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女性自衛官の葛藤|国を守って家族も守る母親たちのワークライフバランス

光文社新書

こんにちは。光文社新書の永林です。不穏な国際情勢が続き、一日も早い平和が望まれる春ですね……。世界に危機が訪れると、にわかに「国防」というワードに注目が集まります。本記事では、光文社新書3月刊『女性自衛官 キャリア、自分らしさと任務遂行』(上野友子 武石恵美子)から、国防に日々その身を捧げながらも、自分の家族をも守っている女性たちの声を紹介します。

本書では、未だ全体の8%未満と超マイノリティである女性自衛官、中でも子育て経験のある幹部自衛官のみなさんを対象に、防衛省職員の著者がインタビューを実施しています。任務遂行上で抱える課題、出産や子育てでぶつかる壁、自分の仕事をどのようにとらえてキャリアを形成してきたのかを通じて、日本社会で働く女性が共通して直面する葛藤やキャリア形成の問題点をより鋭角的にあぶり出すという試み。その中から任務と子育てとの両立についての生の声を紹介します。

女性自衛官の仕事と子育て|葛藤にどう向き合ったのか

仕事も家庭も、両方の責任を果たしたいという葛藤を抱えながら、ここまで自衛官を続けてきた彼女たちは、何を支えにしてきたのでしょうか。その基礎にあるのは、周囲に支えられながらも、仕事に対する使命感、責任感と、それを通じて得られる達成感が大切な拠り所だったのです。

「自衛官は即応態勢ですので、何か事が起これば仕事を優先させるというのは、自衛官という職を選んでいる以上はやむを得ないと思っています。私は、自衛官である以上は、仕事を優先させるべきだと思っているので。今は忙しい部署にいて、仕事と育児の両立は大変です。自分で選んで今の部署にきていますが、もし異動させてほしいと上司に言えば、おそらく異動させてもらえるのです。確かに、子どもがかわいい時期に、というのはありますけど、仕事面でも今一番頑張れる時期ですし、今の部署での担当が一番楽しいと思っているんですよね。思ったことが形にできるポストだと思うんです。だから、今の担当であるうちは、仕事を優先させたいなと思っています」

「自衛官の服務の宣誓はまさに私たちの心構えで、いざというときには私生活を捨てて、我々はこの国を守る仕事に向かわないといけない、というのを常に忘れないことは大事だと思います。子どもには泣かれたこともありますよ。テレビで大震災のニュースをやっていて、『こういう状況になったら自衛官のお父さんとお母さんは出動して、家からいなくなるからね。何日帰って来ないかわからないけど、おばあちゃんと頑張って生きていくんだよ』って言ったら、『そんな仕事やだ〜』って言われたこともあります。でも、仕事にきちんと向き合っている女性自衛官たちは、自分の子どもたちにそういう教育をしているのです」

いざというときは家族のそばにいられないかもしれないという現実を、親として子どもに伝えなくてはならないという厳しさがあります。このような現実から目をそらさない強い気持ちがあるからこそ、この後に述べるように、周囲の人たちから支援をしたいという気持ちを引き出しているのだと思います。支援ありきではなく、仕事も子育ても、という気概があってこその両立、という力強い意見が述べられました。

「仕事と家庭の両立が困難なときはあるけれど、何とかするだろうし、多分、何とかなるんです。自分の気の持ちようです。ワンオペは、何とかなるという楽観的なところと、何とかするという気概が必要ですね。子どもが生まれたからといって何かを諦めるのではなく、事の軽重はありますが、やりたいことは全部やっていいと思います」


そうはいっても、子どもに自衛官の任務を理解してもらうことの大変さは容易に想像できます。ただし、子どもたちもそうしたお母さんの姿を前向きに受け止めており、それが女性たちの気持ちを支えている部分は大きいようです。

「子どもたちが、すごいお母さんのことを自慢してくれます。もし子どもが私の知らないところで、『お母さんいつも家にいない』とか、『いつも寂しい思いをしているのに』って言っているとしたら、それは辛い思いをさせてしまったかもしれないのですけど、『俺の母ちゃん自衛隊で災害派遣にも行っているんだ』と周りのお友達とかに言ってくれるのは、良かったなと思っています。子どもの教育にとっても、自衛官として仕事を頑張り続けてきたことは良かったって思うんですよね」
「子どもがいることはキャリア形成のハンディキャップにならないと思います。女性が子どもの面倒をみなくてはならないという意識は根強く残っている、もしくは女性自身がそう思い込んでいるかもしれませんが、それは違うと思います。意外と子どもは親以外の誰かとの世界で成長するもんだなと実感しています。私の場合、朝早く出勤するため、前日の夜に息子が私の朝食用のおにぎりを握ってくれています。逆に私が育ててもらっています」

子育てとの葛藤の乗り越え方の一つは、長い時間軸の中で「今」を考える、ということでしょうか。大変なのは今、ここを過ぎれば何とかなる、という前向きな気持ちも重要です。

