【新刊】橋爪大三郎『アメリカの教会』まえがき&目次を公開――日本人にはなかなか分からない「アメリカを動かす血液」の歴史と現在を、植民地時代から丹念にたどる
『アメリカの教会』
――「キリスト教国家」の歴史と本質
「まえがき」 橋爪大三郎
アメリカのキリスト教は、不思議だ。
トランプ大統領が登場したとき、みんなそう思った。
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「福音派」という保守的な宗教右派の人びとが、アメリカには大勢いて、トランプ大統領を当選させたのだという。
「福音派」ってなんだろう。日本にそんなものは存在しない。想像しようにも、考える手がかりがない。
宗教「右派」ってなんだろう。「右派」というなら、「左派」もあるのだろうか。そもそも「右派」「左派」は、政治の話ではないのか。宗教に「右派」があるというのがわからない。
よって、トランプ大統領がなぜ、登場したのかわからない。
要するに、アメリカがわからないということだ。
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アメリカはよその国だから、わからないところがあるのは当然だ。
それを言えば、ほかの国だって、わからないことだらけだ。
ただし、アメリカは大事な国である。
日本の運命を左右する国、と言ってもよい。
そのアメリカのことが、よくわからないのは、やはり困ったことなのだ。なにを考え、どう行動するのか。その頭のなかみを、しっかり理解しておくに越したことはない。
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そこでこの本を書くことにした。
テーマは、アメリカのキリスト教である。アメリカにどんな教会があるか、いろいろと書いてある。
こういうことは、アメリカでは常識なので、みんな知っている。だから取り立てて、それを詳しく説明する本など売っていない。なくはないが、日本人向けではない。
日本語で書かれたアメリカの教会の本は、なおのこと存在しない。読むひとがいない。日本にはキリスト教徒がほとんどいない(人口の1%ぐらい)。そして、書くひとがいない。アメリカのキリスト教の専門家、みたいなひとがいない。いや、たぶんいるのだろうが、一部のひとに向けて、専門的なことを書いている。
ただし、よく探せば、まったく存在しないわけではない。私の知る限りでは、森本あんり『キリスト教でたどるアメリカ史』(2019年、角川ソフィア文庫)がある。この本はコンパクトで、よくできている。キリスト教を切り口に、アメリカの歴史をたどっている。
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私はもう少し欲張って、さまざまな教会の違いを、人びとの考え方の違いに分け入って明らかにしようと思った。アメリカでは、人びとは少し意見が違うと、すぐ別な教会をつくる。自分の考え方(信仰)に敏感で、責任をもっている。その実際のところが、アメリカを理解するカギだと思う。
私は20年前、最初にアメリカにしばらく滞在したとき、近くのメソディスト教会に1年間通った。聖書研究会にも半年間出席した。そのあと数年して、ユニタリアン教会のメンバーとなった。ユニタリアン教会は、会衆派の流れをくむので、カルヴァン派の雰囲気が残っている。ほかにも機会があるたびに、さまざまな宗派の教会の礼拝にも参加した。だから教会の違いは、それなりに体感できる。
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とは言え、私は、アメリカのキリスト教が専門ではない。
そこで、ケンブリッジ大学出版会から出ている、『ケンブリッジ版・アメリカの宗教の歴史』という本によることにした。電話帳のように分厚い三巻本で、大勢の学者が手分けをして執筆している。『アメリカの宗教・百科事典』という、これも分厚い四巻本も参考にした。どちらも、ハーバード大学ディヴィニティ・スクールの図書館で、司書のひとに相談して教えてもらった。書誌情報は本書の巻末に載せておいた。
事実関係やデータは、主にこの『アメリカの宗教の歴史』に依拠したので、出典のページ数を示すことにした。Ⅰ‐123とあれば、Ⅰ巻の123ページ、という意味である。
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そういうわけで、ありそうでなかった、アメリカのキリスト教と教会についての本が、できあがった。
この本は、今までキリスト教に縁がなかった人びとに、役立てていただきたいと思う。ビジネスパーソンや、政府職員や、学生や市民のみなさんである。もちろん、キリスト教とずっとつきあってきた人びとにも、参考にしていただけると嬉しい。
それでは、アメリカのキリスト教の世界にご案内しよう。
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アメリカの教会 目次
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以上、光文社新書『アメリカの教会』(橋爪大三郎著)より一部を抜粋して公開いたしました。
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