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【83位】ジョン・レノンの1曲―スウィートでナイーヴなアナキズムを、真っ裸で訥々と

「イマジン」ジョン・レノン(1971年10月/Apple/英)

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Genre: Rock, Pop
Imagine - John Lennon (Oct. 71) Apple, UK
(John Lennon•Yoko Ono) Produced by John Lennon, Yoko Ono and Phil Spector
(RS 3 / NME 476) 498 + 25 = 523 
※83位、82位が同スコア

今度はアメリカ人が怒る番だ。〈ローリング・ストーン〉の500曲リストでは3位なのに、〈NME〉のせいで……当曲を収録の同名アルバム、彼のソロ第2作は『教養としてのロック名盤ベスト100』で77位だったのだが、これも「米高英低」の結果ゆえだった。どんなリストでも、この曲はトップ50内には入るべきだと思うのだが……。

これはジョン・レノンの代表曲のひとつだ。ピアノ・バラッドの形式で、理想主義的な詞が訥々と歌われる。「想像してみなよ」をキー・フレーズに世界平和を真っ正面から希求していくところ、僕はユネスコ憲章の前文や日本国憲法の9条を、いつも思い出す――のだが、こうした点が「甘ちゃんだ」と批判されることも多い。ナイーヴすぎるとか。

しかしこの曲の底抜けのナイーヴさは、その破壊力は、生半可なものではない。部分的には社会主義的なのだが、しかしそれ以上に、レノンの「なにも信用しない」という態度の貫徹のほうがずっと大きい。だから心やさしきアナキズムと見るのが正しい。

なにしろ歌い出しが「天国がないことを、想像してみなよ」なのだから。つまりこういうことになる――レノンはいま天国に「いない」のかもしれない(「ない」のだから)。だから我々は死んだあとも「彼に会えない」のかもしれない。それは死んでみないとわからない。もちろんこのときのレノンにも、そんなことは、わかるわけがない(彼は宗教家ではないから)……なのに彼は、そんな虚無をまず「想像してみなよ」と言う。

つまりこれは、ラディカルな「覚悟の歌」なのだ。宗教と国家と私有財産が「ない」という前提に立つということは、強者からの庇護や、その状況下における一体感を「ひとまずは全部拒絶する」ことを意味する。人間が「真っ裸」の状態になることに近い。そこまでいかないと真なる相互理解は見えてこない、とここでレノンは言う。自分自身の外側に広がる全・現実世界および、全・他者と向き合って「調和を目指していく」ためには――いかなる不安、恐怖があろうとも「まずは裸になれ」と、この曲は呼びかけるのだ。

これがロックでないのなら、一体なにがロックなのか、と聴くたびに僕は強く思う。

当曲はまずアメリカでシングル発売され、ビルボードHOT100の3位を記録。イギリスでは75年にシングル化され、全英6位に。そしてレノンが射殺された80年にはふたたびチャート・インして1位に達し、そのまま4週占拠した。そのあとも、たびたび両国および世界各地のチャートに、幾度もランキングされ続けている。

(次回は82位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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