往年のアンダースロー/サイドスローの名投手の本9冊で勝手に打線を組んでみた!
私が光文社新書を好きな理由のひとつ…
それは本邦で、唯一野球の「アンダースロー」をテーマにした新書を出しているからです!!
あ、申し遅れました、note担当の田頭です。唐突に何を言っているかですって? えーと、それにはまずアンダースローの魅力を力説しなきゃなんでしょうが…
まず、アンダースローの投手は、もう存在自体がドラマチックなんです。オーバースローやスリークォーターがほとんどを占める中、プロ野球だと育成選手を含めてもチームに1人いるかいないかでしょう。私が今パッと思い浮かぶところで、一線で活躍する現役投手は5人くらいでしょうか。一瞬にして個性が際立つ投げ方ーー。観ていて本当に飽きません。
次いでフォームが美しい。流れるような体の使い方、しなやかな腕の振り…まさにアスリートにしかできない技だと思わせられます。吉本ばななさんの『キッチン』じゃありませんが、どんなアンダースローであっても、そこにはたまらない美しさがあるのです。
そして、美しい投げ方の結果生まれる浮き上がるようなストレートの軌道や、独特の曲がり方をする変化球に魅力されます。オーバースローのピッチャーの球筋とは明らかに違いますからね。
最後に、足腰やら体幹に負担がかかりそうな(肩や肘は逆に楽らしいのですが)投げ方をわざわざ選ぶ、そのマインドと経緯が興味深いです。普通に投げるより絶対に疲れるはずで、そもそもアンダースローの投げ方を指導できる人がもうそんなにいないとか。この投法に至るまでには、きっと各々のストーリーがあるに違いないのです。
以上が私がアンダースローを偏愛する理由です。そこで今回の企画を思いついたわけですが、たぶんサイドスローもカウントしないと9冊も見つからない気がしたので、始める前から条件を和らげました(笑)。
というわけで、今回はかなり読む人を選ぶマニアックな内容になります。里中智や北大路輝太郎の名にニヤッとしてしまう人、あるいは燃えるプロ野球やファミスタ、パワプロのような野球ゲームでやたらとアンダースローのピッチャーを使いたがった人(世代的にプロスピではない!)には、たぶんツッコミどころ満載ながらも楽しんでもらえることを願っています。
1番ライト 武智文雄 『生きて還る』
1番ライト、完全にイチローのポジションですが、ここは伝説のアンダースロー、武智文雄に任せましょう。えっ、のっけから誰かって? いえ、さすがに私も実際にご本人を観たことはありませんが(笑)。とにかくこの本を読むと、いろいろスゴすぎる人! パリーグ初の完全試合達成者だし、1954年には26勝で最多勝にも輝いています。あのノムさんが、近鉄・楽天の歴代ベストピッチャーの5位に挙げた投手なのもさることながら、インパクト抜群な書名(フォントも強そう!)からもわかるように特攻隊からの帰還兵でもあります。トップバッターとして一度塁に出たら、必ずやホームに生還してくれることでしょう!
2番ショート 渡辺俊介 『アンダースロー論』
あの地面すれすれからの流れるような優美なピッチング、叶うことならもう一度見たいものです。この後にも登場するミスターサブマリン、山田久志も認めていた近年屈指のアンダースローといえばこの人。まさに記憶に残る選手でした。渡辺さんによると、アンダースローは積極的に選択したわけではなく、あくまで上から横からと投げて試行錯誤した結果たどり着いたんだとか。とても謙虚なお人柄がうかがえますが、そんな渡辺さんには、クリーンナップにつなぐ2番を打ってもらいましょう。ポジションは、しなやかなで運動能力が高そうだからショート!(雑)。
こちらは今回の企画のきっかけとなった1冊です。この本が出たとき私はもう入社して雑誌の部署にいましたが、心底やられたーと思ったものです。
3番センター 小林繁 『情熱のサイドスロー』
3番は、あの江川卓の空白の一日事件のために巨人から阪神にトレードされた小林繁です。その悔しさを胸に秘め、移籍初年度の1979年に対巨人戦8連勝、シーズン22勝をあげて最多勝と沢村賞に輝いた背番号19に、私を含む全阪神ファンが心を奪われました。生き方としてカッコよすぎですよね。細身の全身からしぼり出すようなタメのあるフォームも実にカッコよかった! そんなすらっとした姿が西武の秋山ばりに外野に映えそうなので、小林さんにはセンターを守ってもらいましょう。あ、秋山は翔吾じゃなくて幸二のほうですよ。
ちなみに、後年、因縁の江川氏と共演した黄桜のCM(YouTubeに転がっています)はドキュメントタッチの構成で、一言一言が感動的なまでに深い傑作でした。もう10年前になりますが、早逝されたことが本当に残念です。
4番ピッチャー 山田久志 『投げる』
ピッチャーだけで組む仮想(妄想?)の打線で、誰をピッチャーにすればいいか。今回はもうこの人しかいませんよね。ミスターサブマリン! アンダースロー最多、それを除いても素晴らしい通算284勝。そしてあの本当に美しく舞うかのようなフォーム! 速球派から2種類のシンカーを駆使する技巧派へと転身して3年連続MVPの大エース、実働は20年。長く活躍した人だけに、王さんに始まり落合や清原までとの対決エピソード、もしくはストレートに行き詰まりを感じて先輩である足立光宏(この人もアンダースロー!)にシンカーの握りの教えを乞う話あたりが有名ですが、本書はもうちょっと理論的な野球論で、さすがは屈指の名投手コーチであった山田さんならではの内容になっています。
