終盤の大失速には"予兆"があった。巨人が3位に沈んだ理由を投打・采配から分析
熱烈な巨人ファンで、多くの野球マニアや選手たちからフォローされるゴジキさん(@godziki_55)が巨人軍を分析。
巨人は24日に今シーズンの全日程を終了し、61勝62敗20引き分けという負け越しの結果に。3位でのクライマックスシリーズへの進出こそ決定しましたが、終盤の大型連敗など不安・不満の残るシーズンになりました。戦力のどこが不十分だったのか、補強や采配には何が望まれるのか。今シーズンの総決算をいつもより大ボリュームでお送りします。
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とにかく痛かった怪我人と離脱者
今シーズンの巨人は、2007年や2010年のようにシーズン終盤まで三つ巴の戦いで首位争いを繰り広げたが、シーズン終盤に大失速。ヤクルト・阪神に劣る形で、優勝を逃した。個人的にも、巨人軍に関する書籍を出版させて頂いたシーズンで3連覇を逃すことになったのは非常に残念である。
また2019年、2020年と原辰徳第三次政権の連覇を支えた亀井義行と大竹寛が、今シーズン限りでの引退を表明した。この2選手はどちらも、キャリア晩年にも関わらず柔軟にスタイルを変え、巨人を5年ぶりのリーグ制覇に導く活躍を見せた姿が印象的だ。特に大竹は「中日キラー」として2014年の優勝に貢献したが当時はあまり評価されず、その後は2018年まで苦境の時期を過ごした。だが、2019年に中継ぎとして最後の輝きを見せて、リーグ優勝はもちろんのこと、日本代表の一員としてプレミア12の優勝にも貢献した。今シーズンのV逸は、優勝を知るブルペン陣のまとめ役の大竹が不在だったことも大きかっただろう。
大竹に限らず、今シーズンはとにかく怪我人や離脱者などが相次ぎ、昨シーズンまで活躍してきた選手たちが表舞台に出てこなかった。とりわけ新加入の梶谷隆幸等、野手に怪我人が多く、フルシーズンを戦えたのは岡本和真だけだった。
そうした状況でもシーズン中盤まで上位に踏みとどまれたのは、連覇の経験による、勝ち慣れた戦い方を持っていたからだろう。逆に言えば、昨シーズンまでのように他球団がミスに溺れて自滅していくようであれば、3連覇できた可能性もあった。しかし、今シーズンは前半戦は阪神の勢いに押され、後半戦は勝てるチームに効率よく勝つことのできたヤクルトがジリジリと調子を上げていき、3位という結果に終わった。
やはり、シーズンを通してのターニングポイントになったのは、8月31日から9月5日、ヤクルトと阪神との対戦カードが続いた1週間だろう。エース・菅野智之の力投もあってヤクルトに2勝1分で幸先いいスタートを切ったが、阪神には1勝もできずに終わった。その流れを引きずる形でシーズンが終了してしまった感がある。これまでの連覇のツケが回ってきた結果とも言えるが、来年以降の逆襲のためにはこれまで以上に、投打に対する整備が必要になっていくだろう。
坂本勇人を早々に下げてしまった阪神戦から一気に失速
上述した6試合の中でも、とりわけシーズンを左右したのが9月5日の阪神戦である。この試合ではチームリーダーの坂本勇人を6点リードの場面でベンチに下げた後、追いつかれて引き分けに。2連敗している中でなんとか1つでも勝ちを拾いたかったところだったが、痛すぎる結果となった。
坂本が名実ともに「球団史上」はもちろんのこと、「プロ野球史上」においても最高の遊撃手にふさわしい選手であることは間違いないだろう。今シーズンでプロ15年目を迎えたが、走攻守三拍子に渡る活躍を見せ続けたこれまでの功績は計り知れない。
9月は打率.350以上を残し苦境のチームを孤軍奮闘で引っ張っていた坂本が、大事な甲子園での3連戦で特に気合いが入っていたことは、そのプレーを見ていても明らかだった。そのような存在である坂本を途中で下げたことは、くどいようだが悪手としか言いようがない。オフェンス面以上に、巨人がこれまで築き上げてきた屈指のディフェンス力は坂本の存在で成り立っていた部分があり、実際に交代後は守備面でもミスが生じてしまった。この第3戦はほぼ確実に勝てていた内容だっただけに、原第三次政権史上でも最悪に近い采配だったと言えよう。この試合から悪夢のような試合が続いたことも否めず、ある意味でチーム全体の緊張感や士気が糸のようにプッツンと切れてしまった3連戦だった。
東京五輪から休みなしで出場していた坂本のコンディションに気を遣う必要があることはこの連載でも何度も強調しているが、首位攻防の試合となれば話は別だ。攻守の要であり、逆転優勝を目指すうえで最重要選手である坂本を試合中盤で外す意味がどこにあったのだろうか。もちろん点差が開いていたことを考慮したのだろう。しかし、このカードの初戦で勢いづいた阪神を目の当たりにしているならば、この時期の巨人の流れがあまりよくなかったことも含めて、確実にとってチームを勢いづかせることが間違いなく必要だった。
