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カイワレマヨポンゴマあえベーコンエッグのせ|パリッコの「つつまし酒」#101

フィーリング料理の醍醐味

 自炊をされる方、とりわけ僕と同じように、大さじだの小さじだのを駆使してきっちりとレシピどおりに作るのが苦手な“フィーリング料理派”の方にならわかってもらえると思うんですが、ごくまれに、てきとうに作った創作料理の味がビシッと決まってしまうことありません?
 毎日のように作っているのは、お店で出てきたら笑っちゃうけれど美味しくないとも言い切れない、なんともぼんやりとした料理の数々。それをどこか釈然としないような気持ちでつまみつつ、「まぁ、これも晩酌の味わいだよな」なんてチューハイで飲みくだす。「あのさ、それが嫌ならきちんとレシピ見て作りなさいよ!」と思われるでしょうが、どうしても面倒なのと、それから冒頭のとおり、たまに奇跡の絶品料理ができてしまうことがあり、その成功体験、「おれって天才?」と悦に入ってしまう楽しさが忘れられないので、また同じことをくり返してしまうんです。
 例えば、パスタをゆで、冷蔵庫に余っていた野菜や肉と炒め、塩コショウにめんつゆ、目についたハーブの小瓶やらでなんとなく味をつける。隠し味にこの「発酵バター」っての、ひとかけら入れてみっか。そんなふうに作った「名もなきパスタ」が奇跡の美味しさで、妻にも大好評。後日、「こないだのパスタ、また食べたいな」って言われても、「いや、悪いけど作りかた、知らねぇし……」っていう。まさに一期一会。でもそこが、フィーリング料理の醍醐味なんですよね。

突然の絶品料理

 先日、そんな過程でまたしても生み出してしまい、それでいて比較的「これは再現性が高いぞ」というものがありました。それこそが「カイワレマヨポンゴマあえベーコンエッグのせ」。
 以前までまったく興味がなかったのに、突然「カイワレ」にどハマりした話はしばらく前にさせてもらいましたね。最近はさすがに、家の冷蔵庫にストックがないと不安で冷や汗が出てくるほどではなくなったものの、週に1、2回は買ってあいかわらず美味しくいただいています。
 特に気に入っているのが、カイワレにマヨネーズとポン酢とゴマをあえただけの「カイワレマヨポンゴマあえ」。いろんな「油」や「味」とあえてみましたが、マヨネーズのまろやかさがカイワレの辛味をちょうどよく抑えてくれて、自分的にはこれがいちばんしっくりくるんですよね。

 ある日、なんだか心やさぐれ、雑なつまみで晩酌をしたい気分の夜があった。そこでいつものようにカイワレマヨポンゴマあえを作って皿に盛り、あとはなんだ、え〜と、ベーコンエッグ でも作るか。と思い立ち、面倒なのでそれを、カイワレマヨポンゴマあえの上にドサっとのせてしまった。あ、もちろん、家族にも出すわけではないですよ? あくまで、妻の料理のサブとして僕が勝手に作っただけ。
 で、それがなんだか、妙〜に美味しかったんですよ! 「あれ? 突然思いがけないタイミングで絶品料理生み出しちゃった?」っていう。

再検証の結果は……

 とはいえ、その時のなんらかのバランスがちょうどよかった結果の「偶然の美味しさ」の可能性は否めない。もう一度あらためて検証してみる必要があります。
 前回は、地元のローカルスーパー「まなマート」オリジナルの切れはしベーコン、長崎県島原半島ニュークイック指定農場「雲仙赤たまご」を使った。それからポン酢は、僕が絶大な信頼を寄せているチョーコーの「かけぽん」のさらに限定品。長崎物産館で見つけて買った「実生ゆずかけぽん」を使った。特にこいつのチート感が怪しい。
 そこでごく普通の素材として、安いパックのベーコンと、10個150円の「ミックスたまご」、それから「味ぽん」を用意し、それらで作ってみることにします。

 大きめのボウルに半分の長さに切ったカイワレ1パックぶんを入れ、マヨネーズとポン酢をそれぞれ2周くらい回しかけ、ゴマを好きなだけ加えてよく混ぜる。お皿に盛ったら次はベーコンエッグ。てきとうな大きさに切ったベーコンを片面に焦げ目がつくまで焼いてひっくり返し、必要そうなら油少々を足し、卵を割り入れる。弱火にしてフタをし、卵が好みの固さになったら、それを豪快にカイワレの上にのせれば完成。

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全ての分量は「好きなだけ」

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これだけで最高のつまみになります

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ベーコンを焼いて

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ハムエッグもできました

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完成!「カイワレマヨポンゴマあえベーコンエッグのせ」

 さて、あらためて本当に美味しいのか、チューハイ片手に検証していってみましょう。
 まずはカイワレをちんまりとつまんでみます。あ、これだ! この、ジューッと香ばしい油を吸ってしんなりしたカイワレ。これがまず美味しいんだった。
 続いてはベーコン。これもカイワレと一緒に食べてみると、若干食感が単調になりがちなベーコンに対するアクセントとなり、これまたいい。よく定食屋なんかで、たっぷりの千切りキャベツやレタスと一緒にベーコンエッグが出てくることがありますが、このカイマヨポンゴマのほうが、さらに両者のラブラブ度は高い気がします。
 続いてはベーコンエッグ最大のお楽しみ。半熟の黄身をちょんとつついてそこに醤油をひとたらしし、「卵黄ソース」にしてベーコンを絡めて食べるターン。ここにもまたカイワレを合わせてみます。するとこれがもう! 目玉焼きのとろりとした食感と卵黄のコク、ベーコンの塩気と香ばしい肉々しさ。それだけでパーフェクトなのに、そこにカイワレのシャキシャキととポン酢の甘酸っぱさとマヨネーズのまろやかさが融合して……この三位一体、何気ないようで、やっぱりけっこう革命的な組み合わせなんじゃないかな。
 最後にお皿に残る、すべての旨味をまとってヘナヘナになったカイワレがまた、いいつまみになりますね。

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三位一体の美味しさ

 ただ、「個人的に好き」というだけの理由ですが、ポン酢はかけぽんを使った時のほうがより全体がマッチしていた気がします。気になる方はそちらでお試しあれ。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2020年9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco


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