こんなときこそ、ひとり飲み|パリッコの「つつまし酒」#114
来たれ、ひとり飲みブーム!
僕の住む東京を含むいくつかの都道府県で、飲食店への酒類提供自粛要請が出されていた緊急事態宣言下、この連載の第107回「登場!ノンアル酒場」という記事のなかに、僕はこのようなことを書きました。
そもそも、飲食店におけるウイルス感染最大のリスクは、複数人がマスクをしないで喋りながらの会食をすることだと思います。ならば、なにもお酒を提供禁止にしなくても、他に方法はあるんじゃないか? 政治家のみなさんやメディアはもっともっと大々的に「飲食する瞬間以外はマスクをつける」ことの大切さを打ち出したほうがいいと思うし、なんなら入店人数の制限を設けてもいい。「最大ふたりまで」とか、なんだったら「ひとり客のみOK」でもいい。
そして緊急事態宣言が解除され、まん延防止等重点措置へと移行した現在、飲食店での酒類提供ルールは、おおまかにこのように決まったようです。「酒類を提供できるのはしっかりとコロナ対策をとっている店のみ。利用は1グループふたりまで。滞在時間は90分まで。提供は19時まで」。
ほら〜、だから言ったじゃん! なにも禁止にしなくても、まずは基準を設ければ、みんな、今はがまんしつつもその範囲内で楽しみますよ。またそのほうが、酒そのものが悪いのではなく、感染を防止するマナーを守ることが大切だと周知されていくに違いないですよ。緊急事態宣言中もそうしてくれていたら、少しでも助かった飲食店はきっと多いんじゃないでしょうか。
まぁ、それはそれとして、やっと再び飲食店でお酒を飲めるようになり、本当に嬉しい!
そして僕は、今こそ声を大にして言いたい。「こんなときこそ、ひとり飲みだ!」と。「来たれ、ひとり飲みブーム!」と。
酒場が酒場として営業している嬉しさ
同じ酒好きのなかにも、「ひとり飲みが好き」という方、「ひとりで飲むなんて信じらんない」って方、いろいろいると思います。ただ、僕は思います。あんなに楽しいことはそうそうないと。
今回の緊急事態宣言が解除された6月21日、そわそわしちゃって仕事なんか手につくはずもなく、せめて早めの夕方になるまではと16時になるのを待って、僕は仕事場を飛び出しました。
街はどんな状況なんだろうか? そんな興味から駅前を一周してみる。お、地元の人気店、すでにやってるぞ。開け放たれた入り口のドアから幸せそうに飲んでいる常連さんたちらしき顔が見える。ただ、僕まで入るとちょっと密になっちゃうかな。
お、あっちの店にも「商い中」の札が出ている。そこで中を覗いてみると大将が、「ごめんね〜、17時からなんだ」と。そこからの「あ、札が出てたので思わず」「え? あ〜ほんとだ、久しぶりだから裏になっちゃってたよ」なんて何気ないやりとりが、なんだか無性に懐かしい。やっぱり、街で酒を飲めるってのは最高に幸せなことですね。
さて、じゃあどこで飲もうかと歩いていると、「鳥よし」という店が営業中なのを見つけました。あまりにも小洒落た雰囲気なこともあり、地元では数少ない、まだ訪れたことのない店。この機会に入ってみるのもいいかもしれないな。
「すいませ〜ん、ひとり、大丈夫ですか?」
あ〜忙しい。あ〜楽しい
広々とした店内は、すべて座敷席。かなり大きなテーブル席どうしの間隔にじゅうぶんな余裕があって、アクリル板などの対策もばっちり。先客は、早めの夕ごはんか、定食らしきを食べる上品なマダムひとり。これなら安心そうだ。
ではでは、とりあえず生ビールをお願いします。今日は軽く飲むだけのつもりだし、「小」にしておこうかな。
久々の再会!
