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終章 T―岡田――オリックスはなぜ優勝できたのか by喜瀬雅則

光文社新書

早くも3刷が決まった『オリックスはなぜ優勝できたのか』。本記事では終章の冒頭を公開します。以下、本書の概要です(光文社三宅)。

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下馬評を大きく覆し、2年連続最下位からのペナント制覇は、いかに成し遂げられたのか? 逆に、なぜかくも長き暗黒時代が続いたのか? 黄金期も低迷期も見てきた元番記者が豊富な取材で綴る。

1994年の仰木彬監督就任まで遡り、イチロー、がんばろうKOBE、96年日本一、契約金0円選手、球界再編騒動、球団合併、仰木監督の死、暗黒期、2014年の2厘差の2位、スカウト革命、キャンプ地移転、育成強化、そして21年の優勝までを圧倒的な筆致で描く。

主な取材対象者は、梨田昌孝、岡田彰布、藤井康雄、森脇浩司、山﨑武司、北川博敏、後藤光尊、近藤一樹、坂口智隆、伏見寅威、瀬戸山隆三、加藤康幸、牧田勝吾、水谷哲也(横浜隼人高監督)、望月俊治(駿河総合高監督)、根鈴雄次など。

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※新書判が品切れ中ですので、電子版へのリンクです。

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終章 T―岡田

もし、あの時、結果が逆だったら、どうなっていたのだろうか。
しかし、時というものは過去から現在、そして未来へと一方通行で流れていく。遡ることなど、誰にもできない。だから、戻ってやり直せることは、決してあり得ない。
プロ野球界のみならず、勝負の世界では、だからこう言うのだ。
この世界に「たら」と「れば」はない──。
優勝という結果は、そのスタートからゴールまで、まるでそうなるかのように、必然的な流れと勢いで、運ばれてきたかのように見える。
その〝歓喜の終結〟となった地点から過去を振り返ることを「結果論」という。
それを承知の上で、これからオリックスの「運命の分かれ目」の瞬間を描いていきたい。
あの日、もしオリックスが負けていたら、ロッテが優勝していたかもしれないのだ。

2021年(令和3年)9月30日。
ZOZOマリンスタジアムで行われていたロッテとの3連戦は、その3戦目を迎えていた。
3試合のうち、一つでも負けた瞬間に、ロッテに優勝へのマジックが点灯する。
28日は4回、T―岡田の14号3ランが飛び出し、5―2で逆転勝利。
29日は5回、スティーブン・モヤの10号3ランで逆転、15―2の大勝で山﨑颯一郎がプロ初勝利。
オリックスは、まさしく徳俵に足がかかった状態で踏みとどまっていた。
3戦目は、9回を迎えた時点で2点のビハインドだった。最後の攻撃に挑むオリックスに対し、ロッテのマウンドには、守護神・益田直也が上がっていた。
「ひたすら、益田が抑えてくれることを、ベンチで強く願っていたんだ」
ロッテの野手総合兼内野守備コーチ・森脇浩司の、それが偽らざる本心だった。

この3連戦が始まる前、首位のロッテと2位オリックスとのゲーム差は「3」
だから、周囲の見方はロッテに対して楽観的だった。
上にいるチームは、3連敗さえしなければいい。仮に1勝2敗でも、ゲーム差は1しか縮まらない。しかも、一つでも勝てば、優勝マジックが点灯する。
そうなれば、優勝へのムードも一気に高まっていくだろう。
ただ、森脇は長年の経験を踏まえ、内心ではこう考えていたという。
「そりゃ、世論はいろいろあるよ。オリックスは3つ勝たないとダメだ、ロッテからすれば一つ勝てばいいや、みたいなね。でも僕的には、この3連戦というのは、勝ち越して初めて、優勝争いの主導権を握れるという風に思っていたんだ」
頂点をつかみ取る。その厳しい戦いの最前線に森脇は長く立ち続けてきた。
現役引退後の1997年(平成9年)からダイエー、ソフトバンクで13年にわたって指導者のキャリアを積んだ。2006年には、胃がんで倒れた監督の王貞治から「森脇に任せておけば大丈夫だから」と代行監督も託されている。
2011年は巨人の2軍内野守備走塁コーチを務め、2012年にオリックスの1軍チーフ野手兼内野守備走塁コーチに就任。岡田彰布の休養に伴っての監督代行は9試合。翌2013年から、オリックス監督に昇格した。
「いろいろなパターンの優勝争いを経験してきたからね」
数々の修羅場の経験に裏打ちされたその洞察力は鋭い。
そこから導き出された2021年の〝流れ〟は、過去のパターンとはまた違った、新しい要素が絡んでいたと、森脇は冷静に分析していた。
まず西武が低迷、最終的には42年ぶりの最下位に転落した。
さらに、2020年まで4年連続日本一という常勝軍団・ソフトバンクにも主力選手に故障者が続出、本来の力を出し切れないまま、こちらもBクラスの4位に沈んでいた。
「ロッテとオリックスが上に出たという要因には、それがあるよね。ホークスが本来の力を出しておけば、この構図にはなっていなかったよ。結局、そこなんだよね」
その混戦の中から抜け出してきたのが、ロッテとオリックスの2球団だった。
9月28日からの千葉での3連戦。
10月12日からの大阪での3連戦。
この直接対決6試合が、2021年の優勝の行方を決める重要な戦いになった。

千葉での3連戦は、想定外の連敗発進となったロッテだが、その時点でも2位・オリックスには1ゲーム差をつけ、まだ首位をキープしていた。
星勘定というのは、危機管理の一種でもある。3連戦の最後に確実に勝っておけば、オリックスとのゲーム差を再び「2」として、勝負の10月に突入できる。
だから、まず負けないことだ。
2点リードの9回、益田をマウンドに送り出した。
ベンチにすれば、ここまでの試合展開はパーフェクトに近い。最善は尽くした。最後は守護神にすべてを任せるだけだ。
2死一、三塁のピンチを招いた。それでも、あと一つアウトを取れば勝てる。
ここで打席に立ったのが、T―岡田だった。
なんか、あの時に似ている……。
一塁側ベンチからグラウンドを見つめていた森脇は、ちょっとした胸騒ぎを覚えていた。(続く)



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