マイクロソフトの仮想現実への取り組みはミラーワールド路線か?
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マイクロソフトの仮想現実への取り組みはミラーワールド路線か?

4章⑧ GAFAMのメタバースへの取り組み

光文社新書編集部の三宅です。

岡嶋裕史さんのメタバース連載の28回目。「1章 フォートナイトの衝撃」「2章 仮想現実の歴史」「3章 なぜ今メタバースなのか?」に続き、「4章 GAFAMのメタバースへの取り組み」を数回に分けて掲載していきます。今回はその8回目です。

ウェブ、SNS、情報端末などの覇者であるGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)はメタバースにどう取り組んでいくのか? 果たしてその勝者は? 各社の強み・弱みの分析に基づいて予想します。

本記事ではマイクロソフトの動向に焦点を当てます。

※下記マガジンで、連載をプロローグから順に読めます。

4章⑧ GAFAMのメタバースへの取り組み

マイクロソフトの底力

 マイクロソフトもアップル同様、リアルが大好きなIT企業だ。その創業は1975年、リアルとサイバー空間の融合はおろか、インターネットの商用利用解禁すらまだ15年先の未来である。OSとインタプリタが渾然一体としたパソコン向けのソフトウェアを、カセットテープメディアで配布していたのだから、そのビジネスの軸は確実にリアルにあった。

 この会社のすごいところは、コンピューティングにおける何回かのパラダイムシフトを経験して、なお稼げる組織として生き残り続けていることである。

 CUI(キーボード中心の操作)がGUI(アイコンとマウスを軸にした操作)になったときも、OSの地位をブラウザが奪ってしまうのではないかと危惧されたときも、ソフトウェアの売り方がパッケージからサブスクリプションに変更されたときも、計算処理を個々のパーソナルコンピュータではなくクラウドで行うようになったときも、なんだかんだと生き残ってきた。

 OSがハードウェアの付属品ではなく、OSがむしろコンピューティングの中心であり、OSに合わせてハードウェアの設計を行わせるパラダイムシフトが生じたときには、それを主導する勢力だった。

 もっとも、その企業ヒストリーの前半期ではこうしたパラダイムシフトを作り出し、それを乗り越える度に企業規模と売上高を倍増させてきたが、21世紀に入ってからは他社が作り出した潮流に翻弄され、一時その地位を危うくするも、地力で挽回する展開が目立つ。

 それでも一度作り出した帝国の資産は膨大だ。まさにOSは資産ビジネスであって、この半世紀でMS-DOSやWindows向けに作られてきたソフトウェアの蓄積を、他社がこれから凌駕することは難しい。デスクトップPCやノートPCがコンピュータ利用の形態としてある限り、マイクロソフトは一定の存在感を残し続けるだろう。

 マイクロソフトの現時点での収益構造はこうだ。何回かの修羅場をくぐって変身を遂げてきた企業であることを誇示するかのように、バランスよく各製品で売上を立てている。

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 主力商品であるかのように見えるWindowsはオフィスやアズールに及ばないが、これはコンシューマゲーム機メーカが赤字覚悟でハードを売り、ゲームソフトで儲けるのと同じである。Windowsというプラットフォームが世界に浸透しているから、高い利ざやでオフィスを売れるのだ。

 アズールはクラウドサービスのブランドで純度100%のインターネット利用サービスである。オフィスに関しても、サブスクリプション販売が主流になっている。その後にゲーム(Xbox)や検索サービス(Bing)、ビジネスSNS(Linkdin)が続く。

 売上高は1100億ドル、純利益は160億ドルとGAFAMでは最も小さな部類に入る(フェイスブックは売上高560億ドルだが純利益は220億ドルもあり、アマゾンは純利益が100億ドルだが余計な利益は出さない方針の会社なので単純比較は危険である。アマゾンの売上高は2300億ドルもあるのだ)が、単一の製品やサービスに依存しておらず、そこが強みになっている。

 総じて面白みもないが隙もない、倒れない商品構成である。ビジネスに強力な基盤を持つが、Windowsやオフィスはコンシューマにも浸透している。このマイクロソフトが仮想現実と関わるとしたら、その方向性はアップルと同様になる。

