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【31位】マーサ&ザ・ヴァンデラスの1曲―夏のダンスは路上で。革命の季節のなかで

「ダンシング・イン・ザ・ストリート」マーサ&ザ・ヴァンデラス(1964年7月/Gordy/米)

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Genre: R&B, Soul
Dancing in the Street - Martha and the Vandellas (July, 64) Gordy, US
(Marvin Gaye • William "Mickey" Stevenson • Ivy Jo Hunter) Produced by William "Mick-ey" Stevenson
(RS40 / NME 152) 461 + 349 = 810

名曲無尽のモータウン60年代ヒッツのなかでも、屈指の、超特大の、まさにスペシャルなインパクトを全世界に与えたナンバーがこれだ。基本的には明るく爽快なダンス・チューンなのだが、これが「時代の空気」と反応し、公民権運動のアンセムと化した。つまり全米の至る所で「路上に出て」行進し、不公正な社会に、差別に満ちた体制側のシステムに「NO」を突きつける運動が活発化していた時代に、「プロテストの意志を示す人々」にとっての、最強・最大のテーマ・ソングとなったのが、この曲だった。

最初のアイデアは、ソングライター/プロデューサーのウィリアム・スティーヴンソンが思いついた。暑い夏の日、デトロイトの路上で消火栓を開けて、水しぶきを浴びて涼み遊んでいる人々が「まるで水中で踊っているように見えた」ことから、アイデアが生まれた。新しいビートに乗って「路上で踊る」というアイデアだ。全米の、いろんな街で。

だから当曲では、さまざまな都市名が順に挙げられる。シカゴ、ニューオーリンズ、ニューヨーク・シティ、フィラデルフィア、ボルチモア、DC、LA……そしてもちろん、モータウンの「地元」デトロイトも登場する。こちらはお洒落に「ザ・モーター・シティ」との異名で(自動車産業の街だから)。「ザ・モーター・シティを忘れちゃいけないよ」と――そして全米の各地で実際に「街に出て」主張をおこなう人々が呼応した。

曲調もまた、アンセム化に大きく寄与した。華やかなファンファーレめいたホーン・セクション、推進力あふれるコード進行は、行進曲にもぴったりだった。歌いながら、あるいは踊りながら行進することだって、できたかもしれない。黒人層や社会的弱者への制度的不公正へと戦いを挑むとき、これほどまでにもハッピーで希望に満ちた音楽が「道を行く」人々の掌中にあったという事実は、まさに僥倖と呼ぶべきものだったはずだ。ドラムスのハネるリズム、ノーザン・ソウルの典型例みたいなこのビートは、共作者のひとりであるマーヴィン・ゲイが叩いている。イントロのフィル・インから、決まりまくっている。

この曲はマーサ&ザ・ヴァンデラスにとっても代名詞的ヒットとなった。ビルボードHOT100で2位、全英では4位を記録。その後いくつもカヴァー・ヴァージョンが発表されたのだが、最も成功したものはデヴィッド・ボウイとミック・ジャガーの共演作。85年に発表され、全英1位、HOT100では7位となった。そして当曲は今日に至ってもなお、プロテスターたちのフェイヴァリットの1曲として、輝き続けている。

(次回は30位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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