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「運命」に要注意! 見抜きたい、詐欺師の特徴と手口 | 辛酸なめ子 #14

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運命の出会い

コロナ前のホームパーティで、参加者のひとりの美女が、男性と運命的な出会いをしたと語っていて、その時皆で祝福したことが記憶に残っています。

彼女は、「全ての趣味が合うんです。釣りやダイビングなどのアウトドア系や器など」と語っていて、そんな運命の出会いがあるのかと羨望の念を抱きました。ただ一人、その場にいた敏腕女性編集者が「全部の趣味が合うなんておかしいよ」と言っていましたが……。

ちなみに私の父も何度か不必要な高額リフォームを契約されていたのですが、リフォーム会社の人が偶然同じ誕生日だとか言ってきて運命を感じたと語っていました……。

世知辛い世の中なので、運命を感じさせられたらまず疑ったほうが良いかもしれません。

「ああ、あの人詐欺師だったんです」

それから時が経ち、先日その女性と少人数のホムパで再会。「そういえば前回のホムパで、運命の男性と出会ったって言ってましたよね。その人とはどうなったんですか?」とつい聞いてみたら「ああ、あの人詐欺師だったんです。カンパーイ!」とグラスが合わされ、吹っ切れたように笑う彼女。

いったい1年半の間に何があったのでしょうか。

今警察が動いているとのことで、あまり詳細は書けませんが、結婚詐欺に遭った上、その男性に仕事も頼んでいて、諸経費を含めて1500万円を失ったそうです。かなりの大金ですが、詐欺師X氏は他にもたくさん詐欺をしていて男性相手には投資詐欺、女性相手には主に結婚詐欺で総額2億円をだまし取って、逃亡しているとか。

転んでもタダでは起きないタフな彼女は、「レジリエンヌ・ベラ」というペンネームで、インスタやツイッターアカウントを開設。その体験を漫画にして発表していくそうです。

レジリエンヌさんの活動を応援しつつ、今回は詐欺師男性の特徴や手口を伺い、後学のためにまとめさせていただきます。

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「あなたのような女性を10年探していました」
「君こそ運命の女性だ!」

出会いはマッチングアプリ。X氏は50代でプロティールに「バツイチ 経営者 年収1500万円」などと書いていました。誠実そうなメッセージでLINEに誘導されて、そこでのやりとりを経て会うことになったレジリエンヌさん。

待ち合せ場所にドキドキしながら向かうと、そこにいたのはシャツのボタンを4つくらい開けて、靴下がやたら派手で、レイバンのティアドロップ型サングラスをかけた見るからに怪しい男性。ティアドロップ型サングラスといえば稀代の結婚詐欺師クヒオ大佐もそんなテイストのものをかけていたような……。

ともかくX氏の姿をひとめ見て帰りたくなったレジリエンヌさん。女の直感はだいたい当たりますが、その直感をフリーズさせ思考停止状態にさせるほどX氏の押しが強く、「あなたのような女性を10年探していました」「君こそ運命の女性だ!」などと時には涙ながらに説得。レジリエンヌさんの心の隙間に入り込んできたそうです。最初の悪趣味なファッションも、次はTシャツにジーバン、黒ぶちメガネといういいお兄さん風スタイルに全身イメチェンしてきて(しかも手には花束)、レジリエンヌさんの心は動かされました。そしてついに交際することになり、アウトドアの趣味にもX氏は器用に合わせてきたそうです。

詐欺師は臨機応変に対応できる能力を持っています。ちなみにレジリエンヌさんの趣味についてはSNSなどで綿密に下調べしていたという説が。「この器、僕も持ってる」とか言ってきて運命感を盛り上げてきたそうです。

しかしX氏が一緒に暮らすために持ってきた大量の段ボール箱から異様な負のエネルギーが漂っていて、家の気が澱み、一気に居心地が悪くなったそうですが、箱の中には今まで騙した人々の資料が入っていたことがあとで判明。「仕事の資料だよ」と説明していたそうで、ある意味嘘ではなかったですが……。資料をファイリングして保管するなんて几帳面で、ちゃんと堅気の仕事を続けていたら成功したかもしれません。

ワニの霊がとり憑いている!

