巨人目線から見たソフトバンクの強さ
熱烈な巨人ファンで、多くの野球マニアや選手たちからフォローされるゴジキさん(@godziki_55)が巨人軍を分析。
圧倒的な戦力でプロ野球界に君臨する福岡ソフトバンクホークス。その強さは一体どこからきているのでしょうか?育成や補強の観点も交えながら考察します。
「勝って当たり前」の難しさを難なく熟す強さ
ソフトバンクの強さは、もはや「勝って当たり前」のレベルに達している。日本シリーズ4連覇を果たしたが、前評判通りの野球をした上で日本一に輝いている。2010年代後半からは「当たり前」のハードルも高くなっている。
球団として高い視座や目標があるため当然、選手たちに対する「当たり前」のハードルも高い。Aクラスは大前提、優勝・日本一になってようやく認められるようなプレッシャーと日々戦っているのだ。そのプレッシャーに臆することもなく結果を出し続けていることが、2010年代トップの常勝軍団になった一番の要因だろう。
クライマックスシリーズに続いて日本シリーズを見ても、逆境を迎えても必ず追いつき逆転する姿が特徴的だった。たとえば日本シリーズ第4戦、巨人は坂本勇人のタイムリーでシリーズで初めて先制した。だが、そんな展開はお構いなしにその裏にすぐさま柳田悠岐のホームランで逆転し、そのまま勝利した。 どのような状況においても、チームを勝利に導くことのできる個々の技術やチームの戦略はもちろんのこと、メンタリティこそが「絶対王者」そのものだった。
「育成」×「補強」の流動化
2010年代初頭までのプロ野球界なら、チームに足りないピースを補う形での補強をするだけでも日本一に近づくことができた。たとえば巨人軍の場合も、2011年オフに杉内俊哉と村田修一、デニス・ホールトンを獲得して、翌年の2012年にリーグ優勝と日本一を成し遂げたた。ただ、その翌年の2013年日本シリーズで楽天に競り負けて以降は、単に補強しただけでは日本一になれないことが自明のものとなっている。
一方でここ10年のソフトバンクを見ると、補強はもちろんのこと、育成から戦略面まで隙のないチームになっている。これは、小久保裕紀や松中信彦といった主力が衰えを見せ始めていた2000年代後半に優勝から遠ざかったことへの反省も生かされているのではないだろうか。特に2008年は北京五輪の影響があったとは言え、8月に2位にいたものの最終的には最下位に沈んだ。
2010年代に入ってからは、当時は苦手意識のあったクライマックスシリーズで敗退し、起爆剤として2010年オフに内川聖一を獲得した。その結果、翌年に圧倒的な強さでリーグ優勝し、鬼門であったクライマックスシリーズも勝ち進み、念願の日本シリーズ出場を決めた。日本シリーズでは、飛びにくい統一球の特徴を活かした野球を繰り広げる落合博満の中日に苦しめられたものの、プレーオフ・クライマックスシリーズ導入後はチーム初となる日本一を決めた。
ただ、上述した通りその年に杉内やホールトンが巨人に移籍し、和田毅もメジャーに移籍した。実はこの時からソフトバンクの「エースの流動化」が進んでいる。前年の中継ぎから先発に転向して結果を残した攝津正が、沢村賞に輝くまで実力を伸ばした。
また、野手は小久保と松中がいなくなり、川崎もメジャーに移籍したため、優勝を逃した2年(2012年〜2013年)は、内川と松田、長谷川、外国人がメインの戦力だった。そしてこの期間に2軍で、柳田や中村晃などの選手が伸びてきた。
10年代後半の圧倒的な強さ
そして、蒔いた種が開花し始めた2014年からは投打にわたり、NPBはソフトバンク一色と言っても過言ではない。エースを担っていた攝津には衰えが見え始めたものの、ローテーションで足らない部分をジェイソン・スタンリッジと中田賢一が埋める形で、勝利を積み重ねた。武田翔太や大隣憲司といった若手や中堅どころも機能した。さらにこの年は、五十嵐亮太や岡島秀樹、デニス・サファテ等の救援陣も盤石だった。ただ、現在のような勝ち慣れた安定感はなく、ペナントレースは最終戦までもつれたがリーグ優勝と日本一に輝いた。
2015年からはチームの姿もうって変わり、打線は柳田を中心に機能するように構築され、先発陣は複数人の二桁勝利が毎年出てくる状態だった。2016年からは、千賀滉大が投手陣の中心となり、各シーズンにおいて2番手以降も充実している。2010年代後半で唯一優勝を逃した2016年もチームとしては83勝を記録しており、優勝してもおかしくない成績だった。
そして現在は、高いレベルで選手層が流動していく育成力や、弱点や不足している箇所をピンポイントで獲得する補強力も抜けている。
野手陣は、2009年の巨人軍が小笠原とラミレスを軸として阿部と坂本、亀井が成長していったのと同様に、柳田と中村晃、デスパイネ、グラシアルらが軸となり、栗原や周東がレギュラーに定着するまで成長した。2020年シーズンのソフトバンクは、NPB歴代でも屈指の強さだった。チーム全体として見ても、MLBで戦っても通用するレベルだ。千賀と石川が120試合制ながらも二桁勝利でタイトルを獲得し、東浜やムーア、和田も控えている層の厚さは素晴らしく、2005年の斉藤、杉内、和田、新垣の先発陣に等しい状態だった。さらに、谷間で登板した若手の投手もローテーションで結果を残すなど、投打で勝利と育成の流動化が進んだ。
首脳陣も、一軍打撃兼野手総合コーチとして平石洋介が加入したり、ヘッドコーチとして小久保氏の招集も取り上げられた。小久保氏の場合は、工藤公康氏の後釜としての構想も考えられるが、このように段階を踏んだ上での育成に明確な意図があることが、ソフトバンクの強さにつながっていると考えられる。
2019年と比較しても、二桁勝利を挙げていた高橋礼は中継ぎに回り、高橋純平と甲斐野央は怪我で登板がなかったものの、杉山一樹や泉圭輔などそれをカバーする若手選手が出てきた。育成という観点からもソフトバンクはリーグ随一で、2020年現在で千賀、石川、リバン・モイネロ、二保旭、大竹耕太郎、甲斐拓也、周東佑京、牧原大成といった一軍出場選手からタイトルホルダー、代表クラスまで育て上げた。
2000年代後半の巨人軍は、山口鉄也や松本哲也といった選手を飛躍させて新人王を獲得した。現在も増田やメルセデスなどを輩出しているものの、第一線で活躍できる戦力をカウントした時にソフトバンクはその倍以上の戦力を生み出している。
ソフトバンクは「育成」と「補強」のバランスが絶妙に取れているからこそ、NPBで10年もの間、トップを走っているのである。