「私は、今は子育てを優先して勤務ができれば良いと思っているので、勤務時間に見合った仕事量にしてもらったり、保育園に子どもの送り迎えができる勤務形態を選ばせていただいています。子どもの面倒をみてくれる人がいたり、いろいろな手段がありますので、お子さんがいらっしゃっても仕事を優先する自衛官の方もいます。なので、自分が何に重きを置いてやりたいか叶えられる環境にはあると思います。限られた時間の中で自分がどこまで仕事に時間を費やして、どこまで育児に時間を費やしてって自分の塩梅で変わってくるところだと思うので、何を優先するかをよく考えて、仕事の仕方を決めると良いのではないかなと考えています」

職場の中で、働き方の選択肢が増えてきたことで、子育て後のキャリアを長期的に見据えて、そこから逆算して今どうしたいのかを問い直す、ということができているようです。また、子どもへの心配を抱えながら仕事をすることが、周囲に迷惑をかけてしまう、という意見もあります。自衛官としての職責を全うできないことによる葛藤、仕事をしても子どものことが気になって仕事に打ち込めない葛藤、二つの葛藤の間で気持ちが揺れ動くのです。

「私がずっと計画してきていたミッションの直前に、息子が発熱しました。後ろ髪を引かれる思いでファミリー・サポート・センターを利用して子どもを預けたのですけど、心ここにあらずでした。子どもの具合が悪いのに、ほっぽり出して『自分は仕事を取ったんだ』っていう子どもに対する後ろめたさ、申し訳なさをすごく感じたので、その経験があってからは何を言われようとも、『すみませんがお休みをください』と言うようにした方が、任務の安全な遂行にもつながるので良いと思いました。不安な気持ちでミッションに臨むとミスをしてしまうかもしれないので、何か気になる家庭の事情があったら、職場にはきちんと相談するように女性の後輩にも言っています


葛藤への対応は、しっかりとメリハリをつけていくことも大切なようです。

仕事でも家庭でもつねに臨戦態勢

彼女たちは、仕事上での「いざ」に臨戦態勢ですが、家庭で起こる「いざ」に対しても、普段から様々なリスクヘッジをしています。ここにも、自衛官の不測の事態への対応力が発揮されているようです。
まずは、子育て側のリスクヘッジです。子育ては、パートナーと親を中心とした親族が心強い味方ではありますが、それだけでは安心とはいえません。

「私の場合は、親が四六時中子どもの面倒をみに来られるというわけではないのですが、基本的に両家の親が『何かあったら言ってね』という感じで仕事に対して理解があります。ただ、両家とも対応できないときはシッターさんにお願いをしたりして、何重にも選択肢を確保しておくっていうのが大事だと思います」

働いている女性にとって親族以外のネットワークを作るのは、地域の人と知り合うチャンスが少ない、時間がない、ということで難しいのですが、子育てのセーフティネットは欠かせないものと考えて、積極的にネットワークを広げています。子どもの同級生の家庭や近所の支援も積極的に引き出します。

「家族だって守りたい、守りたいけど、何か事が起こったときに『行けません』とは言えないから、子どもを預かってもらう手段は、異動をしたらまず最初に探します。何かあったら子どもを預かってくれる近所の人を探して、断られてショックなことも結構ありましたが、何とかいいですよって言ってくれる方を見つけて。台風で小学校が急に休みになったときに、子どもの同級生のお母さんにお願いしたこともあります」
「今はマンションに住んでいるのですが、その中で支援してくれる人をたくさん獲得しようと思って、最近、近所付き合いを頑張るようにしています。信頼関係を築いて、いざとなったら『よろしくね』と言える人を自分の家族以外で確保しようとしています」


もう一つ、職場サイドへの働きかけでも、リスクに備えた対応を心掛けています。

「子どもが急に熱を出したりするので、保育園はお泊まりができるところを探しました。でも、あまり子どものことばかり気にしていたら職場にも迷惑をかけると思って、親に子どもを預けられるときは当直勤務に就いたりとか、できるときにきちんと仕事することを心掛けて、本当に子どものために休まなくちゃいけないときは休めるように、日頃からしていましたね」

どうしようもなくなったときには、子どもを職場に連れていくことで対処します。

「忙しい任務に加えて人事業務も兼務していた頃です。自分の家庭が大変でも、隊員の人生もかかっているので、仕事はしなくてはなりません。子どもが発熱などで登園禁止になったことも結構あったので、職場に子どもを連れて行っていましたね。子どもが元気でも、何かしらの事情で保育園に通えない日があるんですよ。そういうときは、仕事はお休みをいただくのですが、職場に子どもを連れて行って業務処理していましたね。夫と午前と午後に半分ずつ休暇を取ることもありました」

仕事を頑張る環境を整えることで、仕事と家庭の好循環を意図的に作り出しているようです。そうすることによって、職場からも家族からも信頼されることにつながるのでしょう。

(第7章「女性自衛官の仕事と子育て」より一部編集して抜粋)

◆著者紹介

上野友子(うえのともこ) 
東京都生まれ。2011年、防衛省に防衛事務官として入省(現在、内閣府出向中)。2020年、法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修士課程修了。国家資格キャリアコンサルタント。
武石恵美子(たけいしえみこ)
茨城県生まれ。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程修了。博士(社会科学)。労働省(現厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所、東京大学社会科学研究所助教授を経て、現在、法政大学キャリアデザイン学部教授。専門は人的資源管理論、女性労働論。『キャリア開発論』など著書多数。


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