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【16位】マイケル・ジャクソンの1曲― 天才王子の「開けゴマ」が、史上最大のスペクタクルを触発する

「ビリー・ジーン」マイケル・ジャクソン(1983年1月/Epic/米)

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※こちらはイギリス盤シングルのジャケットです

Genre: Post-Disco, R&B, Funk
Billie Jean - Michael Jackson (Jan. 83) Epic, US
(Michael Jackson) Produced by Quincy Jones and Michael Jackson
(RS 58 / NME 57) 443 + 444 = 887

ジャクソン5はあったものの(51位「アイ・ウォント・ユー・バック」)、当リスト初のマイケル・ジャクソン・ナンバーが、ようやく出た。あの「魔法の1曲」だ。

ご存じ当曲は、お化けヒット作『スリラー』(82年12月、『教養としてのロック名盤ベスト100』では36位)の収録曲であり、同作からのシングル第2弾だった。つまり、およそ6千6百万枚以上を販売し「人類史上、最も売れたアルバム」となった同作のための扉を開いた1曲だ。ビルボードHOT100で1位、全英も1位を獲得した。

この曲がいかに傑出しているか、大物プロデューサーのLAリードがのちに語っている。「それまでに自分が聴いたどんな曲よりも多くのフック(聴き手の耳をとらえる箇所)が、1曲のなかにあった。曲の要素全部がキャッチーで、すべてのパートが違うフックを奏でている。これを分解するだけで、ヒット曲を12曲は作れるよ」――と、そこまで誉められるナンバーの基本型を形にしたのは、マイケル本人だった。詞と曲はもちろん、「勝負を決定づけた」シンセ・ベースも(ホール&オーツに影響を受けた)彼のアイデアだった。 

共同プロデューサーのクインシー・ジョーンズは、当初この曲が嫌いだったという。わからないでもない。一見いろいろと「妙」だからだ。まず、歌詞が変だ。主人公に迫る女性「ビリー・ジーン」の奇行が主題だ。グルーピー的な彼女は息子を生んでいて「父親はあなたよ」と示唆するのだが、主人公には(表向き)身に覚えはない。だから「ビリー・ジーンは僕の恋人じゃないよ」というのが、コーラスで繰り返される。そして不穏なベース・ライン……普通なら、あまり人好きしない要素ばかりだ。しかし「マイケル脳」のなかでミックスしたならば!――まるで魔法の粉をかけたように、カエルが王子様に変身するみたいに、キャッチー全開の1曲となった。ただただ彼の天才性が、爆発力を生んだ。

さらに、ダンスもあった。伝説となったモータウン25周年記念コンサート(3月25日)、当曲のパフォーマンス中に、人類は初めて彼のムーンウォークを目撃する。先立つ10日にリリースされたMVはMTVでヘヴィー・ローテーションされ、これにより、同局編成上の「人種障壁」に大きな穴が穿たれて、やはり「扉を開けた」。そして84年、ジャクソンズがペプシのCM撮影中に事故が起きる。マイケルが深刻な火傷を負ってしまう。のちの整形手術癖や鎮痛薬耽溺の起点となる悲劇がこれだとされているのだが、同CMで使われていたのも、マイケル自身のアレンジによる「ビリー・ジーン」の替え歌だった。

(次回は15位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki





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