すぐに目の前に到着した小生ビールを、ひと息に7ぶんめくらいまで、ゴクゴクゴクっと喉に流しこむ。っっっくぅ〜! これこれ、これなんですよ! 昨年、初めての緊急事態宣言明けに久々に酒場で飲んだ時もそうだったけど、酒場の生ビールのうまさってのは別格で、もう、一気に感慨とかぶっ飛んじゃうんですよね。ただただ、うますぎる!
お通しが到着
お通しは、手羽先のから揚げにポン酢ベースのさっぱりとしたタレがかかったものですかね。熱々をほふっほふっとほおばって、すかさずビール。あ〜、幸せだ……。
そこからはもう、いつものひとり飲みモードに突入。よく「ひとり飲みをしてるときって何していいかわからない」なんて話も聞きますが、酔っぱらって他のお客さんに絡んだりなどと迷惑をかけない限り、何をしてたっていいと思いますよ。SNSでも、スマホゲームでも、本を読むでも。そうやって好きなことをしながらリラックスするのがひとり飲みの醍醐味なんだから。
ただ僕には、そういう娯楽はあまり必要ないかな。というのも僕の場合、はたから見るとむっつり黙って飲んでるように見えるかもしれないけど、頭のなかは意外と忙しいんですよ。
どれどれメニューはと……ほう、やっぱり店名に「鳥」がつくだけあって、焼鳥が充実してるな。それから、韓国料理もいいろあるんだ。1353円の「参鶏湯」一本勝負なんてのもありかもしれない。あ、そこに330円で半ライス、キムチ、ナムルがつけられるんだ〜。ランチにもいいんじゃないのここ。おっと、そんなことよりつまみつまみ。今日は軽く街の様子を見にきただけだし、2品くらいでサクッと帰ることにしようかな。へ〜、熊本直送の馬刺しか。で、サラダ類に小鉢類。「洋肴」コーナーにはピザやグラタンまである。うわ、「鶏ラーメン」に「焼きとり丼」に「チキンカレー」って、ごはんものも充実してる〜。いいないいな、今度ランチに来てみようかな。って、つまみつまみ! あ、メインの他に、日替わりメニューもいろいろあったんですね。
メニューをすみからすみまで眺めるのが最高に楽しい!
あれは、高麗人参酒だろうか
ね? ヒマじゃないでしょう。そしてどうです? この楽しさ、伝わってますか?
限られた予算、限られた胃袋の容量を考えつつ、今日の天候、時間帯、気分などを慎重に考慮し、膨大なメニューのなかから自分がもっとも満足できそうな組み合わせを考える。慣れた店ならまだしも、ここは初めての店。こんなに忙しく、そして楽しいことってそうそうなくないですか?
さて、熟考の末、本日の方針が決まりました。まずはすぐ出てきそうで、夏っぽい陽気にもぴったりな「胡瓜とみそ」(440円)。そして日替わりから、「鶏山椒正油あみ焼き」(580円)。これでいく!
おっと、ビールももうないぞ。お酒のメニューはえ〜とえ〜と? へぇ、日本酒も焼酎もいろいろ揃ってるし、洋酒やカクテルもある。あ! 「焼酎割り」のコーナーに「炭酸」があるじゃないですか。これ、要するに、僕の愛するプレーンチューハイですよね。え〜と値段が……350円? え〜! ここ、こんなにリーズナブルな店だったの!? 昼間から通しでやってるみたいだし、こりゃ〜もっと早く来ておくべきだったな〜。
見るからに新鮮なキュウリ
お手頃さが嬉しい焼酎炭酸割り
間違いない! 鶏山椒正油あみ焼き
たっぷりのキュウリに、きっとかなりのこだわりがあるんでしょう、やたらと深い味わいの味噌をつけながら、ポリポリ。爽快なチューハイをグイ〜。
お、来ました来ました、お待ちかねの「鶏山椒正油あみ焼き」。香ばしく焼き目のついた皮とぷりぷりの肉、そこに、ほのかに山椒香る醤油が絡み、文句なしの絶品です。
あ〜忙しい忙しい。あ〜楽しい楽しい。
……ね? このご時世にぴったりの飲みかた、ひとり飲みも案外、悪くなさそうじゃないですか?
パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2020年9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco