【21位】ザ・ビートルズの1曲―バロックでハードボイルドな悲嘆が、救われなさを荘厳に
「エリナー・リグビー」ザ・ビートルズ(1966年8月/Parlophone/英)
※こちらはアメリカ盤シングルのジャケットです
Genre: Baroque Pop, Art Rock
Eleanor Rigby - The Beatles (Aug. 66) Parlophone, UK
(Lennon–McCartney) Produced by George Martin
(RS 138 / NME 11) 363 + 490 = 853
※22位、21位が同スコア
彼らが成し遂げた音楽的革新の数々のなかでも、屈指のひとつ。ビートルズ、頭ひとつ抜けた5曲目のランクインは「メンバーがだれも楽器を弾かなかった」これだ。
当曲のバッキングは、外部ミュージシャンによる弦楽八重奏だった。ヴァイオリンを4本、ヴィオラ2本、チェロ2本を使用した。ストリングス・アレンジはプロデューサーのジョージ・マーティン。前年の65年に発表された「イエスタデイ」でも四重奏が起用されていたが、あっちにはまだポール・マッカートニーのアコースティック・ギターがあった。こっちはギターどころか、ドラムスも、ベースも、ピアノも、一切なし。ポップ音楽「らしい」楽器は皆無のまま、ただただ芯が太く迫力ある「弦の音」が鳴り響く。クラシック音楽ならば「あり得ない」ほどマイクを楽器に寄せて、この音は録られた。
楽曲の構造もポップ離れしていた。コードの発見よりもずっと前から脈々と流れる「モード」に寄り添い、エオリアンとドリアンを使用。これがメロディ・ラインとバッキングのあいだに、独特の緊張した状態を生み出している。一般的なポップ音楽にはない、荘厳にして格式ばった感じ。言うなれば「とっつき悪さ」――のもと、人の孤独のありようを歌う。だれにも顧みられず、いつの間にか草木が枯れるように死んで、そのあとも救済はない、ただそれだけの人生が「2分少々」のあいだに、一筆書きのように描き出されていく。教会のまわりをうろつき、教会のなかでひとり死ぬ女性、エリナー・リグビーと、たったひとりで彼女を埋葬する、やはり孤独な神父マッケンジーの2人が、登場人物だ。
天然の「残酷」とでも言おうか。救いのない事象を無慈悲に、ただそのままに投げ出す態度は、のちの世のレイモンド・カーヴァー(のバロック歌劇版)みたいでもある。こんな題材を「ここまで振り切った」音楽性で表現したポップ・ソングは、史上初だった。ソングライティングはマッカートニーが主導し、他メンバーの協力のもと仕上げられた(が、貢献内容については諸説ある)。ジョン・レノン、ジョージ・ハリスンはハーモニー・ヴォーカルで参加。リンゴ・スターは、ここではなにもしていない。だが当曲は彼が歌う「イエロー・サブマリン」との両A面シングルとして発表、全英1位を記録。アメリカでは各面を個別にカウントする方式のため、HOT100では「イエロー・サブマリン」が2位、当曲は11位が最高位だった。同時発売のアルバム『リヴォルヴァー』(『教養としてのロック名盤ベスト100』にランクイン。順位はここでは秘密)にも収録されていた。
(次回は20位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)
※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki