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おつまみしりとり|パリッコの「つつまし酒」#112


不足の事態を生み出そう

 あぁこわいこわい。気軽に外に飲みに行けない日々も1年以上が過ぎ、毎日毎日家飲みばかり。その家飲みがマンネリ化するのが、とにかくこわい。いや、別にマンネリ化したって、1日の終わりにお酒が飲めるだけでもじゅうぶんありがたいことなんですけど、僕のお酒に対する執着ってやっぱりちょっと異常なんでしょう。そこに職業病も加わり、とにかく常に変化を求めてしまう。日々、新鮮な気持ちでお酒と向き合いたい。
 今日も朝からそんなことばかり考えていて、マンネリ打破に有効な要素として、「不足の事態」ってものがあるんじゃないか? と思い至りました。
 つまり、自分でおつまみを買ってくる、もしくは食材を買ってきておつまみを用意すると、どうしても同じものばかりになってしまう。今日は肉、明日は魚と、いくら変化を出そうとも、やっぱり自分の思いつく範疇に収まってしまう。そこに不足の事態、つまり、え? こんなものを買おうとは思わなかったな〜、がないわけです。
 その状況から抜け出すにはどうしたらいいか? 手っ取り早いのはスーパーで、手当たり次第知らない人に声をかけ「何買ったんですかぁ? 僕もまねしていいですかぁ? へへ」と聞きまくることなんですが、それだと完全な異常者。そこでう〜んう〜んと考えていたら、ついに思いついたんですよね。自分ひとりで不足の事態を生み出す方法を。
 それが、「おつまみしりとり」。

「け」で始まるおつまみの少なさ

 まぁ単純なことなんですが、たとえば「カニカマ」をスタートに設定したとして、スーパーで、次は「ま」で始まるおつまみを探す。ま、ま、ま……「まぐろ」はよく買うしなぁ、ま、ま……ん? 「マカロニサラダ」なんてのが売ってる。これはあんまり買わないなぁ。新鮮かも! といった具合に、その日のおつまみをしりとりで決めていく。強制的にしばりを設けることで、ふだんなら視界にも入っていなかった食品たちにもまんべんなく目が向くというわけですね。
 よしやろう! というわけでスーパーへやってきました。最初のおつまみは、「つつまし酒」の終わりをとって「け」から始まるものにしようかな。見つけてやるぞ〜!
 ……と、探し続けて早15分。僕の心はすでに折れそうになっていました。
というのも、「け」で始まる食べものって、思いの他少ないんですよね。みなさんもちょっと考えてみてくれません? け、け……「毛がに」、いやいや、お遊び感覚で手を出せる食材じゃない。「ケンタッキー」はスーパーに売ってないし、「けんちん汁」ってのもなぁ、あれこれ材料買って気合入れて作るのは今回の趣旨とはちょっと違う気がする。あ! 「ケンちゃんラーメン」! いやダメだ。「ん」がついた。っていうかケンちゃんラーメンなんてとっくに売ってないか。

思うぞんぶん違和感を堪能!

 と、スーパーを何周もウロウロし、なんとか僕が見つけたのが「ケチャップ」でした。そうだ、「ケチャップライス」を作ってそれをつまみにしよう! ちょっと強引な気もするけど、考えてみればケチャップライスなんて単体で作って食べたことないし。
 そこからはテンポよくおつまみを見つけることができ、今夜のラインナップはこのようになりました。

ケチャップライス

すいかのロールケーキ

九州産豚肉使用ロースハム

蒸し鶏と明太ごぼうのマリネ

ねぎとろ

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意外な商品に目が向くのが楽しい

 うんうん、いい混沌っぷりじゃないですか。よ〜し、さっそく帰ってしりとり晩酌だ!
 と、ケチャップライスを作り、その他のおつまみすべてをあえてワンプレートに盛りこみます。出現したそのひと皿の、なんともまぁ異様なこと! 自分の意思だけでやってては一生作ることもなかったであろう、力強い違和感。これこれ! これを求めてたんですよ!

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この世にふたつとないおつまみプレート

 蒸し鶏とごぼうのマリネ、シャキシャキまったりとした美味しさでつまみにいいなぁ。僕は「ハム」への興味がかなり薄いほうなんですが、この九州産の豚肉を使ったというロースハム、脂身がジューシーでまるで高級肉料理。ハムの魅力に気づいてしまったかも。ねぎとろは間違いない美味しさだし、そしてケチャップライス! 単にバターでごはんとケチャップを炒めただけなんですが、これが驚くほどに美味しいんですよね。家にもケチャップはあったけど、せっかくだからとちょっと高級な瓶入りのケチャップを買ってみたのも良かったのかもしれません。酸味は適度で、野菜の旨味と甘味に深みと広がりのある絶品。ケチャップライス、これからは定期的に作ってしまいそうだな。

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なんと500円近くもしたケチャップは、さすがの美味しさ!

 そうそう、お酒なんですが、これもしりとりの延長で選んでみました。最後の「ねぎとろ」の「ろ」をとって、見つけたのが「ロゼワイン」。偶然にも、最後が「ん」で終わるという美しさ!
 お手頃だったスペインの「クロット・ディベルン ブリュット ロゼ」、フルーティーかつキリッとした味わいで大変美味しいです。またこれが、今日のどのおつまみにもよく合う。ハムやマリネやチキンライスはもちろん、甘酸っぱいクリームたっぷりのすいかのロールケーキにも、なんとねぎとろにまで合う!

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いい晩酌になった

 そういえば以前、ワインとおつまみは「色合わせの法則」で選ぶといいと聞いたことがあります。わかりやすく言うと、ホワイトソースをかけたポークソテーなら白ワイン。デミグラスソースハンバーグなら赤ワインといった具合に、なんでもかんでも、料理の仕上がりの色とそれに近いワインを合わせると、基本的に間違いないというもの。
 それでいうと今日偶然に集まったおつまみ、びっくりするくらいロゼ色の統一感がありません?
 これに気づいた時はさすがに、お酒の神様がちょっとした奇跡をプレゼントしてくれたのかな? なんて嬉しくなっちゃいましたよね。いやまぁ、本当に、ちょっとしすぎた奇跡ですけどね。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2020年9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco

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