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実際に授業に参加していた私が語る『東大生、教育格差を学ぶ』

光文社新書より3月15日に発売された『東大生、教育格差を学ぶ』。東京大学で行われたゼミ形式の講義「教育格差入門」をベースに、当事者でもある学生たちが「教育」と「人生」の交差点に立ち、学んだ軌跡をまとめた一冊です。
この度は本書を読者の皆様により深く読み解いていただくために、授業の受講者で書籍中にもたびたび登場する「ムラカミ」さんに書評を寄稿いただきました。授業から少し時間が経ってから出版された本を読み返して、どういう印象を抱いたのでしょうか。ぜひご一読ください。
(光文社新書編集部 高橋)

はじめに

私は2021年度後期に、本書のもととなった授業「教育格差入門―みんなで議論して新書をつくる」に参加していた(この授業に参加していたのが1年以上も前になるので、時の流れはあっという間である)。そのため、本書は私にとって授業ノートともなる。今回は、(かなり前なので忘れている部分も多々あると思うが)授業内容を振り返りつつ本書を読んだ感想を述べていきたい。

感想

1.東大生とは何者?

まず、本書に参加する学生は全員東大生である。東大生は、都市圏の進学校出身の割合が高く、また地方出身者でもその地方の中で恵まれた環境で育ってきたという人が多い。また、男女比も8:2程度である。このように、皮肉にも東大そのものが教育格差の象徴になっているのである。本書からも、東大に進学するような学生はどういう特徴を有しているのかをが垣間見ることができた(もっとも、この授業の参加者のバックグラウンドは多様であった)。授業に参加していた学生はこのことに自覚しながら議論を深めていった。本書を読めば、東大生同士が議論している様子が思い浮かぶだろう。普段東大生がどういうことを考えているか気になるという方は、ぜひ手に取っていただければと思う。

2.教育格差への向き合い方

まず、授業に参加していた学生が、非常に深く教育格差について向き合い考えていたことが本書から伝わってきた。私は授業を受けていたので皆の熱意を感じるのは当然ではあるが、本書を読んだだけでもその熱意を思い出した。また、時に学生の間で意見が割れることもあったが、お互いの意見を尊重し合う空気が醸成されていたので、思ったことを遠慮なくそのまま発言できた。そして、かかる忌憚のない意見が本書にも収録されている。

教育格差に関心のある方はもちろんであるが、これまで教育格差についてあまり考えてこなかった方々にこそ、ぜひ本書を手に取っていただきたいと思う。内容的にも論点は分かりやすいので、読んでいて意味が分からなくなることはあまり心配しなくて良いと感じた。もっとも、真剣に議論した結果かなり深い内容まで立ち入ったところもある。授業に参加していた学生の真剣な思いが伝わり、読み応えを感じるであろう。

3.すべての人が教育の当事者

本書は「教育」を切り口とするものの、ジェンダーやいじめ、長時間労働など様々な社会問題について記載されている。そして、このことは教育が社会と非常に密接に関わっていることを表している。教員や教育学部生は当然ながら、日本にいる人全員が少なくとも義務教育を受けるという点で、教育の当事者である。その点で、すべての読者にとって非常に身近なものということができよう。したがって、どのような方にも本書の内容に関心をお持ちいただけるのではないかと思う。特に、自分の教育経験を振り返りながら、本書に収められている東大生による議論を見てみると面白いのではないか。

ちょっとした裏話

ここでは、本書には必ずしも記載されていないが、私が読者の皆様にぜひお伝えしたいと思ったことを少し述べたいと思う。

「はじめに」で、笑みや笑い声が起こる場面もあったことが少しだけ触れられているが、学生同士の仲がとても良くて、授業も非常に楽しかった。やりとりは基本slackで行っていたが、一つの投稿に対しさまざまなリアクションが飛び交っていた。対面開催であればより仲良くなれていたかもしれないと思うとオンライン開催だったのは少し惜しまれるが、逆にオンライン開催だったからこそ遠隔地から参加できる教員や学生がいたこともあり、オンラインの良さも現れていた。

この授業に参加していた学生は、もちろん教育学部に進学する予定(東大の1,2年生は全員教養学部となるのでこのような書き方になっている)の人が多かったが、(私を含め)他の学部への進学予定者もかなりいた。そして上述の通り多様な背景や考え方を持つ学生が集まっており、議論をしていて面白かったし、(全体として確かに一定の傾向はあるものの)「東大生」といっても様々な人がいると感じた。

みんなにも読んでほしいですか?

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