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コロナ禍に負けず、人生を好転させる生き方を「マッチョ男子」に学ぶ | 辛酸なめ子 #18

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「全人類筋トレすべき」

コロナで健康不安がつのる中、筋肉をホメたたえる「マッチョ音声」に励まされました。文字通りパワーワードの数々。マッチョボイスには女性ホルモンを活性化させる効果が期待できそうです。そんなマッチョ音声やマッチョのシュールな写真素材を集めたコンテンツ「マッスルプラス」が話題です。先日制作会社の人とコンタクトが取れたので、今の時代だからこそ求められている筋肉の大切さや、マッチョ処世術について取材させていただきました。

待ち合せ場所のカフェに現れたさわやかな男性は、株式会社スマイルアカデミーのAKIHITOさん。マッチョを500人抱えているマッチョ専門の企画会社だそうです。私もかつて「マッスルカフェ」や「マッチョかき氷」など数々のマッチョイベントに伺ったことがありました。

「マッチョかき氷」はタンクトップ姿のマッチョなイケメンが「サイドチェスト、抹茶チェスト〜!」などと叫びながら、プロテイン入りのシロップを飛び散らせ、ワイルドに氷を削っていたのが印象的でした。「マッチョカフェ」は大人気でひとりで数時間並んでやっと入れた思い出が……。

でもAKIHITOさんに聞くと「それは別の会社かもしれません。ただ、現状マッチョで生き残っているのはうちしかないです」とのこと。あの時のマッチョな方々は今お元気なのか気になりますが……コロナ禍を乗り越えているAKIHITOさんにぜひポジティブマッチョな生き方を伝授していただきたいです。

「全人類筋トレすべき。デメリットはなくて、ポジティブな要素ばっかりなんじゃないかと思ってますね」と、AKIHITOさんはおっしゃいます。

以前、スポーツトレーナーの人に「人生、筋肉が全てです!」と言われたことがあります。つい心配したりネガティブなことを思ってしまう私は筋肉不足なのかもしれません。少しの時間ですがヨガやストレッチをしている間はネガティブな思いが浮かばないような気がします。

「ネガティブなマッチョは見たことないですね。トレーニング中はポジティブです」と、AKIHITOさん。でもご自身も昔は痩せていて筋肉も薄かったとか……。

「小さい頃は未熟児で小児喘息持ちで、体もガリガリで、小学校の時は病弱でした。コンプレックスが強くて、大きくなりたい、強くなりたいと思っていて、陸上競技をはじめたんです。その後、筋トレも本格的に始め、体も徐々に大きくなっていって、体が変わってくると自信が持てるようになる。自信が出るといろんなことに対してポジティブにのぞめるんです。人生も好転してきました」

筋肉がポジティブシンキングの原動力。鍛えて筋肉を追い込むトレーニングはやりがいがある反面、キツそうです。

「ハードなのはハードなんですけどそれも効いてるって感覚があるんでやってます。追い込んだぶん成長する。そして性格も運気も改善されます。うまくいなくなってり凹んだりすることはもちろんあるんですけど、無心で追い込むとスッキリして、ま、いっかと思う」

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故・森光子さんもスクワットで足腰を鍛えていた

ほぼ毎日筋トレしていて、年末年始もクリスマスも筋トレしているというAKIHITOさん。仕事としてパーソナルジムを展開し、毎日公私ともにトレーニングの日々です。

「背中の日、脚の日、部位ごとに毎日わけているのですが、脚のトレーニングがめちゃめちゃハードでちょっと憂鬱なんです。吐きそうなくらいになるんで。そんなキツいことを毎週やっているんで、これよりキツいことはそうそうないだろうって。ま、いっかってなります」

参考までに……と言っても絶対やらないですが、どんなトレーニングをされているのか聞いてみると、

「バーベルやダンベルを担いでスクワットとか。脚の筋肉量は全身の中でも多くを占めるので、稼動させると酸素がかなり使われて苦しいし、乳酸量が増えて気持ち悪いんです。ヒップアップにはかなり有効ですが」

女性としてヒップアップには興味がありますが、ダンベルを担いでとは、リスクがかなり高いです。

「大腿四頭筋が鍛えられますが、正しいフォームでやらないとぎっくり腰になる危険も」

バーベルやダンベルは持たないまでも、故・森光子さんがスクワットをされて老後も足腰を鍛えていたことを思うと、スクワットはやっておいた方がいいということでしょうか。テレビなどでスクワットのやり方などを見てちょっとまねしたりするのですが一日で忘れてしまいます……。

「老後、筋肉の低下で足腰が弱って動けなくなるので、予防するためにもスクワットくらいは続けられる方がいいと思いますね。ふだん運動していないと姿勢や筋膜が固まっているので、ストレッチポールなどに乗ったりして筋膜リリースをしてあげるといいですよ。しっかり日頃から運動していったほうが、老後、認知症も防ぎやすいです」

「筋トレすればGDPが上がります」

「老後」の話がよく出てくるのは私が年齢感を漂わせているせいでしょうか……。

するとAKIHITOさんは「筋トレすればGDPが上がります」とまたパワーワード的なことを言い放ちました。

「労働人口が減少し、内需が減って経済が停滞している現状があります。人口減少を防ぐことはできなくても、高齢者の寿命は伸びているので、健康寿命を伸ばせば良いのです。40代を超えると疾病のリスクが増えてきます。40代50代になる前から運動し,食事の管理をすれば、病気のリスクを下げられて、労働力を担保しやすくなります。70代80代になっても働けるスーパーシニアを増やせばGDPが上がります」

