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約138億年前に生まれ、膨張を続ける宇宙の「意外な事実」

この宇宙は約138億年前に生まれ、膨張を続けながら現在に至っている。この間に多数の銀河が生まれた。私たちもその一つの銀河に住んでいる(天の川銀河、あるいは銀河系と呼んでいる)。それぞれの銀河ではたくさんの星が生まれた。その数、ざっと1000億個。天の川銀河の中では、太陽も生まれてくれた。そのおかげで周りに惑星が生まれ、地球が生まれた。そして、私たちはこの時代に生を享受している。地球から夜空を眺めれば多数の星々が見える。また、オリオン大星雲のような美しい星雲もある。私たちは多様で素晴らしい宇宙に住んでいる。だが、いろいろ疑問も浮かんでくる。

 どうして星は輝くのか。
 どうして銀河は輝くのか。
 どうして暗黒の穴、ブラックホールというものがあるのか。
 どうして宇宙は膨張し続けていられるのか。
 いったい、この宇宙を動かしているものは何なのだろうか。

天文学者が「宇宙に存在するエンジン」を総点検。刊行を機に「まえがき」を公開いたします。

「エンジン」と聞くと、まずは車のエンジンを思い浮かべるかもしれない。ひょっとすると、今の時代はインターネットの検索エンジンのほうが深いかもしれない。しかし、本書で扱うエンジンは、私たちの住むこの宇宙を動かしているエンジンである。

エンジンという言葉はラテン語のインゲニウム(ingenium)という単語から始まったものだ。意味は〝賢さ〟なので、エンジンという言葉に対して私たちが抱く印象とは異なる。なぜなら、エンジンと聞いて思い浮かべるのは〝動力〟だからだ。何らかのエネルギーを動力に変え、実生活に役立つもの。それがエンジンである。

では、宇宙にはどのようなエンジンがあるのだろうか。太陽や夜空の星々は明るく輝いている。星々が輝くには、内部に何かエンジンがあるはずである。19世紀の頃は、石炭が燃えているとか、重力収縮にともなって解放されるエネルギーだとか、いろいろと考えられていた。しかし、そのような科学の暗黒時代を乗り越え、現在では熱核融合がエネルギー源であることがわかっている。

だが、私たちの宇宙の理解はまだ完全ではない。そもそもこの宇宙はどうやって生まれたのだろう。宇宙が生まれるには、何かエネルギーが必要だったはずだ。

まだよく理解されていないが、宇宙は〝無〟から生まれたとするアイデアがある。〝無〟のどこにエネルギーがあるのだろうか。不思議だが、〝無〟から宇宙が生まれる確率はゼロではないことが知られている。確率はゼロではない。つまり、この宇宙は無から生まれうるというのだ。

また、ビッグバン宇宙論という言葉を聞いたことがあるだろう。ビッグバンを直訳すると大爆発である。実は、大爆発ではないのだが、膨大な熱エネルギーのおかげで、この宇宙が膨張していることは確かだ。では、そのエンジンは何だろう。宇宙の誕生に関していえば、次から次へと疑問が湧いてくる。実のところ、謎が多すぎるのだ。

また、宇宙の誕生のみならず、銀河に目を移せば、さまざまな活動性が観測されている。その活動性のおおもとは銀河の中心に鎮座している超大質量ブラックホールである。銀河中心核からの強烈な放射、そしてジェットが出ているのだ。いったいどんなメカニズムのエンジンがそこにあるのだろう。

そもそも太陽の質量の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールは、いつ、どのようにしてできたのだろうか。なんと、それすら、わかっていないのである。

そこで、本書では宇宙に存在するエンジンを徹底的に洗い出してみることにしたい。もちろん、謎だらけの宇宙なので、完全に洗い出すことは難しい。しかし、現時点で考えられるエンジンを〝総ざらい〟しておくことは大切である。

宇宙はこんなに広いのだから、いろいろなエンジンがあるだろう。そう思いがちだが、この予想は外れる。意外なことに基本的なエンジンはごくわずかしかないのだ。いったい、何がこの広い宇宙を動かしているのだろう。

それでは始めよう。宇宙を動かしているエンジンの物語を。

目次

まえがき
第1章 宇宙を動かすもの
第2章 宇宙にあるエネルギー
第3章 重力と電磁気力
第4章 接触力よ、さようなら
第5章 原子の世界の力
第6章 星のエンジン
第7章 暗躍するブラックホール
第8章 宇宙を動かすエンジン
第9章 進化する宇宙のエンジン
第10章 ダークな宇宙とその未来
宇宙のエンジンを理解できる日――あとがきにかえて

著者プロフィール

谷口義明(たにぐちよしあき)
1954年北海道生まれ。東北大学理学部卒業。同大学院理学研究科天文学専攻博士課程修了。理学博士。東京大学東京天文台助手などを経て、現在、放送大学教授。専門は銀河天文学、観測的宇宙論。すばる望遠鏡を用いた深宇宙探査で、128億光年彼方にある銀河の発見で当時の世界記録を樹立。ハッブル宇宙望遠鏡の基幹プログラム「宇宙進化サーベイ」では宇宙のダークマター(暗黒物質)の3次元地図を作成し、ダークマターによる銀河形成論を初めて観測的に立証した。主な著書に『宇宙はなぜブラックホールを造ったのか』『天文学者が解説する 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」と宇宙の旅』(以上、光文社新書)、『アンドロメダ銀河のうずまき』(丸善出版)、『天の川が消える日』(日本評論社)など多数。

谷口義明さんの好評既刊①
『宇宙はなぜブラックホールを造ったのか』

谷口義明さんの好評既刊②
『天文学者が解説する 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」と宇宙の旅』


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