約138億年前に生まれ、膨張を続ける宇宙の「意外な事実」
「エンジン」と聞くと、まずは車のエンジンを思い浮かべるかもしれない。ひょっとすると、今の時代はインターネットの検索エンジンのほうが馴染深いかもしれない。しかし、本書で扱うエンジンは、私たちの住むこの宇宙を動かしているエンジンである。
エンジンという言葉はラテン語のインゲニウム(ingenium)という単語から始まったものだ。意味は〝賢さ〟なので、エンジンという言葉に対して私たちが抱く印象とは異なる。なぜなら、エンジンと聞いて思い浮かべるのは〝動力〟だからだ。何らかのエネルギーを動力に変え、実生活に役立つもの。それがエンジンである。
では、宇宙にはどのようなエンジンがあるのだろうか。太陽や夜空の星々は明るく輝いている。星々が輝くには、内部に何かエンジンがあるはずである。19世紀の頃は、石炭が燃えているとか、重力収縮にともなって解放されるエネルギーだとか、いろいろと考えられていた。しかし、そのような科学の暗黒時代を乗り越え、現在では熱核融合がエネルギー源であることがわかっている。
だが、私たちの宇宙の理解はまだ完全ではない。そもそもこの宇宙はどうやって生まれたのだろう。宇宙が生まれるには、何かエネルギーが必要だったはずだ。
まだよく理解されていないが、宇宙は〝無〟から生まれたとするアイデアがある。〝無〟のどこにエネルギーがあるのだろうか。不思議だが、〝無〟から宇宙が生まれる確率はゼロではないことが知られている。確率はゼロではない。つまり、この宇宙は無から生まれうるというのだ。
また、ビッグバン宇宙論という言葉を聞いたことがあるだろう。ビッグバンを直訳すると大爆発である。実は、大爆発ではないのだが、膨大な熱エネルギーのおかげで、この宇宙が膨張していることは確かだ。では、そのエンジンは何だろう。宇宙の誕生に関していえば、次から次へと疑問が湧いてくる。実のところ、謎が多すぎるのだ。
また、宇宙の誕生のみならず、銀河に目を移せば、さまざまな活動性が観測されている。その活動性のおおもとは銀河の中心に鎮座している超大質量ブラックホールである。銀河中心核からの強烈な放射、そしてジェットが出ているのだ。いったいどんなメカニズムのエンジンがそこにあるのだろう。
そもそも太陽の質量の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールは、いつ、どのようにしてできたのだろうか。なんと、それすら、わかっていないのである。
そこで、本書では宇宙に存在するエンジンを徹底的に洗い出してみることにしたい。もちろん、謎だらけの宇宙なので、完全に洗い出すことは難しい。しかし、現時点で考えられるエンジンを〝総ざらい〟しておくことは大切である。
宇宙はこんなに広いのだから、いろいろなエンジンがあるだろう。そう思いがちだが、この予想は外れる。意外なことに基本的なエンジンはごくわずかしかないのだ。いったい、何がこの広い宇宙を動かしているのだろう。
それでは始めよう。宇宙を動かしているエンジンの物語を。