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【第1回】「教養」への第一歩は「自分とは何か」を知ることにある!

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?
★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

「自己分析」をするうえでの3つの悩み

連載第1回で自著を紹介するとは、おこがましい限りであることを十分承知している。しかし、『自己分析論』には、現代人の「教養」の原点に位置する「自分とは何か」という問いに立ち向かうために必要な3つの基本理念がすべて含まれている。というわけで、あえて拙著を最初に取り上げたことを、ご容赦いただければ幸いである。

さて、これまでの私の経験によれば、日本の多くの大学生や社会人が「自己分析」に抱いている疑問や悩みは、およそ次の3種類に分類できる。

第1に、就職活動においては、自分がどのような人間か認識していなければ、どんな仕事に就きたいのかわからないし、もちろん「自己PR」もできない。志望企業が決まれば、その企業が求める人物像と自己像のギャップをどのように埋めればよいか、どこまで自分をさらけ出してよいのか、どの部分で自分を飾るべきなのか、さまざまな「具体的な対策」について疑問が生じる。

第2に、就職活動が進むにつれて、人間関係の中で自分をどのように表現すればよいのか悩み始める。面接でうまく自分を表現できない、グループワークで自分の立ち位置がわからないといった状態で時間だけが過ぎていく中で、ますます「自分らしさ」が見えなくなる。異なる業種の面接で異なる自己像を演じているうちに「自己アイデンティティ」が揺らいでしまうケースも少なくない。

第3に、就職活動が終われば、とりあえず目先の目標は達成される。ところが、実際に社会人生活が始まると、自分で選んだはずの仕事がおもしろくない、自分の得意なことを会社で活かせない、自分が期待していた人生と違うといった不満を抱くようになる。勤務先でのストレスに押し潰されて、退職や転職を考えるケースも出てくる。そこで改めて「自分とは何か」と本格的に悩み始めるわけだが、むしろこれがソクラテス的な「いかに生きるべきか」という哲学的思索の出発点といえるかもしれない。

『自己分析論』の目的は、これらの3種類の疑問や悩みにどのように対処すればよいのか、多彩な論点に焦点を当てて議論することによって、読者自身がうまく「自己分析」できるようにサポートすることにある。

第1章の「就職活動における自己分析」では、就職活動で直面する諸問題を具体的に解説し、第2章の「対人関係における自己分析」では、実際の自己分析ツール使用例と心理学における性格分析の意味を検討し、第3章の「人生哲学における自己分析」では、ソクラテス以来の哲学における「自己」の見解について、さまざまな観点から考察する。

いわゆる就職活動対策用の「自己分析」ノウハウ本やワークブックは数多く出版されているが、本書のように3つの異なる視点から「自己分析」そのものに深く踏み込んだ書籍は、他に類を見ないものと自負している。

本書に登場する5つの「自己分析ツール」(マインドマップ/自分史/モチベーショングラフ/SWOT分析/ジョハリの窓)や「ビッグ・ファイブ」「ワトソン・ダイヤグラム」のようなツールを試してみるだけでも、「自己」に関する多種多様で有益な情報を得ることができるだろう。

そこから、ソクラテス的な「いかに生きるべきか」という哲学的思索が始まり、「プラトンの暗黒面」や「スターウォーズの哲学」も理解できる仕組みになっている。お楽しみいただけたら幸いである。


本書のハイライト

神経生理学的に考えると、人間の「脳神経系」は外界からの刺激によって常に機能的・構造的に柔軟に変化する「可塑性」という性質を持つことがわかっている。つまり、実は外見だけではなく、内面の「自己」も大きく変化し続けているわけである。……「自己」は確定的ではなく、実際にはいくらでも「揺らぐ存在」といえる。逆に言えば、「自己」はいくらでも生まれ変わることができるのである!(pp. 236-237)

著者プロフィール

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高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。



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