教養としてのロック名曲ベスト100【第4回】97位のナンバーは? by 川崎大助
「カム・トゥゲザー」ザ・ビートルズ(1969年10月/Apple/英)
Genre: Blues Rock
Come Together - The Beatles (Oct. 69) Apple, UK
(Lennon-McCartney) Produced by Geoge Martin
(RS 205 / NME 336) 296 + 165 = 461
早くも出たザ・ビートルズ。彼らのアルバムの多数が『教養としてのロック名盤ベスト100』のリストには挙がっていたのだが、そのうちのひとつ『アビー・ロード』(69年、第10位)のオープニング・ナンバーとなっていたのが、この「変わった」1曲だ。
この曲の最大特徴は「不穏だ」ということにつきる。いつもの共作クレジットだが、リード・ヴォーカルをとるジョン・レノンがほぼ独力で書いた、ブルース・ロックの名作だ。
冒頭から入る「シュッ」という音声が、まず不穏だ。そしてなにより印象的な、陰鬱に低くうねるベース・ライン……このパートが、後年、ヒップホップほかのアーティストに幾度もサンプリングされて「ループ」されることになった。ポール・マッカートニーによると、ここはベースとドラムスで「沼っぽい、じっとり感(Swampy)」のヴァイブを狙ったのだという。
こうした一種の抑圧された状態が、まるで呪いの歌のように延々続いていって、閉塞感満杯のままコーラスに入り、「いっしょになろう、いますぐに/僕の上で(Come together, right now / Over me)」のところで一応の暫定的な解放を得る、という作りだ。
歌詞は、レノンの平常運転のなかにある「ナンセンス・ソング」の範疇に入る。だからいかようにも深読みができる。歌詞のヴァース1から順に、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター、レノン本人、マッカートニーのことが戯れ歌っぽく触れられている、との見方がある。もっとざっくりと「ドラッグ・ソングだね」という意見も多い。
ただ出自ははっきりしていて、LSDの導師であり、サイケデリック文化の教祖である米心理学者のティモシー・リアリーがカリフォルニア州知事選に出馬を考えていて、レノンにキャンペーン・ソングを依頼したのが最初だった。そのときの原型をいじっているうちに「変化してこうなった」という。ちなみに結局リアリーは出馬せず、だからずっと州知事はロナルド・レーガンのままで、盛んにカウンターカルチャーを弾圧したあと、大統領になり冷戦を終結させた。さらにちなみに、のちにコンピュータのほうの「アップル」を作り世界を文字どおり変革してしまうスティーヴ・ジョブズは、リアリーの思想に感化された広義の門下生だった。
これらなんとも奇妙な群像が「いっしょに」なってどこかで交錯していた時代にぴったりのナンバーがこの曲だった、のかもしれない。シングルとしては「サムシング」とカップリングされ、両A面のあつかいで発売された。全英最高位4位、米ではビルボードHOT100の1位はもちろん、同チャート内に16週も居座るヒットとなった。
(次回は96位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)
※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki