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【第21回】なぜ「でたらめ」が重要なのか?

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?
★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

「ランダム性」の定義

1987年、IBMワトソン研究所の情報数学者グレゴリー・チャイティンが「アルゴリズム的情報理論」を提唱した。この理論の中心に位置する概念が「ランダム性(randomness)」である。まず、次の二つの数列を比較してほしい。

数列1=1010101010101010101010101010101010101010
数列2=1000111001010101000010101000101000101010

数列1は、「10の20回の繰り返し」と短く言い換えることができる。一方、数列2は、コインを60回投げて、表ならば1、裏ならば0を書いた数列であり、0と1の出現に規則性がない。このとき、数列1のように短縮して表現できる数列を「圧縮可能」、それができない数列を「圧縮不可能」と呼ぶ。

一般に、「ランダム性」は「無作為」や「不規則」や「予測不可能」を指す言葉で、直観的には理解できるが、数学的に厳密に定義することが困難な概念だった。ところが、チャイティンは、「それ自体よりも圧縮できない数列」で「ランダム性」を定義することによって、この問題を解決したのである!

この概念を用いて、チャイティンは、まったく関連がなさそうに映る論理学の最先端分野を開拓し、1987年に「ゲーデル・チャイティンの不完全性定理」と呼ばれる定理を証明した(この衝撃的な結果が何を意味するのかについては、高橋昌一郎『ゲーデルの哲学』講談社現代新書をご参照いただきたい)!

本書の著者・勝田敏彦氏は、1962年生まれ。京都大学理学部卒業後、同大学大学院工学研究科修了。朝日新聞社に入社し、『週刊朝日』編集部からアメリカ総局などを経て、現在は朝日新聞東京本社科学医療部次長。本書は、勝田氏が「乱数」に関わる日本の最先端研究者を取材した「科学ルポ」である。

さて、「ランダム性」といえば、偏った結果が出てはならない「宝くじ」のようなゲームで重要になることは明らかだろう。実はカジノばかりでなく、「無作為抽出」を行う工業製品管理や世論調査、「ランダム化試験」が中心となる新薬開発、「暗号化」の情報セキュリティでも必要不可欠な概念である。私たちが安心してクレジットカードを使用できるのも、乱数のおかげといえる。

本書で最も驚かされたのは、1秒間に17億回も振ることができる「世界最速のサイコロ」の話である。といっても、これは実際にサイコロを振るわけではなく、レーザーの点滅から乱数を発生させる「レーザーカオス乱数」と呼ばれる埼玉大学大学院理工学研究科の内田淳史教授が開発した方法を用いる。

そもそも「レーザー(laser)」とは、正式には「誘導放出による光増幅放射(Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)」のことで、「レーザー発振器」から人工的に生み出された光を意味する。単一波長の電磁波で、直進性と収束性が強く、遠くまで届き、集中照射できる特徴がある。

鏡の前で手鏡に自分を映すと、光が反射を繰り返して自分の姿が鏡の奥に無限に連なるように見える。これをレーザーで行うと不安定になって超高速で点滅する。内田氏は、この現象を応用して膨大な乱数を生み出したのである。「ランダム性」に魅せられた科学者たちの奇抜な発想は、実に興味深い!

本書のハイライト

私の記者生活で思い出に残るのは「渋滞」だ。渋滞といえば、普通は自動車の渋滞を指すが、実はアリの行列や私たちの体でも細胞の渋滞が起きていることを知った。それを簡単な記事にまとめたところ、某出版社の編集者が目をつけて本が出版され、今では「渋滞学」という学問分野までできてしまっている。そういう「横串」を刺せるところが、科学のおもしろさではないかと思うし、そういうところに真理が隠れていると思う(pp. 219-220)。

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著者プロフィール

高橋昌一郎_近影

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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