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木原善彦さんの最新刊を読んだら積ん読中の難解な小説まですらすら読めるようになった

note担当の田頭です。みなさんは「積ん読」という言葉が世界共通語だというのはご存じでしたでしょうか。積ん読ーーそれは、読んでいない本を大量に所有すること。あるいは悪魔の辞典ふうにいえば本を買っても決して読まない「技術」のこと。こんな感じでウィキペディアの英語版にもしっかり項目がありました。

Tsundokuって…(笑)。個人的には写真の背景のボケが「Bokeh」という表記で世界の写真愛好家に通じると知った時以来の発見です。ちなみに「積ん読」という言葉は、古くは1879年に用例が見られるとイギリスのある日本文学研究者が発表しているんだとか。

かくいう私も先達には遠く及ばないながら、「積ん読家」のはしくれであります。当たり前ですが積んじゃうとなかなか読ま(め)なくなりますよね。読みたい気持ちと、読む時間をとれない現実との葛藤が苦しいような楽しいような…。あるいは手に入れる喜びだけで満足してしまっているような…。いずれにしても早期改善が望ましいアブない心理状態です(笑)。

というわけで今回は、そんなことするヒマがあるなら早く読めばいいのにもかかわらず、自分の蔵書の中でも特にページ数もお値段もヘビーなTOP3を改めてピックアップして、自らに警鐘をガンガン鳴らすことにしてみました。この3つさえクリアすれば、あとはもっと気持ち的に楽になるのではないかという一縷の望みを託して…。

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1.  清岡卓行『マロニエの花が言った 〈上・下〉』(新潮社)600+594ページ、3,500+3,500円

2.  トマス・ピンチョン『逆光 〈上・下〉』(新潮社)862+845ページ、4,400+4,400円

3.  ウィリアム・ギャディス『JR』(国書刊行会)939ページ、8,000円

1は昨年末に神保町の八木書店で発見した絶版本です。「エコール・ド・パリ」時代のパリで活躍した藤田嗣治や金子光晴や薩摩治郎八…など、綺羅星のような才能たちの交流を描いた大河小説です。が、いまだ上巻の3分の1にも達しておらず、下巻にいたってはビニール包装されたままですね(苦笑)。今回、ページ数を数えるために初めて開封するような有様です…。嗚呼、それこそパリに逃避して読み耽りたい。

2と3は発売当時の読書界でたいへんな話題を呼びました。そしてまた共通項が多い現代小説同士でもあります。登場人物が多く、話の筋が錯綜して複雑なこと。言い回しに比喩が多かったり直接的でなかったりで意味を掴むのが難しいこと。ポップでブラックコメディな要素が満載なこと。何より途中で力尽きて放り出したくなるくらい長いこと。物理的に重いこと(笑)。

はい、ここでご注目。こんな挫折してしまう材料に事欠かないややこしい小説を読むのに強い味方になってくれるのが、木原善彦先生がこのほど上梓された『アイロニーはなぜ伝わるのか?』です。この2つの小説に共通して多く使われている、意味のとりづらいアイロニー表現の原理が、本書を読むとすっと理解できるようになります。おおっ、そういえばよく見るとピンチョンもギャディスも、ともに訳者は木原先生ではないですか!

実際、この『アイロニーはなぜ伝わるのか?』には、両小説からの引用もあり、一冊を通して様々な角度からアイロニーの仕組み、つまりは「言いたいことの逆を言っているのに真意が伝わる」理由が明かされていきます。他にはシェイクスピアやサマセット・モームやサリンジャーあたりの実例もふんだんに。私もアイロニーとは何ぞやを頭に叩きこんでから『逆光』の続きを読んでみましたが、うん、少しわかるようになった…気がする(笑)。特にレトリカルな会話文の箇所は、昔よりつっかえなくなりました!

ちなみに木原先生は『逆光』や『JR』を解説した本も書いていらっしゃいます。これが本当に面白くてわかりやすい! もうちょっと早くこれらの存在を知っていれば、私も長年「積ん読」しなくてよかったかも(笑)。『アイロニーはなぜ伝わるのか?』と併せて、心豊かな読書のお供になること間違いありません。

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最後に、『JR』の版元である国書刊行会さんのTwitterをご紹介します。

さて、このユーモアあふれるやりとりにアイロニーは含まれているでしょうか? 答えは本書を読んでいただければバッチリわかると思います!


















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