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第七世代が話題の今、ラリー遠田が提示するお笑い芸人の新しい「世代区分」

編集部の田頭です。「第七世代」と呼ばれる芸人たちを目にしない日はありませんが、と同時に、いま再び「世代論」が盛り上がる兆しを感じます。「今どきの若い者は…」「これだから年寄りは…」というのはいつの時代も繰り返されてきた世代間のいさかいに違いありませんが、価値観や生活スタイルの大きな転換期を迎えている今、お笑いの世界もそうした「世代」的考え方の影響が鮮明に表れていると言えそうです。お笑い評論家・ラリー遠田さんが、これまでのお笑い批評の集大成的に、お笑い芸人の世代を第一から第七まで整理し、それぞれの特徴をまとめました。発売を記念して、「はじめに」「区分年表」「目次」を一挙公開いたします!

なぜ「お笑い世代論」が流行っているのか

「お笑い第七世代」という言葉が生まれてから2年余りの月日が流れた。第七世代と呼ばれる気鋭の若手芸人たちの勢いはとどまるところを知らず、今ではお笑い界の一角に着実に居場所を築きつつある。

 お笑いの歴史上、新しく出てきた若い芸人たちが一時的にもてはやされたことは何度もあるが、第七世代の場合はそれだけに終わらない息の長いブームになっている。

 私はお笑い評論家を名乗り、お笑い業界の動向を日々追いかけている。そんな私から見ても、今回の第七世代ブームは興味深い現象だ。

 というのも、少し前までのお笑い界では高齢化が叫ばれていて、若い芸人はなかなか世に出てこられなくなっていたからだ。

 だが、第七世代ブームによってその状況がガラッと変わり、いまや第七世代が1つの勢力となっている。

 世代論にはどこかうさん臭いところもある。しかし、世代を表す言葉が作られ、その認識が広まることで、結果的に世の中が動いていくという現象自体は興味深いものだ。

 日本で世代論が流行る理由の1つは、日本が諸外国と比べて人種・宗教・言語・所得などの格差が少ない均質的な社会であるため、人々の間の微妙な差異を語るための材料として、世代論が便利だからなのだという。

 たしかに、芸人について考えるうえでも、世代論という物差しは実に使い勝手がいい。

 今のテレビでは、幅広い年齢層の多種多様な芸人があらゆるジャンルの番組に出演している。70代のビートたけしと20代の霜降り明星が肩を並べて同じスタジオ空間にいることさえある。

 年齢も生き方もキャリアもまったく違う芸人たちが当たり前のように共存するお笑い界を論じるにあたって、「世代」という視点を導入するのは有効である。

「第七世代」という言葉が発明されたおかげで、そこから逆算して第一世代から第六世代までの大まかな分類が行われるようになり、世代ごとの違いについても盛んに論じられるようになった。

 私自身も、メディアの中でそういった芸人の世代論についてコメントをしたり、文章を書いたりしたことが何度もある。

 ただ、誰をどの世代に入れるか、世代ごとの特徴をどう考えるか、といったことについては、識者によって見解が微妙に異なり、定説のようなものはない。

 本書は、そんな「お笑い世代論」に関する私なりの見解をまとめたものだ。

「第七世代」という言葉が世間に浸透し、第七世代の特徴などがメディアではやたらと語られる割に、それ以前の世代に対する言及が少なかったり、芸人の世代論そのものについてきちんと議論が行われていなかったりすることが個人的には気になっていた。

 本書の分類・整理がどのくらい的を射ているかはわからないが、自分の中では決定版と言えるような内容を目指したつもりだ。

 第一世代以降の芸人の世代論を語るうえで外せないのが「テレビ」の存在である。1953年に日本で地上波テレビの本放送が始まって以来、テレビは各家庭にどんどん普及して、やがて芸人たちの主戦場にもなっていった。

 第一世代以降、芸人が「売れる」とは「テレビにたくさん出る」ということを意味するようになった。戦後の芸人の歴史を振り返るうえでは、彼らがテレビとどう関わってきたか、ということを考えざるを得ない。

 第一世代と呼ばれる芸人たちは、テレビという新しいメディアに適応することで、一時代を築いた。

 その後、各世代の芸人たちが、テレビという戦場で火花を散らし、領土争いに明け暮れた。

 そして、第七世代の時代に入ると、テレビの影響力は下がり、テレビだけにこだわらないという芸人も増えてきた。

 本書ではこのような芸人とテレビの関係性の変化に注目しながら、世代論を組み立てていくことにする。

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本書で扱う各世代の代表的な芸人

 本書では、芸人を「第一世代」から「第七世代」までに分類して、それぞれ世代ごとの特徴について解説していく。

 各世代ごとに2組ずつの代表的な芸人を取り上げて、彼らを中心に話を進める。

 本書で主として論じる各世代の芸人は以下の通りである。

 ・第一世代 いかりや長介(ザ・ドリフターズ)、萩本欽一(コント55号)
 ・第二世代 ビートたけし、明石家さんま
 ・第三世代 とんねるず、ダウンタウン
 ・第四世代・第五世代 ナインティナイン、ロンドンブーツ1号2号
 ・第六世代 キングコング、オリエンタルラジオ
 ・第七世代 霜降り明星、EXIT

 第一世代の代表がいかりや長介と萩本欽一であることに関しては、恐らく異論を唱える者は少ないだろう。

 彼らは舞台で見せる芸とは違うテレビ向けの「テレビ芸」を発見し、それを極めたことで時代の寵児となった。

 第二世代の代表は、一般的には「タモリ・たけし・さんま」の「お笑いビッグ3」であると言われている。

 だが、タモリは赤塚不二夫などの文化人に評価されて脇道から芸能の道に進んだ異端児であり、いわゆる「芸人」とは一線を画す存在である。

 そのため、師匠のもとで修業を重ね、舞台で経験を積んできた、たけしとさんまを代表的な芸人として取り上げることにした。

 第三世代の代表がとんねるずとダウンタウンであることに関しても、一般には彼らと同列であるウッチャンナンチャンをなぜ外すのか、と違和感を持つ人もいるだろう。

 もちろん、ウッチャンナンチャンはお笑い史を語るうえで重要な存在ではある。

 しかし、テレビバラエティやお笑いの分野で後世に与えた影響がより大きいのは、とんねるずとダウンタウンのほうではないかと思う。

 そのため、今回は割愛することにした。

 第四世代・第五世代のナインティナイン、ロンドンブーツ1号2号、第六世代のキングコング、オリエンタルラジオに関しても、なぜ彼らを選んだのか、疑問に思う人がいるかもしれない。

 この2つの世代はとにかく芸人の数が多い。レギュラー番組を複数持つような売れっ子だけに絞っても、その数は膨大なものになる。

 その中でこの4組を選んだのは、彼らがいずれも若いうちから注目され、キャリアの早い段階で成功を収めた同世代のトップランナーだからだ。

 芸人の数が多く、競争が激しい中で、いち早く圧倒的に突き抜けた存在になったのがこの4組である。

 そのため、第四世代・第五世代と第六世代に関しては、あえてこの4組に絞り込んで論じていくことにする。

 第七世代に関しては、まずは「第七世代」という言葉の発明者でもある霜降り明星が代表であることには異論はないだろう。

 もう1組の代表としてEXITを取り上げたのは、彼らの活動や発言内容が新しい世代に象徴的なものであると思うからだ。

 それぞれの芸人を選んだ理由については、各章の中でも改めて説明することにする。

世代分けの定義

 お笑いを世代で語ろうとするときの一番の困難は、そもそも何を基準にするべきか、確固たる定義が存在しないことだ。

「第三世代」や「第七世代」という言葉自体はもともとあるものだが、それらも明確に定義されているわけではない。

 芸人を世代で分けるための大まかな基準としては、「生まれ年」「デビュー年」「売れた年(世に出た年)」の3つが考えられる。

 お笑い世代論がメディアで語られるときには、この3つそれぞれの都合のいい部分を取り入れて世代分けをしていることが多い。

 そこで、本書ではあえて「生まれ年」のみを基準にして世代分けを考えることにする。「デビュー年」や「売れた年」に比べると、最もぶれがなく客観性のある指標だからだ。

 また、第四世代と第五世代は区別せずにひとまとまりと考えて、同じ章で扱うことにする。この件について詳しくは本文中で述べる。

 本書の第一世代から第七世代までの定義は以下の通りだ。

 ・第一世代 1931~1946年生まれ
 ・第二世代 1947~1960年生まれ
 ・第三世代 1961~1970年生まれ
 ・第四世代・第五世代 1971~1976年生まれ
 ・第六世代 1977~1988年生まれ
 ・第七世代 1989年以降の生まれ

 このように生まれ年で各世代を定義すると、一般的なお笑い世代論とはズレが出てくるところもある。

 たとえば、1945年生まれのタモリは生まれ年を基準にすると第一世代にあたるはずだが、一般には第二世代であると言われている。

 1970年生まれのナインティナインの岡村隆史も生まれ年では第三世代のはずだが、一般的にはそれより下の世代だと見られている。

 このようなズレが出る一部の芸人に関しては、一般的な区分を優先して採用することにする。生まれ年はあくまでも1つの目安のようなものだと考えていただきたい。

 生まれ年で分けることにしたもう1つの理由は、お笑い以外の一般的な世代論は生まれ年で区分されるものだからだ。本書でも一般的な世代論と重ねながら話を進めていく。

 ただし、「団塊(の)世代」「新人類世代」といった世代論の用語に関しても、明確な定義はなく、論者や文献によって指している年代も微妙に違っていたりする。

 その点に深入りしていてもきりがないので、本書では一般的な世代区分については『日本初! たった1冊で誰とでもうまく付き合える世代論の教科書 「団塊世代」から「さとり世代」まで一気にわかる』(阪本節郎・原田曜平著/東洋経済新報社)の記述に従った。

 同書では、生まれ年で以下のように世代分けを行っている。

 ・1947~1951年生まれ (広義の)団塊世代
 ・1952~1960年生まれ ポパイ・JJ世代、シラケ世代
 ・1961~1970年生まれ (広義の)新人類世代
 ・1971~1982年生まれ 団塊ジュニア世代
 ・1983~1994年生まれ さとり世代
 ・1995年以降の生まれ ポストさとり世代

 たとえば、第二世代と「団塊世代」、第三世代と「新人類世代」は重なる部分が多い。

 本書では、2つの区分がなるべく重なるように各世代を定義することで、一般的な世代論をベースにお笑い世代論を考えられるように配慮した。

 世代論は、血液型占いなどと同様に、誰もが自分がどこに属するかを考えたうえで楽しめる懐の深さがある。

 たとえば、1979年生まれの私自身はお笑い世代論では第六世代、一般的な世代論では「団塊ジュニア世代」に分類される。

 各世代ごとの特徴を考えると、たしかに自分にも当てはまると思えるようなところもあったりする。

 そのように自分がどの世代に属するのかを考えながら本書を読み進めていただければ、「世代論」を自分ごととして楽しめるようになるのではないかと思う。


お笑い芸人の世代区分年表

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『お笑い世代論』/目次

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著者プロフィール

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ラリー遠田/らりーとおだ 1979年生まれ、東京大学文学部卒業。専攻は哲学。テレビ番組制作会社勤務を経て、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を展開。著書に、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『逆襲する山里亮太 これからのお笑いをリードする7人の男たち』(双葉社)ほか、多数。

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