「自己肯定感高い系」の人たち|辛酸なめ子
「人生100年時代」の後半へ
人生100年時代と言われていますが、後半になって焦燥感にかられてきました。インスタを見て、意識高い系や能力開発系のセミナーを見つけるたび、ついクリックしてメルマガ登録したりオンラインセミナーを受けたりしています。
今の自分に足りていないのは、英語力や人前で自分の考えを話すプレゼン能力など……。そこでまず登録したのが「英語で年収1500万円を目指す」という外資系英語力アップスクールのメルマガです。動画を拝見すると有能オーラを放っている日本人女性が、GAFA(米国の巨大IT企業4社)に合格する人の傾向などについて語っていました。外資系のIT企業では「ジョブディスクリプション(job description、略称JD)」が重要だとのこと。ジョブデ……? 一回で聞き取りできませんでした。ジョブディスクリプション? とははじめて聞くワードですが、自分ができる業務について詳しく綴った書類だそうで……。すでに敷居の高さを感じます。
面接では英語力やコミュニケーション力、人間性はもちろん、「職務遂行能力」「社風への合致」「変化への柔軟性」「自発的行動力」なども見られるそうです。面接は事前準備がマストですが、予期しない質問が振られて、臨機応変に対応できるかがチェックされます。
と、講師の先生。
もはやあきらめモードです。TOEIC600点台なので、何の土俵にも立てません。まず英語力を上げるためにこのスクールに入れば良いのかと思ったのですが、公式サイトに料金のことが載っておらず、セッションを受けてから料金やコースを教えてもらえるようでした。勇気が出なくて今のところ保留にしています。
「インテンション」「アテンション」「ノーテンション」
また、別の自己啓発系のオンラインセミナーも受講しました。自分の才能や生きる使命を発見できるプログラムを提唱している主催者のジャネットさんは、「トランスフォーメーショナル・リーダー」として活躍。またすごそうな肩書きが出てきました。ダライ・ラマ法王とも肩を並べる存在だそうです。グローバルで活躍する人の特徴として、自分の経歴を遠慮せずにアピールする、という点が挙げられます。日本人ならではの謙遜の姿勢で「たいしたことはしてません」「なんとか仕事を続けられています」などと言うと、海外の人にはその通りに受け取られてしまいます。大昔、アップルの発表会でジョブズと目が合ったという体験があるので、それを生かし「ビジネスシーンでジョブズとアイコンタクトを交わした」などと、盛って言いたくなります。
プレゼンや講演などでは、自己紹介がてらちょっと盛った経歴を言うことで、観客に、すごい人の話が聞けて、この時間はムダじゃない、とまず思ってもらえそうです。
オンラインセミナーに登壇したのは、ポジティブな印象の年齢不詳の女性。今回学ぶ5つのポイントが最初に明示されました。
の5つです。講演では、このように最初に話のポイントを公開する、というのも重要なテクニックだと学びました。私は少し前に行なった講演会で、アンケートに「講演に向いていないと思いました」と書かれてしまったトラウマがありますが、今回学んだことを次があれば生かしたいです。
「成功と呼吸法は切り離せない」とのことで、鼻孔を使った呼吸法からはじまりました。ジャネットさんはTM瞑想(超越瞑想)を55年以上続けているそうで……ますます年齢不詳です。むしろアンチエイジング法について聞きたいです。
また、重要なトピックである「望むものを創造する方法」は、「インテンション」「アテンション」「ノーテンション」の3つの要素が重要だとのこと。一昔前の井脇ノブ子議員の「やる気・元気・いわき」を思い出すフレーズです。それぞれ、「人生で何を作り出したいか意図を考える」「そのためにできることに注意を向ける」「リラックスし手放す」ということを表す単語だそうです。
「常に自分のパッションに従う選択をしましょう」と、ジャネットさん。「Exciting successful life」「Energy purpose」「Transform」「Shining」「Passionate purpose」など意識高いポジティブなワードを連発していて、言霊のパワーでテンションが上がります。
最終的には、受講料40万円の、4日間の集中講座をすすめられました。自分のマスターになり、人生のエキスパートにもなれる講座とのこと。48時間以内に申し込めば割引で30万円になるそうで、高いのか安いのかよくわからなくなってきます。
「みんなで幸せをつかむことができるのです。あなたの人生のあらゆる側面が充実しはじめます」と、数十分ほど講座の説明をして、「皆さんと一緒に過ごすのはとても楽しいです」と、ウェブごしの観客もフォロー。講演で、同じ時間を過ごせたことの感謝や感動について話すと好印象です。このオンラインでも話術を学ぶことができました。40万円の講座は保留にいたします。
