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超長寿時代、私が「インプラントより入れ歯」をおすすめする理由(五島朋幸『死ぬまで噛んで食べる』)

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訪問歯科医の五島朋幸氏は、1997年に歯科の訪問診療を開始してから、口腔ケアについて気づいた大切なことがたくさんあるといいます。歯の治療や口腔ケア、そして「食べること」と生きることの関係について、間違った思い込みから脱し、今日からできる正しい方法をお伝えします。

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差し歯とインプラントとの違い

虫歯や歯周病、あるいは事故など、何らかの事情で自分の歯を失った場合、噛み合わせに支障がなければそのままにすることもありますが、たいていは何らかの方法で新たな歯を入れます。

歯の根っこがいい状態で残っていれば、自分の歯根に人工の歯を差し込む「差し歯」が可能です。

この差し歯を「インプラント」と勘違いしている人が時折いますが、インプラントは歯根を抜いて、顎の骨に金属製の歯根を埋め込み、その上に人工歯を取り付けたものです。

したがって、自分の歯根を生かす差し歯とは、まったく異なる治療法です。

ブリッジ、部分入れ歯、総入れ歯

歯根がもろかったり割れていたりして、差し歯に耐えられない状態のときは、「ブリッジ」を入れます。

ブリッジとは、文字通り〝橋〟を架けるように、両側(または片側)の歯を支柱にして、失った歯の上に人工歯を架ける方法です。

ブリッジは、支柱となる歯に接着してしまうため取り外しができませんが、取り外しのできる「部分入れ歯」にすることも可能です。

歯を大量に失って噛み合わせがない場合や、歯がまったくない場合には、「総入れ歯」などを入れます。

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インプラントの増加


このように、歯を失っても、失った度合いに応じて補う方法があるのですが、近頃はインプラントを入れる人が増えています。

見た目がきれい、機能的に自分の歯に近いといったことが大きな理由であり、確かにそれらはメリットなのですが、私はお勧めしません。

インプラントは保険がきかず高いからではなく、死ぬまで噛んで食べるには、インプラントよりも入れ歯の方が優れていると思うからです。

インプラントは堅牢でも、その周囲は衰え、変化する


「今、機能的に自分の歯に近いと言ったじゃないか。だったら、インプラントの方が優れているんじゃないの?」と、思われたかもしれませんね。

確かに、健康なときにはインプラントはいいと思います。

しかし、人は必ず年を取ります。

加齢とともに、インプラントの周囲の歯茎や、インプラントを埋め込んだ顎の骨も、衰えていきます。

高血圧や糖尿病などや、あるいは薬の影響によって、歯茎や骨の状態が悪くなることもあります。

インプラント自体は堅牢でも、その土台となる骨や周囲の歯茎は衰え、その影響で不具合が起こることがあるのです。

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手入れを怠ると、炎症を招くことも

また、インプラントは日常の手入れがかなり面倒です。

自分の歯の場合は、歯茎が歯にぴったりくっついていて、細菌などが容易に入り込めないようになっています。ところがインプラントにはそのような構造がないため、細菌が容易にインプラントと粘膜の間に入ってしまうのです。

したがって、専用の歯ブラシなどを使って念入りに歯磨きをしないといけませんし、定期的に歯科医院に行ってメンテナンスしてもらう必要もあります。

これを怠ると「インプラント周囲粘膜炎」になり、さらに進行すると、歯周病と同様に顎の骨が溶ける「インプラント周囲炎」になって、インプラントを抜かなければならなくなります。


高齢になったときに、入念な手入れができるか

しかし、高齢になったり認知症になったりしたとき、毎日の入念な手入れができるでしょうか?

しかもインプラントを抜く際には外科手術ですから、歯科医院では対処できない場合もあり、その場合は口腔外科のあるような大きな病院に行かなければなりません。

寝たきりになったりしたら、いったいどうなるのでしょうか。

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差し歯やブリッジなら、訪問歯科でも対処可能


もちろん、差し歯やブリッジでも、入れ歯でも自分の歯でも、歯茎が炎症を起こして治療しなければいけない、歯周病になって抜かなければいけない、といったことは起こります。

とはいえこれらの場合は、歯科医院でならばもちろん対処可能ですし、寝たきりになったり認知症になったりして歯科医院に行けない場合は、訪問歯科診療も可能です。

大掛かりな装置が必要ないためで、私のような訪問歯科医を家に呼んで、治療したり入れ歯の調整をしたりしてもらえばいい。

そうすればまた、噛んで食べられるようになるのです。

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あとあとのケアまで考えた選択を

ただし、ここに記したことは、あくまでも可能性です。インプラントでトラブルなく、死ぬまで噛んで食べられる人もいます。

唾液の出が少ないために、入れ歯を入れると痛みがあり、インプラントの方が適している人もいます。死ぬまで噛んで食べるための選択は人それぞれです。

ですが、私としては、ほかの方法が採れるのであれば、インプラントにする前に、まずはそちらを試してみることをお勧めします。

最も保存的な方法から試してみること、手をかけすぎないことが、あとあとのケアを楽にしてくれるのです。

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以上、五島朋幸著『死ぬまで噛んで食べる――誤嚥性肺炎を防ぐ12の鉄則第1章より抜粋してご紹介いたしました。

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五島朋幸(ごとうともゆき)
1965年広島県生まれ。日本歯科大学卒業。博士(歯学)。歯科医師、ふれあい歯科ごとう代表。新宿食支援研究会代表。株式会社WinWin代表取締役。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。東京医科歯科大学、慶応大学非常勤講師。1997年より訪問歯科診療に積極的に取り組み、2003年ふれあい歯科ごとうを開設。地域ケアを自身のテーマとし、クリニックを拠点にさまざまな試みを行い、理想のケアのかたちを追求している。
2003年よりラジオ番組『ドクターごとうの熱血訪問クリニック』パーソナリティーも務める。著書に『愛は自転車に乗って』『訪問歯科ドクターごとう①』(以上、大隅書店)、共著に『口腔ケア〇と×』(中央法規出版)、『食べること生きること』(監修、北隆館)など多数。


光文社新書『死ぬまで噛んで食べる――誤嚥性肺炎を防ぐ12の鉄則』(五島朋幸著)は、全国の書店、オンライン書店で発売中です。


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