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【25位】ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの1曲―紫の、雨になるずっと前の「靄」が最初に立ち昇る

「パープル・ヘイズ」ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス
(1967年3月/Track/英)

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※こちらはドイツ盤シングルのジャケットです

Genre: Psychedelic Rock, Hard Rock
Purple Haze - The Jimi Hendrix Experience (Mar. 67) Track, UK
(Jimi Hendrix) Produced by Chas Chandler
(RS 17 / NME 159) 484 + 342 = 826 
※28位から25位までの4曲が同スコア

「826点まつり」4曲の最後を飾る、つまり最も高位につけたのは、この曲だ。ジミ・ヘンドリックス、3曲目のランクイン。65位の「ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)」が彼の最終燃焼だとしたら、「最初の」と言うべき1曲。セカンド・シングルのこのナンバーが、まさに「名刺代わり」として、彼の異能を広く世に知らしめた。

たとえば当曲は、ポール・マッカートニーに大絶賛された。67年2月当時、英〈メロディ・メイカー〉紙には「ブラインド・デート」なるコーナーがあった。そこにゲストで呼ばれた彼は、発売前の当曲をプロモ盤で試聴。「ジミはぶっ飛ばしてくれる。ますます音がよくなってる! そこらじゅうで受けるに違いないよ」とまで、言っていた。『サージェント・ペパーズ』制作も佳境に入っていた段階の、マッカートニーが。

とにもかくにも、創意工夫が詰まっている。導入部からして「異能」。ディストーション・ギターの不協和音じみた不穏なイントロから、巷間「ヘンドリックス・コード」と呼ばれる、ドミナント7#9が出る。ジャズやR&B界で使われていたこれを、「ロック化」した嚆矢がヘンドリックスだった。そして「オクタヴィア」だ。彼の定番となる最新鋭エフェクターが、ファズ・サウンドに「1オクターヴ上」の金属音調の響きを加え、単音パートをド派手に彩る。かくして「ラヴィ・シャンカールとB・B・キングの出会い」とも評される、摩訶不思議世界が現出。つまり――「サイケデリック」だったのだ!

ゆえにこの曲は、典型的なドラッグ・ソング、とくにLSDがらみの曲だと理解されることが多い。しかしヘンドリックス本人は、ラヴ・ソングなのだとも言っている。恋に落ちたことに気づいていない主人公が感じている謎の目眩の歌なのだ、と。また「SF読み」のヘンドリックスならではの、小説からの影響も指摘されている。フィリップ・ホセ・ファーマーの長篇『ナイト・オブ・ライト』(完成版は66年)には「紫がかった靄(Purplish Haze)」と呼ばれるものが登場する。地球から遠く離れたその惑星では、恒星の黒点が周期的にこれを発生させ、そのたびに住人の日常が大きく変動する。

当曲は全英3位まで上昇。アメリカでは初めてビルボードHOT100にチャート・インする。このときは65位に留まったものの、モンタレー・ポップ・フェスでの鬼気迫るプレイの余韻とも合わさって、ここから、ロック史上に残る一大スペクタクルが進行していくことになる。ジミ・ヘンドリックスという名の「超新星」が、高速回転を始める。

(次回は24位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki




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