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【34位】セックス・ピストルズの1曲―「永遠に抜けない棘」の金字塔、体制に深々と突き刺る

「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」セックス・ピストルズ(1977年3月/Virgin/英)

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Genre: Punk Rock
God Save the Queen - Sex Pistols (Mar. 77) Virgin, UK
(Glen Matlock, John Lydon, Paul Cook, Steve Jones) Produced by Chris Thomas and Bill Price
(RS 175 / NME 27) 326 + 474 = 800

前回から1点差で、この曲が来た。まさにアイルランド人の積年の呪いが結晶化した順位――なのかもしれない。UKなど先進諸国が20世紀までに打ち立てた「栄えある秩序」に正面から弓引いて、ものの見事に「NO」と言い放ったナンバーが当曲だ。

ロンドン・パンクを語る際、一番先に名前が出てくるべきバンド、セックス・ピストルズのセカンド・シングルが、この曲だ。そもそものタイトルは「ノー・フューチャー」だった。だからこのフレーズが、繰り返される。「お前らには」未来はないのだ、と。あるいは「イングランドの夢」にも未来なんてない、と。もうひとつ繰り返されるのが、曲名と同じ「神よ女王を護りたまえ」。これはイングランドでほぼ国歌に近い形で歌われる讃歌(つまり日本の「君が代」みたいなもの)と、同じフレーズだ。この2つが歌詞の主軸で、そのほかの箇所は、いろんな角度から「悪口の肉付け」をしていく格好となる。

たとえば、君主制は「ファシスト体制だ」とか。「女王は人間じゃない」し「観光客はカネ」だから、それらを神に護ってもらえ、とか……そう言ってる自分らは「ごみ缶のなかの花だ/お前ら用の人間マシーンのなかの毒だ」と述べる。そしてこのみすぼらしく、みんなが忌み嫌う「俺らこそが」お前らの未来の姿なのだ、つまり未来は全部「真っ暗なのだ!」――と、アイルランド系のジョニー・ロットン(のちのライドン)は、ここで歌っている。棘だらけでささくれだった、問答無用のパンク・ロック・ギターに乗せて。

というナンバーを彼らは、よりにもよって、エリザベス女王の戴冠25周年で国中が沸き立っている年にぶつけた。僕は寄宿学校にいたので、当時のロンドンを見ているのだが、あり得ない「文化的自爆テロ攻撃」だったと言い切れる。もし日本の天皇に同様の祝典がある年に、こんなことをやったらどうなるか――もちろんUKでも「まともな」社会からは蛇蝎のように嫌われたのだが、そのせいで目立って売れて、結果全英2位。本当は全英1位の実績だったのに「操作されて」順位を下げられた、という噂はずっとある。しかしそれでも「こんな曲が2位まで行った」ことの歴史的意義は、きわめて大きい。

この当時のイギリスは、長引く不況ゆえ「内戦寸前」とまで言われるほど、社会が痛み切っていた。とくに労働者階級は、悲惨だった。そこに渦巻く憤怒に、この曲はひとつの出口を与えた。「怒り」のパンク・ロックの誕生だ。たった1枚だけの彼らのスタジオ・アルバム(『教養としてのロック名盤ベスト100』では20位)にも収録されている。

(次回は33位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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コメント (2)
はじめまして

ジャケットワークを担当した、ジェイミー・リードの展覧会に行った事があります
B全サイズのジャケットは、かなりの迫力がありました
まるで当時の若者の怒りを代弁するように
没バージョン(エリザベス女王の顔が文字で塞がれてなく、唇に安全ピンのモノ)も展示されてましたが、結果的に正式の方が怒りを表してるように思いました
コメント、ありがとうございます。著者の川崎さんにもお伝えしました。
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