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【第6回】なぜ日本は戦争を避けなかったのか?

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★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

戦争を避けるチャンス

歴史に「もし○○していたら」とか「もし□□でなければ」などという「タラレバは禁物」と言われる。後付けの理屈で都合よく歴史を解釈することに対する戒めの言葉である。もちろん、過ぎ去った歴史を変えることはできない。しかし、なぜ日本が第2次大戦に突入したのか、国家が破滅に向かわない道筋がなかったのかを研究することには、重要な意義があるだろう。

本書の著者・油井大三郎氏は、1945年生まれ。東京大学教養学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程修了。明治大学・一橋大学・東京大学・東京女子大学教授などを経て、現在は東京大学名誉教授・一橋大学名誉教授。専門は、日米関係史・国際関係史。著書に『戦後世界秩序の形成』(東京大学出版会)や『好戦の共和国アメリカ』(岩波新書)などがある。

さて、1914年6月、オーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者が暗殺された事件をきっかけに、ドイツ・オーストリア=ハンガリーを中心とする「同盟国」とフランス・イギリス・ロシアを中心とする「連合国」の間で戦闘が始まった。戦線は世界に拡大し、約50カ国を巻き込む第1次大戦となった。

この戦争では、史上初めて長距離砲・戦車・戦闘機・潜水艦・毒ガスのような大量殺戮兵器が用いられた。両軍戦闘員の戦死者は1千万人、非戦闘員の戦傷者は2千万人に及ぶ。結果的にはアメリカの参戦で「連合国」が勝利を収め、1919年6月28日、ドイツは屈辱的なヴェルサイユ条約に調印した。

「連合国」に加わった日本は、海軍をインド洋や地中海に派遣し、連合国側の兵員70万人の輸送を護衛した。アジアから参戦して高く評価された「大国」日本は、第1次大戦の膨大な犠牲が二度と生じないようにと1920年に「国際連盟」が発足した際、イギリス・フランス・イタリアと並ぶ「常任理事国」に選出されている。1928年には、戦争が「違法」であることを認め、「放棄」することを誓う「パリ不戦条約」(64カ国参加)にも調印した。

ところが、国内では、国際平和を優先して戦争回避を目指す「国際派」が、日本の利益を何よりも優先して戦争を主導する「民族派」に押し切られてしまう。1931年には軍部が暴走して「満州事変」を起こし、日本は世界で最初に「パリ不戦条約」に違反した汚名国となる。大日本帝国憲法において、軍隊は天皇に「統帥権」があるため、議会による「文民統制」ができなかったことが最大の原因である。

本書は①ヴェルサイユ条約、②ワシントン条約、③米国移民法、④中国国権回復運動、⑤張作霖事件、⑥ロンドン海軍軍縮条約、⑦満州事変の背景における「国際派」と「民族派」の論争を綿密に分析する。日本は中国を侵略し、中国はアメリカに協力を求めたわけだが、もし日本が欧米諸国と外交的に満州の利権を共有していたら、戦争回避のチャンスがあったというのである!

本書で最も驚かされたのは、1930年代の日本が国際的視野で「対中融和外交」を行い、「文民統制」ができていたら、逆に日本は「連合国」に加盟して、第2次大戦でも戦勝国の仲間入りをした可能性があった点である。なぜ日本はヒトラーと共に破滅に突き進んでしまったのか、その検証は貴重である!


本書のハイライト

日本の国際協調派は絶えず過激な民族派からの反民主的な方法による脅威にさらされていた。それは、天皇側近にも及ぶもので、憲法秩序への挑戦であったが、政党の一部がそれの動きに同調する傾向さえ示したので、政党政治はその脅威を抑制することができなかった。大正デモクラシーで政党政治が実現したといっても、当時の日本の民主政治は未成熟であったと言わざるを得ない。その未成熟さを象徴するものとして、軍隊に対する文民統制の欠如があった。(p. 293)

第5回はこちら↓

著者プロフィール

高橋昌一郎_近影

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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