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フォートナイトはメタバースか?―『メタバースは革命かバズワードか~もう一つの現実』by岡嶋裕史

1章② フォートナイトの衝撃

光文社新書編集部の三宅です。岡嶋裕史さんのメタバース連載の続きをお送りします。1章はメタバースに最も近いと言われている「フォートナイト」について。続きものですので、プロローグから順に読まれることをお勧めします。

プロローグの記事はこちら。

前回記事(1章① フォートナイトの衝撃)はこちら。

なぜフォートナイトが勝ち残ったのか?

 1つにはフォートナイトの人気があることは間違いない。

 フォートナイトはTPS(Third-person shooter:三人称視点狙撃ゲーム)である。FPS(First-person shooter:一人称視点狙撃ゲーム)と並んで、確立されたジャンルである。多くの潜在的な利用者がおり、そこで人気を博したものは巨万の富を得る。

 数多あるTPSの中で、なぜフォートナイトが勝ち残ったかは諸説ある。シューティングゲームはその性質上、殺伐とした世界観のコンテンツが多い。殺し合いをするのだから当然といえば当然である。そのため、大人の利用者を見込んでPCやPS5などの高額なプラットフォームで展開される。

 シューティングゲームが、PCをプラットフォームに採用する理由は他にもある。シューティングゲームは速度競争である。現実の戦闘と同じだ。ファーストルック・ファーストショット・ファーストキルを行えるものが強い。

 そのためには、高速なCPU、GPU、ディスプレイで環境を整えるのがいい。プレイステーションやXboxではこれらは固定だが、PCであればお金のかけ方次第でライバルより高速なものを入手できる。相手がカクカクとしか動けない・世界を認知できない中で、自分はなめらかな移動や照準をできるのであれば、それは身体能力が高まったようなものである。みんなそこに投資するのだ。

 そのような状況下で例外的にフォートナイトは多様なプラットフォームでコンテンツを展開しているのである(今はiPhoneではプレイできないが)。しかもその中には安価なアンドロイド端末やSwitchが含まれている。小中学生も手を出しやすいのである。比較的ゲーム内の治安もいいことが、それに拍車をかける。

 ボイスチャットによる簡易なコミュニケーションやたくさんのスキン(見た目の変更)、エモート(キャラクタを使ったジェスチャやダンスなどの感情表現)など、コミュニケーション機能も充実している。ほのぼのとした雰囲気を演出し、利用者の裾野を広げることに貢献している。コミュニケーションは重要だが、放っておくとただの罵り合いに発展することは多いのだ。シューティングゲームであればなおさらである。

 ゲームとしての終わりがないことも重要である。ラスボスを倒して終了のシステムだと、他にどんなやりこみ要素を入れておいたとしても、利用者はいつかその世界を去ってしまう。しかし、バトルロワイヤルが主体であれば、その世界に魅力がある限り利用者を惹きつけておくことができる。

 また、ビルダー要素が付加されている点も大きい。ビルダー系のゲームといえば、まず思い浮かぶのはマインクラフトだろう。近年ではゲームとしてではなく、教育ツールとしての認知も進んでいる。多くの児童向けプログラミング教室が導入教育の部分で利用しており、カリキュラムに組み込む学校もある。

マインクラフト

 確固たる数のコアファンがいて(マインクラフトの月間アクティブユーザ数は、1億人を超えると報道されている。累計のダウンロード数や販売数ではなく、アクティブユーザ数である。どれだけの人気があるか、想像がつくだろう)、なかにはよくぞここまで精密に作り上げたと感嘆符しか出てこない建築物もある。人の、何かを作りたい、世界に爪痕を残したい欲求を上手にすくい上げるコンテンツだ。

 フォートナイトで運営側が用意したメインの楽しみは、シューティングとしてのバトルロワイヤルなのだが、クリエイティブモードを使うとマインクラフトのように「世界」を作ることができる。自分の島が与えられて、そこに好きな建築物やアイテムを配置していくのである。ひたすら建築に打ち込んでもいいし、そこで遊んでもいい。ルールや遊び方も、自分で作ることができるのだ。

 これらは、個々の要素としては、昔からあった。出来のいいシューティングゲームも、楽しいクリエイターツールも。でも、それが組み合わさって、自分が世界に働きかけ、世界を作ったり改変したりすることができ、その中で遊び、あまつさえ活躍することができる。何ならコンテンツ内で労働をして、そこで稼いだお金でリアルの食料が買え、生活費が支払える。そんな総合的な空間を提供するコンテンツは、やはり新しいのである。萌芽としてはセカンドライフが存在したが、あれは技術的な問題もあり、そんなに楽しくなかった。