たしかに寿命だけ伸びても、健康寿命が低いと働き続けられないので、老後の貯蓄が心配です。筋肉を鍛えれば若者に交じって働けるかもしれないと希望がわいてきました。

「筋トレすることでポジティブになって仕事にも良い影響与えられます。ただ日本人はフィットネスジムに行っている人の割合がめちゃめちゃ低いんです。アメリカは2割ですが日本は2・3%。少子高齢化なのにフィットネス人口低いのは良くないです。大それたことですけど、僕はフィットネス率を上げて経済活動活発化につなげたいと思っています」

コロナ禍でますますジムに行きにくい現状がありますが、最近はオンラインでも指導を受けられたり、Youtubeにトレーニング方法が上がっていたりするので、気軽にはじめられる風潮に期待したいです。

いっぽう女性も男性も30代を超えてから体型が崩れてきたりして、あきらめモードになる人も多いと思いますが、AKIHITOさん的には、体型を全く気にせず運動もしない人はどう思われているのでしょう……。

「強制は全くしないけど運動した方がいいなって思いますね。健康上のリスクが高まってしまって病気になってしまわないかなって心配です。しっかり運動してる人としてない人では、見た目年齢も差が開いてしまうように思います。マッチョはターンオーバーが活性化しているからかお肌がきれいな人も多いです。僕は運動だけじゃなくて日頃の食事も制限してます。ごくたまにスイーツとか食べたりしますが3日位続けると気持ち悪くなってくる。たまにビザやパスタも食べますが油が気持ち悪くて受け付けられなくなったり。それを日々溜め込み続けてるのは大変だろうなって気がします」

それを聞いて、昨日はパスタやロールケーキやクッキーを食べて甘いラテを飲んで、今日もクッキーと甘いドリンクとコロッケと菓子パンとパスタを食べている自分は相当悪いものを溜め込んでいるというか、歩く脂質女なのかもしれないという気がしてきました。

「糖質はGI値(血糖値の上昇を示す指標)が低いものを選んだり、トレーニング前後に摂るなど摂取するタイミングに気を付けています。どちらかというと洋菓子より和菓子が脂質が少ないので、和菓子を食べることはありますね。よく食べるのは胸肉、魚、豆腐、納豆、ブロッコリーなど。唐揚げやコロッケとか揚げ物は食べないです。脂質をとるなら魚かナッツ。プロテインはトレーニング後に摂取します。はじめはちょっと辛かったけど、この生活に慣れてしまって今は苦にならないです」

と、AKIHITOさん。マッチョ男子はストイックです。ちなみにお米の場合、あったかいごはんより冷めてるおにぎりの方がGI値が低いそうです。あえて冷や飯を食う……すごい精神力でもはやマッチョのMはSMのMに思えてきます。

「お酒はプラスにはならないので、あまり飲まないですね。アルコールをとりすぎると筋肉分解するリスクがあるので。僕の周りでもトレーニングやってる人は飲まないです」

世の中の享楽的なライフスタイルとは無縁のマッチョ男子。楽しみはというと、やはり自分の筋肉が育ってきたのを実感するのが一番の快感なのかもしれません。

「冷蔵庫!」「足がゴリラ!」
「背中に鬼神が宿ってる!」
「その腹筋で流しそうめんやろう!」

ボディビル大会では、筋肉をホメるかけ声が飛び交っていて、そのかけ声がマッチョ男子のモチベーションと快感を高めているのでしょう。「キレてる!」「ナイスパルク!」というのはよく聞きますが、おもしろいかけ声を聞いてみました。

「『大胸筋が歩いている』とか、『冷蔵庫!』『足がゴリラ!』というのもあります。すごいデカい感じです。『そこまで絞るには眠れない夜もあっただろう!』という長いかけ声も。『背中に鬼神が宿っている!』『背中にクリスマスツリー』『肩メロン収穫祭だ!』という、筋肉の形にちなんだかけ声もあります。腹筋がボコボコに割れている人に『その腹筋で大根おろせそう!』『その腹筋で流しそうめんやろう!』というのもありました」

すごいワードセンスで、筋肉を鍛えると発想力も高まるのでは、と期待させられます。筋肉は人生でもあり,芸術でもあります。

「十数年かけて作り込んでいくので、どんな造形物より時間かかってる。それを仕上げることは芸術の一つかなと思ってます」

人生のやりがいを見失ったら、筋肉を鍛えたら良いのかもしれません。全ての希望が筋肉には宿っています。筋肉のポテンシャルを信じてコロナ禍を乗り越えたいです。

マッチョのパワーワードに感化されて、かなり久しぶりにパーソナルストレッチのジムに行って、なまった体を鍛えてきました。小一時間体を動かしたら、次の日頭痛と吐き気でダウン……。やはり悪いものが溜まりすぎていたようで、常日頃の運動が大切です。

今月の教訓

筋トレすると、ポジティブになって老後も安心。筋肉は裏切らない。

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著者プロフィール

辛酸なめ子(しんさん なめこ)
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。 漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『大人のコミュニケーション術』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『霊道紀行』(角川文庫)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、最新刊に『女子校礼讃』(中公新書ラクレ)がある。

好評既刊『新・人間関係のルール』

好評既刊『大人のコミュニケーション術』

『新・大人のマナー術』バックナンバー


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