ここでレジリエンヌさんと仲が良く、私とも共通の友人であるYさんとMさんのご夫婦の話も紹介させていただきます。実際に何度もX氏と会ったことがあるそうですが、印象を伺うと……

「目が笑っていなくて、何ともいえないいやしさがにじみ出ていました」(Yさん)
「うなずき方が激しくて爬虫類みたいでした。とらえどころがなく、イラッとさせられます」(Mさん) 

Mさんのカンは当たっていたようで、後日レジリエンヌさんが有名な占い師にX氏の写真を見せると、「ワニの霊がとり憑いている」と言われたそうです。獲物に食らいついたら離れないワニの執拗さは、X氏に通じるものがあります。この話を聞いて「100日後に捕まるワニ」とか言って盛り上がりました。

半分以上あてはまっていたら要注意

他に詐欺師男子の特徴についてレジリエンヌさんに伺いました。もしパートナーや彼氏に半分以上あてはまっていたら要注意かもしれません。

・サングラスを愛用
目の動きや表情を隠すための詐欺師のマストアイテムのようです。 

・歩くのがやたら速い
あとで知ったそうですがX氏は探偵とヤクザに何度もあとをつけられたことがあり、常に誰かに追われているという意識があるのか、かなりスピーディーに歩いていたそうです。

・家に入る時など周囲をチェックする
時々家の周りを一周して、あとをつけている人や見張りの人がいないか調べてから玄関に入ることも。

・テレビを一日中付けっ放しにする
こちらは盗聴対策だそうです。会話を消すため音量が大きめだそうで迷惑な話です。コロナでステイホーム中、あまりにもうるさいので、レジリエンヌさんがやめてほしいと言っても聞いてくれず、ついには根負けしたとか。

・テレビで「警察24時」系の番組が流れたら即チャンネルを変える
やましいことがあるのか、自分の手口がバレると思ったのか、犯罪関係の番組は一切見ようとしなかったそうです。

・心がこもっていない感じですぐ謝ったり、嘘泣きする
「めっちゃ泣くんです」と、実際目撃したYさん。「これからはちゃんとします」と心にもないことを泣きながら言って、その場だけ乗り切ろうとします。でも時々、ドラマを見て泣いたり、お母さんの思い出を語りながら泣いたりするので、一瞬良い人かも、と騙されるそうです。

・周りの人間関係を分断させる
レジリエンヌさんの友人や仕事関係の人にあることないこと陰口を吹き込み、関係を断絶、孤立させ、囲い込んでントロール下に置こうとします。詐欺までいかなくてもこういう人、たまにいるような……。

・話を巧妙にすり替える
お金を奪って自分から逃げたのに、いつの間にか「追い出されたせいで鬱になった」と自分が被害者であるかのように言ってきたというX氏。他の詐欺被害者にも「君が僕に喜んでお金を貸してくれたんじゃないか」と言っていたそうで、盗人猛々しいというか事実をねじ曲げすぎです。また、このX氏の名前を検索すると、すでに詐欺師としてスレッドが立っていたそうですが、そのことについて突っ込むと「モテるから女性に恨まれる」「仕事で嫉妬されて足を引っ張られた」とか言いくるめてきたとか。

・言い訳が意味不明
同じことをリピートし続けて相手を根負けさせるのが得意技。また、いつまでもマッチングアプリをやめようしないことをレジリエンヌさんが咎めたら「アプリが癖になってるから」と意味不明なことを言ってやめようとしなかったそうです。論理が通じなくてエネルギーを消耗させられます。

・悪人同士は憎み合う
魔界には平和がないようで、「詐欺師がバッティングしたことがありましたが、お互いすごい嫌い合っていました」だそうです。詐欺師のバッティング、そんな修羅場があったとは……怖くてそれ以上聞けませんでした。

えげつない事実が次々発覚しながらも「もしかするとこの人は心を入れ替えようとしてがんばっているのかもしれない」と思って、すぐに縁を断ち切れなかったレジリエンヌさんですが、大金を目の前で持ち逃げされて限界に達したそうです。しばらくは眠れない日々を過ごしましたが、今は他の被害者の人々と結託し、警察にも動いてもらって、詐欺師も逮捕される見通しだとか。

こんな件があっても、人間不信にはならなかったというレジリエンヌさん。

「もう誰も信じられない、みたいなのはなかった。ただ疑う力はつきました」

だまされた人は、その経験を糧にしてさらに強くなったり、人の痛みに共感できるようになったり、カルマを解消したり、人生経験値が高まるかもしれませんが、詐欺師の心には平穏が訪れることはありません。今もどこかで、盗聴対策でテレビをつけっ放しにしたり、後ろを確認したり、誰かに追われていないかビクビクしているに違いないX氏。それが一生続くと思うと、やはり悪いことはしない方が良いと実感させられます。だまし取ったお金は負の貯金として後世や来世に持ちこされることでしょう……。

今月の教訓

運命を感じるよりも先に違和感を覚えたら、その直感を信じた方が良さそうです。

著者プロフィール

辛酸なめ子(しんさん なめこ)
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。 漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『大人のコミュニケーション術』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『霊道紀行』(角川文庫)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、最新刊に『女子校礼讃』(中公新書ラクレ)がある。

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