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【78位】ヤー・ヤー・ヤーズの1曲―叶わぬ想いの涙雨抜けて、ファースト・ダンスは私と

「マップス」ヤー・ヤー・ヤーズ(2004年2月/Interscope/米)

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Genre: Indie Rock, Art Pop
Maps - Yeah Yeah Yeahs (Feb. 04) Interscope, US
(Brian Chase, Karen Lee Orzolek, Nick Zinner) Produced by David Andrew Sitek and Yeah Yeah Yeahs
(RS 386 / NME 39) 115 + 462 = 577 ※78位、77位が同スコア

一般的なカタカナ語表記習慣どおりに記せば「イェー・イェー・イェーズ」となるべきところ、意外にも「ヤー」となったのは、きっと日本の配給元レコード会社がザ・ビートルズの伝統にのっとったせいだ(64年の初主演映画『ビートルズがやって来る ヤァ! ヤァ! ヤァ!』はYeahを「ヤァ」とした)。そんなバンドの、最初のヒットがこれだ。03年に発売されたデビュー・アルバム『フィーヴァー・トゥ・テル』からのシングル・カットだった。

21世紀に突入する前後、ニューヨークのブルックリン区において音楽やアートなどのシーンが急速に活性化していった。ジェントリフィケーションの進展で家賃が高騰したマンハッタンから流入してきた人々と、新たな「上京」者が作り上げたシーンがそれだったのだが、最初に成功した一群のバンドのなかにヤー・ヤー・ヤーズがいた。そしてなんといっても、バンドの中心にはヴォーカリストのカレン・Oがいた。

ポーランド系の父と韓国系の母の血を引く彼女は、この時代の一種のファッション・アイコンであり、インディー・スターとなっていた。そんな彼女の存在感が、バンドはもちろん、シーンに渦巻く若い熱気をも引き寄せて上昇気流に乗せた。当曲はビルボードHOT100では87位止まりなれど、モダン・ロック・チャートでは9位まで上昇。さらにMVがMTVでとても受けた。

MVの映像中でのカレン・Oの涙は、実際に当時のボーイフレンド(こちらもブルックリンのバンド、ライアーズのアンガス・アンドリュー)を想っての「本物の涙」だったのだ……といったエピソードなどがまことしやかに流布されて、好まれた。

曲調は、オルタナティヴ流行通過後のミディアム・テンポのロックだ。分厚いファズ・ギター相手に堂々と渡り合い、叶わぬ想いを吐露し続けるカレン・Oの「深く甘い声」に聴き手は吸引された。そのトーンは、パンクの嵐吹き荒れる70年代末期に登場して一世を風靡した、プリテンダーズのクリッシー・ハインドを彷佛させるものだった。

そしてこの曲は、「一部の若者にとっての」とのただし書き付きながら、時代の表情をくっきりととらえたラヴ・ソングとして、流行歌の地位を獲得した。2017年、〈NME〉が妙なリストでこの曲をピックアップする。題して「インディー・ウェディング・ソングス」。結婚したカップルが披露宴で踊る「ファースト・ダンス」にふさわしい曲として選ばれた全20曲のなかで、この「マップス」が堂々の1位を獲得していた。

(次回は77位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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