HoloLens

 マイクロソフトはアップルと違って利用者が手に取るリアルなガジェットを売っているわけではないが、リアルに根ざして創業し、リアルビジネスで使われる情報システムの中核部分に深く食い込むことに成功している。ミッションクリティカルな、それが止まってしまえば社会が大混乱に陥るような製品を、GAFAMのなかで一番握っている企業である。焦ってそれを手放す必要はどこにもない。

 だから、マイクロソフトのアプローチも、AR(拡張現実)が主体である。現業に強いのだ。いま蜜月関係を結んでいる優秀なパートナーとともに、次世代プラットフォームを構築していこうと考えるならば、立脚点がないメタバースよりARのほうがずっと上手に製品化することができ、顧客も喜ぶだろう。

 実際にマイクロソフトはxR(Extended reality:現実世界と仮想世界を取り扱う技術の総称。VR、AR、MRも含まれる)でビジネスをする相手はまず企業と定め、しれっと製品化を済ませている。HoloLensである。代替わりして今はHoloLens2になっている。グーグルやアップルがコンシューマ向けのARデバイスで苦しむ中、企業向けに着々と地歩を固めているのだ。

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HoloLens

MR(Mixed Reality:複合現実)

 ところで、マイクロソフトはホロレンズをARデバイスとは謳っていない。MR(Mixed Really:複合現実)と呼んでいる。確かにその筐体を観察しても、何やらVRヘッドセットとスマートグラスの中間的な形態である。

 VRの場合は、視界に映るすべてをコンピュータが構成した映像で見せるので、高いコンピューティング能力が必要になり、筐体がごつくなる。外界を見る必要はないので、利用者の目は覆われている。

 ARは逆に利用者の目に入る基本的な情報は、ふつうの視覚情報である。裸眼で見るのと同じ情報を使うのだ。あくまでもリアルのブツが主体であり、そこへ説明情報や価格情報を重ねて表示する。だから筐体はメガネ状でなければまずいし、メガネとして認知されるなら重たくするわけにもいかない。

 リアルな環境下で使うのであれば、VRヘッドセットと違って一日中装着する使い方が標準になるから、その意味でも軽くしなければならない。幸い説明情報などの表示はさほどの計算能力を要求しないので、スマートグラス単体や母艦としてのスマートフォンで提供することができる。

 MRはこの中間なのである。MRは(マイクロソフトの定義では)リアルに立脚しつつも、単にそこへマニュアルや商品の値段を表示するだけでなく、たとえばカーテンの色が今日の気分にあわないので、リアルのカーテンに覆い被せるかたちでバーチャルなカーテンを表示しようといった使い方をする。

 洋服もそうだ。いまいち冴えないとか、新しい洋服を買うお金がないときに、本物の洋服の挙動に上書きする形でバーチャルな洋服を表示する。自分が見ているぶんには新調の衣装に見えるので、気分があがるだろう。他人から見たら同じ着古しのままだが、そこも(社会に認めてもらえれば)技術的には同期させることができる。

 カーテンや衣装の例は卑近すぎて、高額なホロレンズ(約40万円:業務用だから高いのだ)を買う理由としては弱すぎるが、遠隔医療や建設、製造の現場で活用すると業務の可能性が増し、高い生産性やイノベーションを生み出すことになる。まさにマイクロソフトの昔からのパートナーにぴったりのxRソリューションである。

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HoloLens事例

ミラーワールド

 残念ながら用語としてのMRはマイクロソフトが企図したほどには広まらなかったが、ミラーワールドという概念は(マイクロソフトが言う)MRそのものだろう。

 リアルとそっくりの(つまり、リアルといっしょで、利用者にとって不都合な現実も含めて再現された)デジタルツインがあるわけだ。デジタルツインはリアルとそっくりなだけで、リアルとは切り離された世界だが、ミラーワールドではリアルとデジタルツインがリンクする。リアルで何かアクションを起こせばそれはデジタルツインでも再現され、デジタルツインで作業をすればリアルにそれが波及する。

 エンターテイメントとして面白いかどうかはわからず、むしろ危険でもあるが、医療や製造などの業界と密接にリンクしたマイクロソフトにとっては、理想の仮想現実のあり方だろう。

 Xboxなどメタバースに親和性の高い製品を持ってはいるが、マイクロソフトの仮想現実へのアプローチは、基本的にはミラーワールド路線で進むはずである。(続く)

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