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アメリカで大ブーム「ハードセルツァー」ってなんだ?|パリッコの「つつまし酒」#108

チューハイとは違うの?

 今、アメリカで大ブームになっている新しいお酒がある、という噂を聞きました。その名も「ハードセルツァー」。とはいえ僕も初耳で、まったく素性がわかりません。そこでとりあえず可能な範囲で調べてみたところ、以下のようなことが判明。
 まず、ハードセルツァーを英語で書くと「Hard Seltzer」。Seltzerとは、炭酸水のこと。つまり、ハードな炭酸水、アルコール入りの炭酸水、というような意味合いなのだそうです。つーか、これまでふざけて、ソフトドリンクの対義語って意味で「ハードドリンク」なんて言葉を使うことがあったんですが、あながち間違いじゃなかったんだ。
 で、そうなってくるとこのハードセルツァー、僕のもっともなじみ深い酒、甲類焼酎を炭酸水で割った「プレーンチューハイ」と何か違うんでしょうか? さらに調べてみると、とあるWEBサイトで、このような意図の表記を発見。
「チューハイは焼酎など香りのない蒸留酒を炭酸で割ったアルコール飲料であるのに対し、ハードセルツァーはサトウキビ由来の糖分による発酵で生み出されたアルコールを使っているのが特徴」
 いやいやいや、あなた、下町の酒場で圧倒的支持を得る我らが「キンミヤ焼酎」の原料、サトウキビなんですけど! やっぱりチューハイじゃん! ハードセルツァー。

後学のため、一度試してみるか

 もちろん製法の細かい違いはあるようですし、またそのヘルシーさが注目されてアメリカで人気になっていることは厳然たる事実。かつ、そこにさまざまなフルーツなどの小粋なフレーバーを加えてあったり、缶のデザインの、従来のお酒のイメージを覆すポップさも人気の秘密なんだそう。
 加えて、州によっても法律が異なるそうですが、アメリカでは度数の高いアルコール飲料はリカーショップのみでしか販売が許可されていないのに対し、度数が低めに設定されているハードセルツァーはスーパーやコンビニでも販売できることが多いのだとか。その手軽さも、ブームに拍車をかけているんだそうです。
 はい、そこでです。常に恥の多い人生を送ってきた僕。これまではそういう話を聞くと、「けっ」なんて思いがちでした。「しょせんはフレーバーチューハイでしょ?」なんて、実際に試してみる前から否定してしまいがちだったんです。しかしながらいい年になってきて、そんな考えかたも変わってきました。最近は「へぇ、そういうものがあるのか。後学のため、一度くらい試してみるか」と思えるようになってきたんですね。
 しかも、この熱狂の流れに乗って、新しくハードセルツァーを開発する日本のメーカーも増えているのだとか。というわけで、山梨県のビールメーカー「Far Yeast Brewing」が今年の3月に発売した「Dragon Seltzer」全4種類を取り寄せ、味わってみることにしましょう。

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我が家にハードセルツァーがやってきた!

スイカ×キュウリ味!?

 ラインナップは「Blackraspberry」「Cucumber Watermelon」「Yuko Ginger 」「Kuromame Yuzu 」の4種類。僕の観測範囲では、1本300円台後半と、クラフトビールよりはお手頃だけど缶チューハイよりは高級品、といった価格帯。アルコール度数はすべて4.5%と低め。
 ここに念のため、僕の愛する和製ハードセルツァーこと、タカラ「焼酎ハイボール」のレモンを1本加えた5本のお酒を飲み比べていこうと思います。
 そもそも、ハードセルツァー4種のフレーバーがそれぞれかなり独特。Blackraspberryの「クロキイチゴ」はまだわかる。次のCucumber Watermelon、が「キュウリ&スイカ」! 続くYuko Gingerは「柚香&ショウガ」。Kuromame Yuzu は「黒豆&柚子」。なんだか変態性すらも感じるラインナップですよね。
 手始めにBlackraspberryの缶を開けてみると、ベリー系の良い香りがふわりと漂い、とたんに優雅な気分になります。これをグラスに注ぐと、なんと無色透明。勝手にどぎついピンク色をイメージしてたんですが、健康志向な感じでむしろ好ましいですね。

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人生初ハードセルツァー

 これがですね、甘ったるくないのに香り華やかですっごい美味しい!
 勢いに乗り、どんどん飲み進める。Yuko Gingerは、柑橘系の爽やかさとショウガのスパイシーさのハーモニーが絶妙。Kuromame Yuzu は、柚子と香ばしい黒豆の香りが半々くらいに感じられるおもしろい味わい。そしてCucumber Watermelon。確かにスイカの香りがするんですが、そこにキュウリも加わっているので、これはあれだ! 大衆酒場にたまにある、チューハイにキュウリを加えた「かっぱサワー」。あの爽やかさ!
 いや、どの味もていねいに計算されたのであろう絶妙な香りで、ものすご〜く美味しいです。缶のデザインも含めてちょっとした非日常感があるし、ハードセルツァー、ハレの日のお酒として、だいぶいいなって思いました。

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焼酎ハイボールとの違いは?

 ところで、その流れで最後にいつもの焼酎ハイボールを飲んでみたんですが、これまたあらためてその良さを再発見しましたね。
 7%という度数の頼もしさ。甘ったるくはないんだけど、ハードセルツァーの繊細さよりも若干主張の強い味と香り。フレーバーが多数あるのはもはやお家芸ですし、これ、アメリカに持ってったらハードセルツァーに続いてブームになるんじゃないかな? 特に僕の好きな「ラムネ味」なんかオリエンタルみもあっていい気がするぞ。
 アメリカ人の間で「スシ、テンプラ、タカラ」が常識になる日が来るのも、そう遠くないんじゃないでしょうか。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2020年9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco


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