5番サード 杉浦忠 『僕の愛した野球』
上品な装丁です。なんだかみすず書房や白水社あたりの堅い本が並ぶ棚にありそうな。それもそのはず、杉浦さんは球界の紳士として知られた人でした。個人的な思い出としても、監督時代のダンディなロマンスグレーのお姿が忘れられません。現役時代の圧倒的な存在感ついては、もう半ばパワプロのサクセスモードみたいな成績がよく物語っていて、1959年には38勝4敗、防御率1.40という空前絶後の記録を打ち立てます。その華麗なアンダースローによるピッチングは、ノムさんに自分がボールを受けた中で最高の投手と言わしめたほどのもの。そんな杉浦さんは文句なくクリーンナップの一角。立教大学の同級生で、親友である長嶋さんと同じサードで決まりです。本書に書かれる、南海ホークスの身売りが決まった際に思わず涙をぼろぼろとこぼされるエピソードは、杉浦さんが端正なたたずまいの人だけに胸を打ちます。
6番ファースト 皆川睦雄『名球会comics皆川睦雄 唸れ!華麗なるアンダースロー』
アンチ巨人だった私にとって、「皆川睦雄」とは、王ジャイアンツで西本聖と確執のあった投手コーチの名でした(西本はのちに中日にトレードに出されます)。そんな報道に幼い少年が暗い喜びを覚えなければならないほど、当時の阪神は弱かったのです…。ちなみにこちらは1992年初版のコミック。しかも「名球会comics」という、名球会入りした往年の名選手の来し方をコミカライズした激シブなシリーズです。今回、難航したあげく最後にすべり込んだ1冊がこちらでした…。
そう、このシリーズに採り上げられる皆川さんは、あまり知られていないかもですが、実は通算221勝もあげているれっきとした大投手なのです。しかも前出の杉浦さんと並ぶ南海ホークスの二枚看板がともにアンダースローだったというのは、何ともオツな話。華やかな杉浦忠が快速球を武器とする本格派アンダースローなら、玄人好みの皆川睦雄はシンカーとコントロールで勝負する技巧派アンダースローといった具合に、プレースタイルは対照的な2人だったわけですが、それを受けていたキャッチャーはあのノムさん! 古き良き、そしてとんでもなく濃ゆい時代の話です。皆川さんにはそんなわけであえての杉浦さんの後をしっかり打ってもらいましょう。
7番レフト 角盈男 『「日本の魔球」がメジャーを制す!』
元野球選手の陽気なタレント…というイメージをいだく向きがほとんどでしょうが、若い頃は長身からのサイドスローが迫力満点の巨人のリリーフエース(昭和の野球ではクローザーとは言わない)でした。後年ノムさんのヤクルトで引退する頃には左のワンポイント的技巧派に変身していましたが、ワンポイント登板も今年からメジャーでは禁止。時代の流れを感じますね。打順と守備位置のイメージがいちばんわかなかった人ですが(失礼!)、左腕だと内野は守れないし、意外な一発がありそうな人でもある(本書では黒田博樹がメジャーで活躍することを予見しています)ので、ここは7番レフトに起用です。
なお角さんは恵比寿でスナックを経営されています。けっこう居心地のいいお店でした。
8番セカンド 鹿取義隆 『救援力』
7番が角なら、8番は鹿取で決まりでしょう。懐かしすぎる「角ー鹿取ーサンチェ」の救援陣トリオは、王監督率いる巨人の勝利の方程式でした。手堅そうな風貌的に(笑)、守備位置はセカンドで。それにしても鹿取さん、巨人でも西武でも、文句も言わず毎試合のように投げる働き者でした。本書にも、明治大学時代に先発でノックアウトされた後、島岡吉郎監督に罰として1000球の投げ込みをさせられた思い出がさらっと書かれていて驚かされます。今なら野球部自体が吹っ飛ぶかもしれないくらいの話ですね(笑)。
9番キャッチャー 高津臣吾 『二軍監督の仕事』
そしてラストの9番は、この打順をカギとする高津監督自身に入ってもらいましょう。本書で提唱される2番・6番・9番重視論が、今年のヤクルトにどう反映されるのか今から楽しみです。そんな高津さんのポジションは、やっぱり古田との黄金バッテリーにちなんで、迷うことなくキャッチャーですよね。
なお、これも隔世の感をいだくお話ですが、高津さんが1992年の西武との日本シリーズ後にノムさんに習得を命じられたというシンカー、昔はサイドスローやアンダースローの変化球というイメージでしたが、最近ではオーバースローのピッチャーもガンガン投げますよね。しかもパワーシンカーとかハードシンカーといった強めのネーミングの。私は高津さんのするっと力の抜けたようなシンカーが好きだったけどなあ。
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いかがでしたでしょうか。他にも、上田次朗とか田村勤とか葛西稔とか遠山奨志とか伊藤敦規とかジェフ・ウィリアムス(以上、すべて阪神タイガース)、あるいは斎藤雅樹や松沼博久、潮崎哲也あたりも有力候補でしたし、はたまた高橋直樹や宮本賢治、永射保や清川栄治といった人たちに触れたかった思いもあったのですが、いかんせんアンダースローやサイドスロー投手の本は少ない!というか、ない、(笑)
途中企画の成立自体が危ぶまれましたが、なんとかゴールまでたどり着きました。ちなみにこのチームの監督はノムさん以外に考えられませんね。図らずも、過半数はノムさん絡みの選出になってしまいましたから(笑)。
追記:奇しくもこの記事を投稿した直後、野村克也さんは逝去されました。残念な思いでいっぱいです。謹んでご冥福をお祈りします。
↓長く読み継がれてほしい1冊です!