坂本の代わりに若手の選手が遊撃手を守る機会も少しずつ増えてきたが、ポジショニングや連携などの細かいプレーは正直まだかなり差がある。加えて、ピンチの時にマウンドに行き、投手に劇を飛ばしてきたような役割を他の選手が担えるかどうかも非常に重要だ。坂本は単に守備のうまさだけではなく、長年巨人を引っ張ってきた「精神的支柱」という側面からしても、なくてはならない存在というわけだ。
シーズンを通して埋められなかった打線の長打力・火力不足
後半戦の大失速の要因として挙げられるのが、打線の長打力不足だ。主軸の長距離砲である岡本和真が9月から失速をしたが、それと歩調を合わせるかのようにチーム全体も失速した。
シーズンの勝負どころや短期決戦では、えてしてロースコアゲームの展開となりやすい。その際に、長打力を活かした起死回生の一発で勝つ方法論は非常に重要である。3割打者が不在であっても、下位打線からも一発が出る打線は相手チームからすれば充分に脅威である。しかし、岡本の失速後はなかなかそういった試合運びは見られなかった。
岡本自身の問題として、エース級の投手に当たった後にフォームを崩すことや、好不調の波が激しいことは、今後のキャリアでぜひ解決してほしい。一時期は坂本が調子を上げていき、2人でチームを引っ張っていたが、ヤクルトの山田哲人・村上宗隆の並びが坂本・岡本の上位互換となっていたのは否めない。
また、丸佳浩が最終的にはチーム2位となる本塁打数を記録をしたが、不調時に2軍に下げたことや、今シーズン限りで引退をする亀井義行を優先的に使うなどの理不尽な起用も大きく影響した。丸に関しては、年齢的に衰えてくる時期に差し掛かっているため、攻撃の各フェーズにおける打撃スタイルを再確立することは必須になってくる。
チーム全体を見渡しても、かつての阿部慎之助に頼りがちだった頃のように、左打者で定期的に長打を打てる選手が今は丸しかいない。外国人を獲得するなどして埋めていくしかない状況だ。今シーズンは、この数年の巨人を支えてきた坂本・丸・岡本のコア3選手に強く依存した打撃陣であることが露呈した。彼らが万全でないときに、フォローできる存在が出てこなかったのだ。ゼラス・ウィーラーはある程度頑張っていたが、夏場に調子が下降。新型コロナウイルスの関係で帰国をしたジャスティン・スモークの穴は、シーズン全体で見るとずっと埋められずにいた。さらに、スモークがいたからこそウィーラーの良さも活かされていた部分があり、その点でもバランスが崩れた。
終盤の大型連敗に関しては、打線の低火力化が大きく影響している。シーズン途中から加入した中田翔を含めて、来年の戦いはここ数年埋められなかった穴を埋めていくことが真っ先に求められる。その上で、かつての松井や阿部のように、シーズン通して試合に出続けられる前提で、「試合の流れを変えられる存在」になり得る選手も必要不可欠である。
投手は高橋優貴・野手は松原聖弥が成長を遂げる
とはいえ、明るい材料がまったくなかったわけではない。躍進を遂げた1人が、4月から大活躍を見せ、チームで唯一の二桁勝利を挙げた髙橋優貴である。オールスターでも初戦の先発を任されるなど、キャリアハイの活躍ぶりだった。
高橋は一般的にイメージされる先発投手とは異なり、球速は速くなく、しかもいわゆる「数字以上に打者の手元でピュッと伸びている」というわけでもない。しかし、そうした球質・特性を生かして抑える投手だ。ストレートの球速感とスライダーのギャップが少ないことに加えて、スライダーやスクリュー(チェンジアップ)の軌道が他の投手と比較すると特殊がゆえに、好成績につながった点はあるだろう。
その髙橋は特に阪神との相性が素晴らしく、5戦4勝で防御率も1.45。甲子園では一時期19イニング無失点を記録するなど、脅威の成績を残していた。とりわけリーグトップの成績を残していた前半戦は、阪神打線の中軸である大山悠輔を11打数無安打、ジェリー・サンズを9打数無安打と一切打たせずパーフェクトに抑えている。さらに、流れを引き寄せる選手でもあるスーパールーキーの佐藤輝明に対しても9打数2安打で、長打を一本も許していない。まさに、「阪神キラー」としての活躍が目立ったシーズンだった。
また野手に目を向けると、昨シーズンから主力に定着している松原聖弥が外野陣を引っ張る存在になってきた。球団歴代タイ記録となる27試合連続安打や育成出身では最多となる12本塁打を記録し、頼もしさが増してきている。今後もキャリアを重ねて、育成出身選手として球団記録である松本哲也の336安打や、プロ野球記録である岡田幸文の573安打を更新する可能性も充分にある。こうした打力だけでなく、守備範囲も広く肩も強いことから、高齢化が進む外野陣の中では長期的な戦力として見込んでいきたい。来シーズン以降も松原が計算できるようであれば、年齢的に守備範囲が狭くなっている丸をセンターから両翼にコンバートすることも可能だろう。
