【第16回】20世紀最恐の天才は何を考えていたのか?
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【第16回】20世紀最恐の天才は何を考えていたのか?

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?
★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

現代思想の「善・悪」の原点はフォン・ノイマン

再び拙著を紹介するのはおこがましいのだが、ぜひ読者に読んでいただきたいのが『フォン・ノイマンの哲学』である。彼は、20世紀を代表する天才のなかでも、ひときわ光彩を放っている人物だ。わずか53年あまりの短い生涯の間に、論理学・数学・物理学・化学・計算機科学・情報工学・生物学・気象学・経済学・心理学・社会学・政治学に関する150編の論文を発表した。

天才だけが集まるプリンストン高等研究所の教授陣のなかでも、さらに桁違いの超人的な能力を発揮したノイマンは、「人間のフリをした悪魔」と呼ばれた。彼は「コンピュータの父」として知られる一方で、原子爆弾を開発する「マンハッタン計画」の科学者集団の中心的指導者でもあった。

彼の死後、生前の論文を集めて出版された英語版『フォン・ノイマン著作集』は、全6巻で合計3689ページに及ぶ。第1巻「論理学・集合論・量子力学」、第2巻「作用素・エルゴード理論・群における概周期関数」、第3巻「作用素環論」、第4巻「連続幾何学とその他の話題」、第5巻「コンピュータ設計・オートメタ理論と数値解析」、第6巻「ゲーム理論・宇宙物理学・流体力学・気象学」というタイトルを眺めるだけでも、彼の論文がどれほど多彩な専門分野に影響を与えたかわかるだろう。

その一方で、ノイマンがいかに世界を認識し、どのような価値を重視し、いかなる道徳基準にしたがって行動していたのかについては、必ずしも明らかにされているわけではない。さまざまな専門分野の枠組みの内部において断片的に議論されることはあっても、総合的な「フォン・ノイマンの哲学」については、先行研究もほとんど皆無に等しい状況である。

そこで、ノイマンの生涯と思想を改めて振り返り、「フォン・ノイマンの哲学」に迫るのが、本書の目的である。そして、書き終えて改めて思うのは、やはり彼は、通常のセンスでは計り知れないということだ。ノーベル物理学賞を受賞したハンス・ベーテは、ノイマンのことを「人間よりも進化した生物ではないか」と述べているが、それが誇張ではないと思えるほどの人物である。

第2次大戦中、ノイマンは、日本人の戦争意欲を完全に喪失させることを最優先の目標として、「歴史的文化的価値が高いからこそ京都へ投下すべきだ」と原爆標的委員会で述べた。戦後は、アメリカから大量の原爆で先制攻撃を仕掛けて、ソ連のスターリン独裁政権を徹底的に壊滅すべきだと主張した。

晩年のノイマンは、アイゼンハワー大統領の主要ブレーンの一員であり、陸海空軍長官をはじめ、ロスアラモス国立研究所やランド研究所といったシンクタンクの所長と対等に話し合える立場にまで昇りつめていた。ガンで倒れた彼の病室に大統領側近が勢揃いして彼のアドバイスに耳を傾けたのは、それだけノイマンが信任され、先見の明を期待されていたからである。

もし彼が生きていたら、もっと早い段階で「ノートパソコン」や「スマートフォン」が誕生し、今頃は「量子コンピュータ」が実用化されていたかもしれない。ただし、犠牲を最小限にして最大利得を求める「ミニマックス戦略」を生み出した超合理的なノイマンは、キューバ危機や朝鮮戦争やベトナム戦争では、何のためらいもなく、核兵器の使用を大統領に進言したことだろう!


本書のハイライト

要するに、ノイマンの思想の根底にあるのは、科学で可能なことは徹底的に突き詰めるべきだという「科学優先主義」、目的のためならどんな非人道的兵器でも許されるという「非人道主義」、そして、この世界には普遍的な責任や道徳など存在しないという一種の「虚無主義」である。つまり、ノイマンは、表面的には柔和で人当たりのよい天才科学者でありながら、内面の彼を貫いているのは「人間のフリをした悪魔」そのものの哲学といえる。(p. 175)

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著者プロフィール

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高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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