「自己肯定感高い系」
ここまで、ネットでの体験でしたが、先日、リアルの意識高い系(というか年収高い系)セミナーに参加することができました。ブロードウェイで俳優として活躍しているバイリンガルのMinamiさんが、外資系金融会社で働く人の集まりで、英語で講演をされるというのです。
今回は部外者も拝聴できるそうで、参加費も数千円と安かったのでエントリーしました。入力フォームに職種を選択するリストが出てきたのですが「KJRM」「ムーディーズ」「モルガン・スタンレー」「UBS」「ブルームバーグ」「シティ」「ドイツ銀行」「ゴールドマン・サックス」といった項目を見て怖じ気づきそうになりました。「その地」を選択し、当日は会場である六本木の外資系証券会社のオフィスへ。オフィスのインテリアも素敵でアート作品が飾られ、おしゃれなピンチョス的な軽食も並んでいて、随所に余裕を感じました。
講演までの短い時間、軽食コーナーにいたら「M&Aチームにいて不動産の案件とかも……」といった会話の断片が聞こえ、ここはガチのエリートが集まる場だと実感。アウェイ感で取り乱してスマホを落としたら「僕のスマホが落ちたのかと思ったよ~」と大柄な外国人男性に笑顔で言われました。エリートはフレンドリーです。
ホールに移動すると、白いパンツスーツ姿が素敵なMinamiさんが登場。講演のテーマは「3 secrets of top performer」です。やはり最初に項目数を出すのは、聴く人に興味を盛ってもらうために重要な方法です。Minamiさんは下積み時代はオーディションに87回続けて落ちるほどのハードな生活だったそうですが、88回目で幸運をつかんでからは順調にステップアップ。『王様と私』『ミス・サイゴン』『マイフェアレディ』などにも出演。渡辺謙など世界的な俳優とも共演しているそうです。やはり講演の序盤で華麗な経歴を紹介するのは有効です。
完全にネイティブな英語でよどみなく話される姿がかっこいいです。しかも常時笑顔を浮かべていました。自信と自己肯定感にあふれています。まず、自分はそこが足りないのだと実感。世界中から成功を夢見て「アンビシャスでパッショネイトな」人が集まるブロードウェイで活躍するには、ポジティブなマインドでいることが必要のようです。
という言葉を肝に銘じました。
謙遜エネルギーはほどほどに
トップパフォーマーになる秘けつは、まず「Check your energy」。ポジティブなエネルギーはその場の空気を明るくします。良い波動を放っている人の方が、仕事に呼ばれやすいそうです。また、疲れているときや、いやなことがあったときも、常に自分自身に対して肯定的でいることが大切、だそうです。私などは失敗したり問題が起こるとすぐ自分はダメだと思ってしまいがちでした。
続いて「Be open」。常にオープンな姿勢でいることも重要です。開放的になることで視野が広がり、その先にあるものにもっと興味を持つことができます。そして3つ目は「Own your worth」。自分を認めることが小さな勝利につながります。
Minamiさんはオーディションで評価してもらえたことがきっかけで、自分自身を肯定的に見られるようになりました。「英語が下手ですみません」と言うのではなく「こんにちは、私は日本人です」と堂々と自己紹介するのが良いそうです。
今回、オンラインやリアルで学ばさせていただいた3名とも、ポジティブで自己肯定感が高いという点が共通していました。私は謙遜のエネルギーが強すぎて自己肯定感も下がってしまっていました。自分に足りないものを改めて把握し、人前で話すテクニックや英会話などを学ぶことができました。
リアル会場では外資系のエリートたちのオーラやエネルギーも吸収。また、ありがたいことにピンチョスのあまりがボックスに入れられ、持って帰れるようになっていました。リッチな会社のホスピタリティに感じ入りました。参加者の世界最大級の金融グループ所属の外国人男性に「エリートですよね?」と聞いたら「ボチボチです」とのことでした。やはり謙虚になりすぎないマインドでした。
今回の講演の感想を、友人知人が英語で次々とグループLINEに投稿。いつの間にか英語縛りが……。でもその流れに乗って「I'm so glad to see you. Your smile empowered everyone. Thank you!」などと私も英文を書き込んだらテンションが高まってきました。あとでこの短い文の中にスペルミスを複数発見しましたが……もう自分を否定しないことにします。