エース菅野智之の離脱で、ローテーション再編に苦しむ
昨シーズンはセ・リーグのMVPに輝き、メジャー移籍の噂がありながらも残留をした菅野智之だが、今シーズンは故障に苦しみ、複数回の離脱があった。不調や怪我で思うようなピッチングができず、平均球速も一時期は140km/h台前半に低下するほど苦しんでいた。
昨シーズンは、エースとして「負けない」投球を続け、開幕から連勝を伸ばしていき、菅野1人でチームの約半分の貯金を作り出した。技術的なレベルが高いのはもちろんだが、データ的な観点から「揺れ戻し」と言われるものではなく、要所で「ギアチェンジ」をして相手を抑えていたのは明確だ。残念ながら、今シーズンはなかなかそうした姿を見られなかった。
復帰した9月以降は球威が戻りつつあったが、チームの不調時と重なり、勝ち星に恵まれなかった。高橋遥人と投げ合った9月25日の阪神戦では正直に言って力負けをしたが、この日の菅野のピッチングからは、「エースとしての責務」が感じられた。逆に言えば、調子が上向いてきたからこど、「完璧」に近い投球を披露した高橋と試合中盤まで渡り合えたのだろう。
菅野の離脱や不調は単純にその分の勝ち星を見込めなくなっただけでなく、投手陣の編成にも大きな影響を及ぼした。チームは先発陣の再編に苦しみ、苦渋の決断として中4日・中5日のローテーションが生まれた。後半戦から中4日・中5日の登板を繰り返していたが、フルシーズンを戦うのがキャリアで実質初となる高橋優貴や、東京五輪明けのCCメルセデスには逆効果だった。また、メジャーリーグから返ってきた山口俊も、アメリカではそこまで登板機会を与えてもらえず、2018年や2019年のような馬力は影を潜めていた。
短い期間のローテーションを組んで、早い段階で2番手にロングリリーフをさせる戦略であれば、4月に好投を見せていた今村信貴を入れるなど、一枚「谷間」を挟んでもよかったのではないだろうか。こうした、焦りの見える先発ローテーションを組んでいたにも関わらず、8月以降は圧倒的なピッチングを見せている畠世周を先発に復帰させなかった点は不可解だ。首位を奪えないからと焦らずに、前半戦終盤からの悪くない流れを生かして戦っていけば、やがて首位に立って優位にペナントを戦えていただろう。
シーズン終了まで改善されなかったブルペン陣の継投策
昨シーズンと同様に開幕当初から状況が読めないコロナ禍だった。とはいえ、トータルで見ても100試合以上あった中で、継投策は改善されなかった。中継ぎや抑えとして登板する投手は登板試合数だけが見られがちだが、試合展開によっては毎日のようにブルペンに入ることもあり、負担は非常に大きい。正直、現在の巨人のブルペン陣は「異常」であり、肩が「消耗品」である投手からすれば、行き当たりばったりで急遽投げるのは最悪だ。
接戦が増えたり勝ち試合が続けば、勝ちパターン級の投手が登板過多になりやすい傾向はどうしてもある。だが、それ以外の試合でも同じように主戦級の投手を注ぎ込んでしまえば、負担が増えるのは火を見るよりも明らかだ。下記は、そうした「主戦級」を昨年と比較した結果である。
・中川皓太
2020年:37試合 2勝1敗 17HP 6S 防御率1.00
2021年:58試合 4勝3敗 28HP 1S 防御率2.47
・鍵谷陽平
2020年:46試合 3勝1敗 16HP 0S 防御率2.89
2021年:59試合 3勝0敗 15HP 1S 防御率3.19
・高梨雄平
2020年:44試合 1勝1敗 22HP 2S 防御率1.93
2021年:55試合 2勝2敗 22HP 1S 防御率3.69
・大江竜聖
2020年:43試合 3勝0敗 12HP 2S 防御率3.11
2021年:47試合 0勝0敗 13HP 1S 防御率4.09
試合数が少なかった昨シーズンと比較しても、防御率が悪化している。短いイニング、失点が許されない場面で投入をされる選手たちがこのような結果では、3連覇が困難な状況になったのも当然だ。彼らを大差のついた試合でも起用したことで勤続疲労が蓄積し、状態が落ちてしまった面は否めない。大差のついた展開では、今シーズン好調を維持していた田中豊樹を上手く起用できすケースも間違いなくあった。
前半戦のチームを支えていたチアゴ・ビエイラが疲労から離脱をしたことや、その後状態が落ちてきたタイミングも重なったのが痛かったのは事実だ。しかし、順位がほぼ決定した試合でも勝ちパターン級を休ませないなど、シーズン終盤まで改善の余地は全くなかった。
原辰徳監督の来季の続投が決まったが、こうした状況を変えるために、投手コーチ陣などの人選から整備していってほしい。