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知っておけば不安が和らぐ、余裕が持てる…人生の荒波をサバイブするための一冊

この先の人生、予期せずして職を失ってしまったり、お金がなくなってしまったり、病気になってしまったり……などを想像し、不安に苛まれることはないでしょうか。また、年齢を重ね、親の介護のことも考えなければ、と思い始めている方も多いかと思います。
そんな多くの方が抱える「これから先の不安」を、同じく不安を抱えた雨宮処凛さんが各界の専門家に徹底的に取材し、ひとつずつ解消していった『死なないノウハウ』を上梓されました。
「お金」「仕事」「親の介護」「健康」「トラブル」「死」という章立てで、社会保障を使いこなすコツや各種困りごとの相談先などをお書きいただいています。
そんな本書から、「まえがき」を公開いたします。

誰もが知る女優が死後、「無縁遺骨」に――。
2022年7月に亡くなった女優・島田陽子さんの最期は多くの人に衝撃を与えた。

島田さんと言えば、日本人初のゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞し、その後、国内だけでなくハリウッドでも活躍。そんな大女優にふさわしからぬ報道がなされたのは、死後すぐのことだった。
「遺体の引き取り手がいない」「遺体はそのまま渋谷区の施設に安置されている」「自治体によって火葬された」――。

さまざまな報道から明らかになったのは、亡くなる3年前に直腸がんと診断されたものの、病気のことは隠して遺作を撮影。闘病の果てに病院で一人、亡くなったという事実だった。享年69。しかし、遺体を引き取る人はおらず、渋谷区が2週間ほど遺体を保管して、自治体によって火葬されたという。生前、医療費がかさむと周囲に漏らしたこともあるらしい(朝日新聞 22年12月21日)。

このことを知った時の衝撃は、今でもはっきりと覚えている。あれほど活躍していた人が、そんな最期を迎えるなんて――。ちなみに島田さんはがんと診断されていたわけだが、抗がん剤治療などをしていなかったことも報じられている。治療費の問題もあったのだろうか?

その年の12月には、別の女性の最期を伝える新聞記事に愕然とした(朝日新聞 22年12月22日)。それは皇室ジャーナリストの渡辺みどりさん。22年9月30日に亡くなったという。享年88。
記事に書かれていたのは、遺体の引き取りや相続を親族に「放棄する」と言われたこと、終活のために10年以上前にマンションを売却したものの、そのお金はほぼ使い切っていたこと、遺体は長年付き合いのあった弁護士らによって荼毘に付されたことなど。

島田さん、渡辺さんともに一人暮らしだったわけだが、20年の国政調査によると、この国で一番多いのは「単身世帯」で38・1%。単身世帯は一貫して増加傾向にあり、1985年は20・8%、5世帯に1世帯だったものの、今や2・5世帯に1世帯だ。
また、65歳以上の高齢独居世帯は20年に672万世帯。2000年の303万世帯から倍増している。

そんな中で増えているのが、身内がいても弔う人がいない死者。日本では年間約150万人が亡くなるが、弔う人がいない人の数は近年だけで約10万6000人。うち「無縁遺骨」は6万柱にものぼるという(朝日新聞夕刊 23年8月25日)。
今、独り身ではなくても、離婚や死別で誰もが最後は単身になる可能性がある。
島田さん、渡辺さんの死が頭から離れないのは、遺骨や遺体の引き取り手がいなかったことだけではない。経済的な困窮が垣間見える単身女性の死、ということがとても他人事には思えなかったからである。

ちなみにこの国の貧困率は15・4%だが、突出して貧困率が高いのは単身高齢女性。一人暮らしの65歳以上の女性の実に46・1%が貧困ライン以下の生活を強いられているのだ。そして島田さんも渡辺さんも、65歳以上の単身女性だった。
貧困ということで言えば、昨今、女性に限らずコンビニやスーパーで夜勤したり、警備員などとして働く高齢者の姿が目立つ。その多くが、その歳でも働かないと生活できない人々だ。つい最近も、土木作業員の女性が作業中の事故で死亡したというニュースに触れ、目を疑った。年齢が77歳だったからだ。

「失われた30年」で、日本が貧しくなったことは誰もが実感していることだろう。先進国で唯一、30年間給料が上がらず、一人あたりのGDPはその間、7割程度に落ち込んだ。
賃金は増えないのに、国民負担率(社会保険料と税金の合計が国民所得に占める割合)は上がり続け、5割に迫る勢いだ。80年代は3割だったのに、である。これにはネット上で「五公五民」(江戸時代の年貢の負担率を示す)という悲鳴が上がっている。収穫した米の五割を年貢とし、残り五割が手元に残る状態で、幕府の財政悪化を理由に「四公六民」から「五公五民」になった途端、日本中で一揆が起きるようになったという。
しかし、令和の現在、一揆が起きる気配は微塵もない。


さて、ここで自分のことを書くと、私は49歳の独り身、フリーランスの文筆業だ。
配偶者も子もなく、いるのは猫が一匹。
東京で一人暮らしを始めて約30年。親ときょうだいがいるのは遠く離れた北海道だ。
最近、「将来もらえる年金額」みたいな通知が届いたので開封してみたら、月に4万円くらいだったので見なかったことにした。
厚生労働省の簡易生命表(22年)によると、日本の平均寿命は男性が約81歳、女性が約87歳。私の場合、平均寿命までまだ38年もある計算だ。「老後2000万円問題」を持ち出すまでもなく「これから先」を考えるだけで目の前が暗くなる。

本書は、そんな不安を解消すべく、情報を集めまくった一冊だ。
働けなくなったら。お金がなくなったら。親の介護が必要になったら。それで仕事を続けるのが難しくなったら。そして自分が病気になったり入院した時、頼る人もいなければどうしたらいいのだろう?
そんな疑問から始まった取材は、がんになった場合に使える制度から「親の介護」を考えた時にまず相談する先、高齢者施設の種類と平均月額・平均入居一時金額、はたまた自分が死んだあとのペットの世話やパソコンやスマホの処分、それだけでなく遺言や散骨の方法まで網羅する結果となった。
本書を書き終えた今、この先病気になろうが、仕事がなくなろうが、一文無しになろうが、世の中すべてを敵に回そうが、役所で適当にあしらわれて追い返されようが、ビクともしないだけの情報を身につけている。いわば「無敵」の状態だ。

ということで、ここまで集めた「死なないノウハウ」を、多くの人に伝授したい。
本書を読み終える頃には、あなたもきっと「無敵」になっているはずだ。


目次

本書の目次

著者プロフィール

雨宮 処凛(あまみや・かりん)
1975年、北海道生まれ。作家・活動家。反貧困ネットワーク世話人。
フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版、のちにちくま文庫)でデビュー。2006年からは貧困問題に取り組み、2007年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版、のちにちくま文庫)はJCJ賞を受賞。
著書に『非正規・単身・アラフォー女性』(光文社新書)、『コロナ禍、貧困の記録 2020年、この国の底が抜けた』(かもがわ出版)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)など多数。最新刊は『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)。

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