーリング」に酷似しているとして、同曲の「アンガー・ヴァージョン」じゃないかと話題になった。フロントマンにしてギタリストのカート・コベインは剽窃を否定して「このリフは古くからあるクリシェだ。『モア・ザン・フィーリング』のやつにも、『ルイ・ルイ』のにも似ている」と言い返した。まるで思いつきの言い逃れみたいなのだが、じつはわりと本当で、キングスメン版(当ランク37位)ではなく、60年代に活躍したガレージ・バンド、ザ・ソニックスの「ルイ・ルイ」(66年)リフならば、かなり直接的に、当曲と似ている。ニルヴァーナが登場してきたシアトルとほど近い、ワシントン州はタコマがソニックスの出身地だった。

当曲は、彼らのセカンド・アルバムにして、メジャー・デビュー作『ネヴァーマインド』(『教養としてのロック名盤ベスト100』では5位)のオープニング・ナンバーであり、先行シングルとしてまず発表された。シングルは最終的にビルボードHOT100の6位にまで上昇。全英では最高位7位で、なんと184週にわたってチャート圏内に居座った。ベルギー、フランス、スペイン、ニュージーランドで1位を獲って、結果米本国でもミリオン・セールスを記録。そしてアルバム『ネヴァーマインド』は、翌92年1月にビルボード1位となる。広義のパンク・ロックが「アメリカのメインストリームを制した」歴史的瞬間がこれであり、「事件」だった。あのジョン・ライドンが「俺らやクラッシュ、ほかのだれも成し得なかった快挙だ」とシアトル・タイムズ紙上で彼らを祝福した。

カレッジ・ラジオ局はもとより、MTVも当曲を推した。まるで「X世代」の鬱屈の噴出みたいに学園が破壊される印象的なMVを、集中的にエアプレイした。とはいえ(TV番組のクイズ・コーナーのネタになるほど)彼らの歌は不明瞭で、歌詞は聴き取りにくかった。つまり「なにを言っているのか、よくわからない」のに、売れた。 

たとえば当曲の伝説的なライン、コーラス部の最後の最後はこう叫ばれる。「A mulatto, an albino, a mosquito, my libido」――結局のところ、言いたいのは最後の「俺の性欲」というところだけなのだが、そこに至るまでに脚韻で引っ掛けてきた、一見「意味なし」の三語(混血者、アルビノ、蚊)が、間接的に「歌の語り手」そのものが社会から阻害されているだろうことを臭わせる。一時が万事この調子なのだが、しかし例外的に素朴きわまりないのがコーラス前のブリッジだ。「Hello, hello, how low」と三度繰り返される。「どのくらいロウなのか」と突然問うわけなのだから「うまくいってなくて、落ち込んでいる(=Low)」のは、この歌世界のなかでは「前提事項」だということだ。そしてここから、灼熱の、激甚な「あの」リフの爆裂とともに、コーラスへと突入する――。

つまりコベインの歌とは、だれにも(即時には)理解不能な痛み、苦しみ、懊悩、つらさといった、ネガティヴな情動各種が渦巻く混沌のなかから放たれていた。ゆえに細部の文言はわからずとも、まさに「魂へと」直接その歌は響いた。ブルースの遠い記憶が、パンクとヘヴィメタルの回路を通り抜けて「キャッチーなリフ」をそなえた当曲のなかで息づいていた。3年半後に27歳で自ら世を去ってしまうコベインの、青春および人生の、長き平穏な永続と引き換えに得た、身を削って燃やした炎が、この1曲のなかにあった。

こちらもどうぞ。

(次週は最終回。全体の振り返りを行います。土曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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