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【6位】ザ・クラッシュの1曲―沈みゆく街の防人が告げる、地獄まじりの冬が来る

「ロンドン・コーリング」ザ・クラッシュ(1979年12月/CBS/英)

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Genre: Punk Rock, Post-Punk
London Calling - The Clash (Dec. 79) CBS, UK
(Joe Strummer, Mick Jones) Produced by Guy Stevens
(RS 15 / NME 32) 486 + 469 = 955

代表曲中の代表曲、ザ・クラッシュの代名詞的ナンバーが、ここに入った。パンク・ロックの定義を書き換えた名作アルバム『ロンドン・コーリング』(『教養としてのロック名盤ベスト100』では第8位)のタイトル・チューンにしてオープニング曲だ。〈ローリング・ストーン〉は、当曲含む同アルバムを、昔から「えこひいき」するほど好んでいた(詳細は『名盤ベスト100~』をご覧ください)。結果的に、それがこの高位へとつながった。「ライク・ア・ローリング・ストーン」を、当曲がわずか3点差で抜き去った。

というこのナンバーは、79年のリリース以降、まるで出世魚のように存在感を高めていった。冒頭から最後のSOSモールス信号まで、「一度聴いたら忘れられない」印象ぶかいフレーズに満ちているからだ。ロンドンにおけるオリジナル・パンクを象徴する1曲と見なされつつも、音楽スタイルとしての狭義のパンク・ロックとはかけ離れていたから「ポスト・パンク」の一部とも認識された。さらには「ロンドンの観光案内にぴったり」のナンバーとしても、親しまれた――たぶん、歌詞をあまり聴かない人々のあいだで。

たしかにこのタイトル・フレーズを「ロンドンからの呼び声」だと解釈すれば「おいでませ、ロンドンへ」となる――のかもしれない。それは間違いなのだが、この路線でのメディア起用は数多く、007映画での使用(02年の『ダイ・アナザー・デイ』)はまだしも、ロンドン五輪時のブリティッシュ・エアウェイズのCMでの使用は「なぜなのか?」と現地で物議をかもした。「一体全体、どんな五輪をやる気なのか?」と。だってこの歌で描かれているロンドンとは「地獄のようなディストピア」だからだ。破滅寸前の「死にゆく街」だからだ。

このフレーズは、第二次大戦中のBBC国際放送(World Service)のコール・サインに基づいたものだ。のちにジョー・ストラマーが自身のラジオ番組にて再現してみせていたが、「This is London Calling...」とやるやつだ。戦時中のBBCは、これを敵対国の占領下にある地域に向けた放送のなかで使用した。つまりナチス・ドイツや大日本帝国の軍隊に蹂躙され、支配されている人々に「勇気と希望を与えるため」の放送だ。遠からず「解放」の日はかならず訪れる。だから少なくとも「精神だけは」敗北してはならない。レジスタンスよ、決起の日は近い。「こちらはロンドン」空襲にも耐え、踏ん張り続けた「自由の拠点」だ。全体主義を、侵略者を打ち負かすまで、この放送を止めはしない……といったようなストーリーが、あらかじめ背景にあるフレーズが、これなのだ。

だから当曲の主人公は、地下組織への秘密通信をおこなうようにして「各地にひそむ」同志たちに声を送ろうとする。隠れている少年少女から、ゾンビにまで通信しようとする。だが大戦時のBBCと大いに違う点がひとつある。主人公がいるロンドンもまた「いまにも滅亡しそうになっている」というところだ。この部分がコーラスで描写される。

氷河期の到来。太陽の接近。原発はメルトダウン寸前。農作物は凶作で、エンジンは止まり、テムズ川の氾濫によってロンドンは水没しつつある(当時のストラマーの不安要素てんこ盛りだ)。さらに「俺は川の側に住んでいる」とまで主人公は言う――そんな黙示録的光景のもとにありながら、なおも休まずに「通信」を試み続ける。つまり当曲は「抵抗」の歌なのだ。ぎりぎりの状態でも「持ちこたえよう」とする精神のありかたを、汎地球規模の「被抑圧者たち」に向けて放ったレベル・ミュージックがこれなのだ。

ゆえにサウンドのほうも、勇ましい。同時に、暗い。まるで、あの世へと向かっていく行進曲みたいだ。とくにポール・シムノンのベースが、重くどろどろと、文字どおり「おどろおどろしく」鳴り続ける。この路線は80年発表のレゲエ・ナンバー「コール・アップ」にてより突き詰められるのだが、そこでは明確に、米海兵隊の訓練歌におけるコール&レスポンスがモチーフとなっていた。反戦平和を希求しつつ、しかし同時にドラマチックな戦争趣味も色濃くある、彼ららしい「異形の」パンク・ナンバーが当曲だと言える。

この曲はまず、アルバム発売直前に先行シングルとしてイギリスで発売された。これが全英11位まで上昇、バンド存続時のシングル最高位を記録した。アメリカでは、翌80年の米盤アルバム発表後、「トレイン・イン・ヴェイン」のB面曲としてリリースされた。同曲がHOT100の23位まで達し、初の全米ヒットとはなったものの、「ロンドン・コーリング」そのもののチャート・インはなかった。だからその後の〈ローリング・ストーン〉の行動(=激推し)は、一種の罪滅ぼしのようでもある。雨中のテムズ川、ボートの上で、白い息を吐きつつ彼らが演奏するMV(ドン・レッツ監督)も伝説的だ。

(次回は5位の発表です。お楽しみに! 毎週金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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