たこ焼きとお好み焼きの形、逆じゃだめ?|パリッコの「つつまし酒」#97
「はあ、今週も疲れたなあ…」。
そんなとき、ちょっとだけ気分が上がる美味しいお酒とつまみについてのnote、読んでみませんか。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、それが「つつまし酒」。
そろそろ飲みたくなる、毎週金曜日だいたい17時ごろ、更新です。
お好み焼き専用のフライパンを買いました
実はしばらく前にまたまた新しいキッチングッズを買ってしまいまして。
和平フレイズ「簡単お好みプレート 元祖ヤキヤキ屋台」というんですけれども、いわゆる「ホットサンドメーカー」型の円形フライパン。これでお好み焼きを作ると、その構造上、お好み焼き最大の難点である「ひっくり返し」を絶対に失敗しない。我が家ではお好み焼きってそう頻繁に作るメニューでもないし、そもそもひっくり返すときのドキドキも含めてがお好み焼きとも言える。失敗しないだけのために買う? とも思ったんですが、一度気になると欲しくてどうしようもなくなってしまうんですよね。
こういうものです
結果、買って後悔はしてません。だって元祖ヤキヤキ屋台で作ったお好み焼き、あまりにも美しい仕上がりで、プロ級っていうかもはや冷凍の市販品か? ってくらい美しいんだもん。
作ること自体が楽しい!
しかも、外はカリッとなかはふっくら。屋台なんかで売られている「大阪焼き」(西日本では「リング焼き」などと呼ばれるそうです)に近い感じもある。とにかく、自分がなんの苦もなく作ったとは思えない完成度に仕上がるので、なんだか料理上手になったような気になれちゃうんですよね。
もちろんこの形なので、パンケーキなんかもきれいに焼けるし、ホットサンドメーカー同様、あれこれ食材を挟み焼きするのにも重宝します。まだ試してないけど、冷凍のピザに具を増して焼くのとかも楽しそうだな〜。
平べったいたこ焼きの味は?
ところで、我が家にはたこ焼き用の鉄板もあります。そこでふと思った。お好み焼きといえば平べったいもの。たこ焼きといえばまん丸なもの。そういうふうに相場が決まっている。けどそれ、逆じゃいけないんだろうか? と。
試せるじゃん、この環境ならば!
やってみよう!
さっそくスーパーで、比較しやすいよう同じメーカーのお好み焼きとたこ焼きの粉を買ってきました。ソースはちょうど、以前に縁あっていただいた「ダイコクソース」のお好み焼きおよびたこ焼きソースがあったので、それを使います。ダイコクソースは大阪市福島区にある小さなソース会社で、創業大将12年の老舗。今回の検証にはこれ以上ないんじゃないでしょうか。
まずはお好み焼き形のたこ焼きから
まずはたこ焼き粉を袋の指示通りに水と卵で溶き、生地を用意します。まずこの時点で気がついたんですが、たこ焼きってキャベツが入らないんですね。いや、入れるお店や地域もあるのかもしれませんが、今回使った粉の材料のところには書いてなかったし、確かに今まで僕が食べてきたたこ焼きにもキャベツが入っていないことが多かった気がする。漠然と、「たこ焼きとお好み焼きって、形以外に何が違うんだろう?」なんて思ってましたが、とんでもないですね。相変わらずぼーっと生きてるな、自分。
主役のタコを載せていきます
そんでまた、たこ焼きの生地、あらためて見るとけっこうしゃばしゃば。どちらかというと液体で、ほんとに固まるの? って心配になるくらい。そこに、通常と同じようにタコ、あげ玉、紅ショウガ、小ネギを散らし、上からさらに生地をかけて焼きあげれば完成。
華やかで美味しそうな見た目
お、いい感じに焼けたぞ
これがお好み焼き型のたこ焼きだ!
生まれて初めて対峙する平べったいたこ焼き。一見するとお好み焼きだけど、箸を入れるとぜんぜん感触が違います。お好み焼きのような渾然一体というようりは、こんな形になってもちゃんと、中身のとろもちを外の皮がけなげに包み込んでいる。こんな姿形はしているけれども、こいつは間違いなくたこ焼きだ。なんだか頭が混乱してきたぞ。
目安となる穴がなかったので、タコがどこに入っているかわかりません。ひと口に2個のときもあれば、無のときもある。その当たり外れが楽しく、特に無のときの素朴さが不思議と嫌じゃない。というか、むしろ愛おしい。もしかして、お好み焼き形のたこ焼きを作るときは、具なんて入れなくていいんじゃないか? という気すらしてきます。こんどやってみよっと。
タコのお宝感も楽しいんですけどね
誕生!「練馬焼き」
続いてはお好み焼き。たこ焼きを作ったあとだと、生地のしっかりさはもはや個体ですね。しかもそこに、これでもかってくらいにキャベツが入ってる。こうして見るとお好み焼きって、ほぼキャベツ焼きですね。たこ焼きよりだいぶヘルシーな感じはします。
具はもちろん豚肉
火が通らないと心配なので、まずはたこ焼き機の穴で豚肉を少し焼き、それから生地を投入。生地が水っぽくないので鉄板の隅々にいきわたってくれず、ちゃんと焼けるのか不安になります。
あきらかに配合間違えた感
それでもコロコロと転がしているとちゃ〜んと丸くなるのがたこ焼き器のすごいところ。なんとか、見た目は完全にたこ焼きなお好み焼きが完成しましたよ。
誰が見てもたこ焼きだ
食べてみて感動しましたね。たこ焼きのようにもっちりとろとろじゃなく、味も食感も確かにお好み焼き。なんだけど、ぜんぜん違和感がなくて、むしろひと口サイズで食べやすく、ビールのつまみにばっちり!
たこ焼きをお好み焼き形に作る意味はあまり感じなかったけど、お好み焼きはこっちのほうがいいんじゃないの!? とすら。
ちなみに両方のソースを純粋になめくらべてみると、どちらも濃厚な甘酸っぱさではあるんですが、たこ焼きソースはちょっと尖った感じで辛味も効かせてあるのに対し、お好みソースはより野菜感を残した自然な感じでした。
つまり、たこ焼きとお好み焼きって、同じ粉もんでも驚くほど方向性が違っていて、たこ焼きはちょっとジャンクなおやつ、お好み焼きは野菜もたっぷりとれるメイン料理。という感じになるのかな。
特に関西人の方々にとって、当たり前すぎること言ってたらすみません。
丸いお好み焼き、いい!
思ったんですけど、たこ焼きってその名の通り、基本的に具はタコ限定になりますよね。そこへいくとお好み焼きは「お好み」っていうくらいなんだから、もっと自由でいいんじゃないか? となると、このたこ焼き形こそ、真のお好み焼きと言えるんじゃないか? だって、全ての穴に違う具材を入れることだってできるんですよ。こんなにお好みに応じた料理はなかなかないんじゃないですか?
というかこれもう、今のうちに勝手に新しい名前つけといちゃったほうがいいような気がしてきたぞ。我が家のある練馬区で生まれたから「練馬焼き」なんてどうでしょう? これからの時代のニュースタンダードはタコパならぬ「ネリパ」だ!
……もうすでにまん丸のお好み焼きを出しているお店や地域があるかどうかは、夢がなくなるので調べないことにします。
パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2020年9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco