【第40回】「中立」は「正義」ではない!
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【第40回】「中立」は「正義」ではない!

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★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

ヘイトスピーチ解消法の意義

在日韓国人の高校生が、実名を挙げて「悪性外来寄生生物種」などとブログに匿名で書き込まれた。少年は「ひどいヘイトスピーチを見たときの恐怖やショックを忘れることができません。家族みんなが傷つきました」と告訴し、情報開示請求によって66歳の匿名投稿者が特定された。2018年12月、川崎簡易裁判所は「侮辱罪」を認め、この男に科料9千円の略式命令を下した。

これが、ネット上の匿名ヘイトスピーチが「侮辱罪」で処罰された最初の事件である。司法が有罪を認めた意義がある一方で、「ひどいヘイトスピーチ」をしても僅か9千円を支払えば済むのかと、批判の声も挙がった。

在日韓国人の35歳の男性は、ネットの「2ちゃんねる」掲示板に実名を挙げて「在日朝鮮人の詐欺師」や「イヌやネコを食べている」などと書き込まれたため告訴した。2019年1月、石垣簡易裁判所は「名誉棄損罪」を認め、書き込んだ2人の匿名投稿者を特定して、各罰金10万円の略式命令を下した。

これが、ネット上の匿名ヘイトスピーチが侮辱罪よりも重い「名誉棄損罪」で処罰された最初の事件である。被害者は「差別や心ない誹謗中傷を受けて泣き寝入りしていた人を勇気づけるきっかけになれば……」と述べている。

本書の著者・角南圭祐氏は、1979年生まれ。大阪外国語大学卒業後、愛媛新聞記者、共同通信大阪社会部・福岡編集部・社会部記者などを経て、現在は共同通信広島支局次長。著書に『戦争への想像力』(共著、新日本出版社)と『ろうそくデモを越えて』(共著、東方出版)などがある。

さて、2016年6月3日、「ヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)」が施行された。ここで「ヘイトスピーチ」というのは、「特定の国の出身者であること又はその子孫であることのみを理由に、日本社会から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりするなどの一方的な内容の言動」を指す。

具体的には、人種・民族・性など「自分の努力では変えられない属性」のみに基づいて、(1) 一律に排除・排斥すること(「○○人は出て行け」「祖国に帰れ」等)、(2) 危害を加えようとすること(「○○人は殺せ」「海に投げ込め」等)、(3) 著しく見下すこと(昆虫や動物に例える等)であり、それらを見聞きした人々に「悲しみや恐怖、絶望感などを抱かせるもの」と定義される。角南氏は、ヘイトを報道する立場から多種多様な論点を綿密に分析している。

本書で最も驚かされたのは、角南氏が「私は差別主義の右翼少年だった」と告白していることである。松山市にある彼の実家の前に皇族が使う老舗旅館があり、皇族が訪れるたびに歓迎する市民が日の丸の小旗を振った。ところが、皇族が去った後、大切な日の丸の小旗が道に捨てられているのを見て「憤慨と正義感」が湧きあがり、「国粋主義者」に育ったそうだ。

その彼が、外国語大学で在日韓国人教授の授業を受けて、韓国の豊かな文化と日本人による「差別」の実情を知り、「『なぜこんな大事なことを知らなかったのか』と悔しくて恥ずかしくて泣いてしまった」という。要するに、ヘイトスピーチの根源にあるのは、相手や文化に対する「無知」なのである!


本書のハイライト

私は今後も、記者である限り反差別の記事を書き続けるし、人間である限り差別に反対し続ける。「私は差別をしない」では差別はなくならない。「私は差別に反対する。闘う」でなければならない。そのために、差別に反対する政策と法制度をつくり出し、差別に反対する仲間を増やしていきたい。この本を読んで、共に反差別の戦線に立とうと感じてくれればうれしい。(p. 261)。

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著者プロフィール

高橋昌一郎_近影

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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