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【71位】ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの1曲―黙示録直前、天才の二人羽織が預言を呼び覚ます

「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス(1968年9月/Reprise/米)

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Genre: Hard Rock
All Along the Watchtower - The Jimi Hendrix Experience (Sep. 68) Reprise, US
(Bob Dylan) Produced by Jimi Hendrix
(RS 47 / NME 315) 454 + 186 = 640
※71位、70位が同スコア

ソングライターはボブ・ディランだが、このヴァージョンが最もよく知られている。邦題は「見張り塔からずっと」。激動の60年代終盤に投下され、その後いくつのディケイドを越えようとも威力は一切減じない、ロック史に残る「スーパー名演曲」がこれだ。

なによりも、ジミ・ヘンドリックスの異能性、卓越性がすさまじい。ひとときも休まず、つねにうなり続けるギターが、寄せては返す波のように、あるいは、急に渦を巻いては人をさらっていく潮流のように、歌詞世界とからみ合い、吠えまくる……。

という、このアレンジというか「解釈」をディランが激賞、好んでこれと近いアレンジで演奏もした。ディランはこう誉めたという。ヘンドリックスは「だれも気づかなかった要素」を曲のなかから見つけ出し、そして発展させてくれたんだ、と――要するに「あのディラン本人でさえも」見過ごしていたテーマを引き出してみせた、ということだ。

さてその「テーマ」だが、この歌詞はそもそも旧約聖書のイザヤ書、第21章の5節から9節にもとづく暗喩が多い。同書の24章から27章は新訳聖書の「ヨハネの黙示録」に呼応している。だからその前の21章あたりはちょうど、黙示録の「反キリストが支配する7年間」に相当する。つまり頽廃と背徳、悪逆が支配している世だ。そして「見張り塔」にいるのが、預言者のイザヤという図式となる。だから預言者のぼそりとした(断片的な)独白にフォーカスしたのがディラン・ヴァージョンで、「その背後にある」荒れ狂う終末の嵐をも同時に「表現してしまった」のが当ヴァージョンだと言える。

ちなみに、鬼才コミック・ライター(原作家)アラン・ムーアの『ウォッチメン』はまさにこの「見張り人」というテーマを継いだものであり、だから09年の映画化の際は「ここぞ」というところでこのヴァージョンが高らかに鳴り響くことになった。

という、ロック史上屈指の天才2人分の火花が渦巻くこのトラックは、全英5位のスマッシュ・ヒット。ビルボードHOT100では20位と、ヘンドリックスのシングルの米チャート最高位を記録した。彼の第3作スタジオ・アルバムにして遺作となった『エレクトリック・レディランド』(68年『教養としてのロック名盤ベスト100』では40位)にも収録、先行シングルとして発売された。ディランのヴァージョンは67年のアルバム『ジョン・ウェズリー・ハーディング』に収録。(テープを聴いたヘンドリックスを燃え立たせた)ハーモニカと弾き語りのこちらはこちらで、鬼気迫る出来映えだ。

(次回は70位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki



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