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【38位】ジェイ・Zの1曲―実録・社長一代記、青春風雲編をハードコアに

「99プロブレムズ」ジェイ・Z(2004年8月/Rock-A-Fella • Def Jam/米)

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Genre: Hip Hop, Rap Rock
99 Problems - Jay-Z (Aug. 04) Rock-A-Fella • Def Jam, US
(Shawn Carter • Fredrick Rubin • Norman Landsberg • Felix Pappalardi • William Squier • John Ventura • Leslie Weinstein • Tracy Marrow • Alphonso Henderson • Bernard Freeman) Produced by Rick Rubin
(RS 172 / NME 40) 329 + 461 = 790

ヒップホップ界のスーパースターにして億万長者。ドラッグ・ディーラーからポップ音楽界経由で成り上がった実業家……という人物は、じつはこの業界に結構いるのだが、だれもが認める「その頂点」に君臨し続けるジェイ・Zの代表曲のひとつがこれだ。言うなれば「俺の一代記」みたいなニュアンスで、キャリアの折り返し地点にぶち上げた。

タイトルの意味は、コーラスにて説明される。「もし女の問題を抱えてるなら、可哀想なものだな坊や。俺には99の問題があるが、ビッチにかんしては大丈夫」――つまり「女にもてる」というマイナス1以外の人生の99%は「大変なんだよ」と。音楽業界批判のヴァース1もいいが、白眉はなんと言ってもヴァース2。主人公は、警官と対決する。

彼はドラッグを積んだクルマを運転している。それを警官が止める。クルマのなかを検査させろと言われるが、拒絶する。令状もない警官にそんな権限はないから。売人である彼は(立場上)法律にくわしいのだ。また警官がクルマを止めたのは、彼が若い黒人で態度が悪かったせいだ、とわかっているから……ゆえに正面から警官に「対抗」した主人公は、見事その場を切り抜ける。これはジェイ・Zが(主人公の立場で)体験した「実話」なのだが、彼と警官の息詰まるやりとりが、ものすごい密度で描破されていく。もちろん、随所でライムを踏みながら!――驚異的なセンスと技術だ。ルー・リードのスケッチ力とジョニー・キャッシュの生々しさを兼ね備えた「語り」が、きわめて高い地点で結実している。まるでロダンの彫刻みたいなリアリズムと普遍性を、僕はここに見る。

というラップを支えるトラックも、すさまじい。デビュー時のビースティ・ボーイズやランDMCのヒット作同様、プロデューサーのリック・ルービンが伝家の宝刀を抜き、ハード・ロックのギター・サウンドと、太く重い8ビート・ドラム(ビリー・スクワイア、マウンテンなど有名ねた)で組み立てている。ラップ・ロック王道の仕上がりだ。

当曲はビルボードHOT100では30位、同HOTラップ・ソングスでは10位が最高位。全英は12位だった。しかし根強い人気を誇り、たとえばオバマ大統領が誕生した09年の就任式の関連イベントでは、ジェイZ自らがこの曲をラップした(さすがに「ビッチ」は「ブッシュ」と言い換えた)。彼の8枚目のアルバム『ザ・ブラック・アルバム』に収録、ここからカットされた3枚目のシングルだった。アルバムのほうは「いつもの場所」である全米1位を記録、アメリカだけで300万枚のセールスを達成した。

(次回は37位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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