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教養としてのロック名曲ベスト100【第13回】88位は…早くも二度目の登場! by 川崎大助

「サイン・オブ・ザ・タイムス」プリンス(1987年2月/Paisley Park・Warner Bros./米)

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Genre: Electro-Funk, Minimal
Sign o' the Times - Prince (Feb. 87) Paisley Park・Warner Bros., US
(Prince) Produced by Prince
(RS 304 / NME 192) 197 + 309 = 506

まさにクールネスの権化。隙間だらけの美学。あらゆる要素を間引きに間引いた、骨格だけの憂鬱がファンキーに鳴り響く名曲として、スマッシュ・ヒットした。ビルボードHOT100では3位、R&Bチャートはもちろん1位、全英は10位まで上昇した。

この曲の勢いが、ほぼ1カ月後に発売された同名の第9作アルバム(『教養としてのロック名盤ベスト100』では74位にランク)の成功を確約した。すなわち、プリンスにとって起死回生となる「一手」のアイデアが、この曲のなかに充満していたからだ。

このときのプリンスには「一手」が必要だった。なぜならば直近のアルバム4作、つまりあれらメガヒット作にして名盤をともに制作した、頼りになる名バック・バンド、ザ・レヴォリューションが解散したからだ。だからここで純然たる「ソロ化する」というのは、わかりやすい定石なのだが――しかしやはり、プリンスの場合はそれがすごく「極端」だった。「ひとりぼっち」になる場合の、なりきりかたが。「ぼっち度数」が。

全楽器を「自分ひとり」で演奏することなどプリンスには朝飯前。だからこそ、この曲ではなんと「自分すら」ほとんど排除した。自らの肉体を直接介在させるのは歌と最小限のギターのみ。ほかは「全部機械」に任せ切った。基本パートはほとんどサンプリング・キーボードのフェアライトCMIで構築(しかもプリセット音源を多用)……という、あたかもまるで、近年流行している「PCやスマホだけで」音楽を作るクリエイターみたいな態勢になった。

のっけから「ループする」リズム・パターンが、まず不穏だ。歌詞は重い。エイズや都市のギャング問題、自然破壊、ドラッグ禍、戦争など、当時の社会問題が次から次に触れられては、宙へと投げ出される。話題が切り替わるタイミングで、まるで息継ぎのように「タイム……」とプリンスがつぶやく。そして、ただただ無機質なビートだけが、まさに機械的に「規則正しく」時を刻み続ける――という、そんな曲だ。この非人間っぷりが、新種の「クール」へとつながって、プリンスの新境地を開拓した。「これ以上はさっぴけない」ミニマルな状態から、奇妙なれども新鮮な響きのファンクが誕生した。

出世作である95位の「1999」では明るく世紀末へと向かっていた彼なのに、こっちでは一転して「暗い」のがユニークだ。プリンスの新章は、あたかも「本物の終末を幻視した人みたいな」陰々滅々の感覚からスタートしていった。

(次回は87位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki



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