グーグルはメタバースを目指さない
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グーグルはメタバースを目指さない

4章⑥ GAFAMのメタバースへの取り組み

光文社新書編集部の三宅です。

岡嶋裕史さんのメタバース連載の26回目。「1章 フォートナイトの衝撃」「2章 仮想現実の歴史」「3章 なぜ今メタバースなのか?」に続き、「4章 GAFAMのメタバースへの取り組み」を数回に分けて掲載していきます。今回はその6回目です。

ウェブ、SNS、情報端末などの覇者であるGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)はメタバースにどう取り組んでいくのか? 果たしてその勝者は? 各社の強み・弱みの分析に基づいて予想します。

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前回に続いてグーグルの動向を見ていきましょう。

※下記マガジンで、連載をプロローグから順に読めます。

4章⑥ GAFAMのメタバースへの取り組み

グーグルはVRよりAR?

 グーグルはフラットなインターネットの支配者であったが、SNSでのビジネス展開には失敗している。ウェブからSNSへ移行した利用者が、さらにメタバースへの道をたどり、そこに多くの時間を費やすのであれば、是が非でも奪いに行かなければならない市場である。

 グーグルはインターネット文化の先駆者であり、リアルビジネスにも深く食い込んでいる企業でもあるため、そのメリットを引き出しつつメタバースの果実ももぎ取りたい。

 したがって、それはメタバースよりは、リアルに寄ったARを志向するものになる。この点は、現状でリアルでのビジネスから大きな収益を上げているわけではないエピックなどとは、決定的に異なる。

 エピックの場合は、リアルやミラーワールドでグーグルと互して戦うことは無理だ。その決着はもうついている。だから、リアルとは異なるメタバースに進出するしかない。

 グーグルはメタバースもARも選べる位置にいるので選択肢は広いが、先に述べた理由から、よりARを志向するだろう。メタバースには乗り遅れており、すでに先行者利得を独占するチャンスは失われつつあることも、これを後押しする。

 グーグルの戦略を端的に表すのは、グーグルグラスである。スマートグラスに分類される表示装置だ。

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グーグルグラス

 スマートグラスとは、端的に言えば情報化されたメガネである。通常、私たちがメガネをかけて見る視野の中に、情報が表示される。CPUとメモリ、カメラ、マイク、各種センサーなどを備えているので、将来的にはスマートフォンを置き換えるポテンシャルがある。

 スマートフォンはあくまで手に持って使うものであって、意識せずにふだんの視野と、コンピュータが表示する情報が融合されているとは言いがたい。リアルとサイバー空間の融合を本当に実現し、ふだんの視野の中で、目に見えるものの説明や商品価格の表示、危険な車や自転車の警告を見せるのであれば、メガネやコンタクトレンズがもっとも自然な形である。

 コンタクトレンズ型の表示端末は、最近ではスマートCLなどと呼ばれ、日本でもメニコンなどが積極的に研究開発を行っている。

 ただし、コンタクトレンズ型はそれ自体にプロセッサを持たせることは難しいので、スマートフォンやPCなど何らかの「母艦」が必要になる。外部機器との接続性を考慮しても、今のところスマートフォンを代替する機器の本命はスマートグラスである。

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スマートCL

グーグルがメタバースに取り組む意義は薄い?

 似ているようでも、VRヘッドセットとは到達目標が違うことに注意して欲しい。VRヘッドセットはミラーワールド的なコンテンツを作ることもできるが、メタバースとして1から世界を作ることもできる。そして、いまイノベーターたちが開発、実装しつつあるコンテンツは、メタバースに属するものが多い。

 反対に、スマートグラスはその性質上、リアルの風景に情報を重ねて表示する形態しか取りようがない。ARなのである。そう、グーグルが次に作りたいプラットフォームは、リアルの層に、デジタル情報の層を載せたARである。これが、グーグルが最もその既存資産と既存技術を活かすことができる次世代プラットフォームのあり方だ。

 リアルに強く紐付くことは、リアルのコミュニケーションやビジネスを強く後押しする反面、リアルとの関係を絶ち、自分の好きな世界を構築したいニーズとは相反することになる。

 実際、グーグルの次世代プラットフォームビジネスはBtoB志向を強めている。

 グーグルの個人情報保護に対する不信感からグーグルグラスが一般利用者から総スカンを喰らい(グーグルグラスにカメラを搭載したことが議論の的になった)、一般消費者向けの製品(B to C)としては開発停止を余儀なくされたことも一因だろう。

 グーグルはこの技術を捨てることはしなかった。その後も開発を継続し、企業向け製品(B to B)として投入した。それは、ロジスティクスや医療、製造の分野に根付きつつある。ちょっと考えただけでも、これらの分野とARの親和性は高そうだ。患者さんと話をしつつ、カルテや疾病情報、投薬履歴などを見ることができたら、診断の精度と生産性は向上する。スマートグラスなしだってこれらのことは行われているが、カルテをひっくり返して時間がかかったり、ディスプレイに集中するあまり患者さんを見なくなる事例もある。

 私はネットワーク屋なので、天井裏に入ったりすることもあるが、その場でマニュアルが読めたらどんなにいいだろうと思うケースはままある。分厚い説明書と懐中電灯を持ってフリーアクセス床にもぐることは不可能ではないが、とんでもなく面倒である。現物に重ねて、視界に説明書を上書きするなどできるARは、産業の生産性も向上させる。

 こうした用途に市場が見込め、かつリアルビジネスとのこれまでの強い結びつきから先行者のポジションを取れるグーグルが、がりがりとメタバースを開拓する意義は乏しい。むしろ、せっかくのアドバンテージを削いでしまうことになるだろう。

 だから、グーグルの戦略は今後もグーグルグラスやグーグルホームでリアルとサイバーの間隙を埋め、両者を融合する方向でデザインされることになる。その場合、メタバースへのシフトが急速に進行することがリスクだが、メタバースで必要不可欠なデータセンタをおさえることでヘッジをはかるだろう。データセンタが提供する処理能力と記憶能力は、シナリオがメタバース側に転んでも、AR側に転んでも求められるものだからだ。(続く)

※下記マガジンで、連載をプロローグから順に読めます。



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