セカンドライフ

 その世界は、平等に運営され(何の平等かは置くとして)、社会にかかわるチャンスがあり、努力が実を結び、世界の中で設定された目標を達成すると皆から賞賛を浴びる。賞賛は簡単に得られるわけではないが、リアルほど得るのが絶望的でもない絶妙な難易度にチューニングされている。リアルに似ているが、リアルより少し美しく、少しやれることの多い、都合の良い世界だ。

 リアルが複雑化してその運営が行き詰まり、しかし個人主義の浸透で「人生を楽しめ」と圧がかけられ、敗者として生きることさえ許されなくなった。オンリーワンで価値ある人生にしろとすり込まれるのである。言う人はきっと強いのだろうが、リアルにそんな席は用意されていない。それでも人生を楽しめというのであれば、仮想現実は人生を過ごす環境として十分に選択肢たり得るのである。現実から目をそらさずに考察すると、もう仮想現実の中にしか希望はないのだ。それを逃げと見る人もいるだろうが、リアルよりもっと楽しい場所を探す開拓者と捉えることもできる。

 実際にフォートナイトは、2020年には登録利用者数が3.5億人に達する巨大な市場になっている。リアルの企業は、アイテムやスキンに自社のロゴを入れたり、自社製品そのものをフォートナイト内で作って(靴やライトセイバーなど)、自社のブランドを確立し、個人はエモートを作って、それをフォートナイト内のコンテストにかけることで自己をアピールする。
 パーティロイヤルと呼ばれる、みんなで集まって(殺し合いではなく)楽しむための機能では、走ったり泳いだりスカイダイビングをしたりして競ってもいいし、サッカーやボートもある。名前の通りパーティをすることも可能だ。

 著名アーティストのコンサートも行われている。パーティロイヤル実装以前だったが、トラヴィス・スコットのイベントには1000万人以上が同時接続して同じ空間を味わった。日本のアーティストとしては2020年8月に米津玄師が初参加を果たしている。

米津玄師のパーティロイヤルイベント

 この空間も、リアルとは違った体験をもたらす。リアルのイベントスペースでは考えられないような場所やアングルで鑑賞してもいいし、走りながら、泳ぎながら聴いてもいい。その臨場感も高品質だ。泳ぎながら聴くのであれば、ちゃんと水の中で聞こえる音をシミュレートしてくれる。

 一般的なライブ配信では、利用者が視聴に使う端末の幅が広く、中には快適な映像や音像では視聴できない者も出てくる。しかし、ゲームに供される端末や回線は高品質であり、運営企業もトラフィックの集中にはなれている。結果的により良いユーザ体験を提供しやすい。

 エモートを使って、リアルのコンサートでも見られるオタ芸を披露してもいい。リアルでは迷惑行為だが、仮想現実内であれば怒られることもない。怪我や病気をしていても、リアルの夜イベントには参加しにくい児童や高齢者でも、みんなと同じ時間と空間を共有することができる。テレビ鑑賞ではできなかったことだ。YouTubeやニコニコ動画のコメントで近しい体験は可能だったが、身体性を伴わないぶん、リアルのコミュニケーションとは異質なものだった。アバターを使えば没入感は増し、もしVRグローブのようなガジェットも使えるのであれば握手やハイタッチを実感することもできる。

 注意すべきなのは、これはすでにリアルの代替物や下位互換品ではないという点だ。リアルではできないこと、リアル以上に楽しいことで満ちている。

 フォートナイトはまだ未熟ながらも、本連載の定義での「もう一つの世界:メタバース」として機能し始めている。フォートナイトだけであれば、それは単に1つのゲームでしかないかもしれない。メタバースと呼ぶのもあくまで後付けで、もともとはふつうのゲームとして設計されたものだ。それはゲームメーカーが集金するためのツールで、たとえば利用者が仮想現実内でお金を稼ぐような機能は公式には盛り込まれていない。

 しかし、「フォートナイトはメタバースだ」との認識が広がればそうしたしくみは追加できる。また、エピックはメタバースを作るのに必要不可欠なゲームエンジンもおさえているのだ。今後、他社がメタバースを作るときに、エピックのUnreal Engineを利用する公算は大である。仮にフォートナイト以外のコンテンツがメタバースのデファクトスタンダードになるにしても、そのプラットフォームはUnreal Engineかもしれない。アップルを敵に回すほどに強気になるのも無理のないところだ(それに加えて、国家間競争の要素もある。エピックはアメリカの企業だが、中国の巨大IT企業テンセントが半数近くの株式を取得している。焦点がぼやけるので、ここでは深入りしない)。(続く)


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