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増税気運が高まるかたわらで、放置されている約8.3兆円もの税金|高橋祐貴

 67兆円。これは過去最高額を記録した2021年度の税収です。近年、税収は右肩上がりで、それに合わせて私たちの租税負担率も上がっています。
 では、集められた税金は無駄なく使われているのでしょうか。光文社新書2月新刊『追跡 税金のゆくえ』では、毎日新聞の記者である高橋祐貴さんが、その実態を明らかにすべく、果敢に切り込んでいきます。黙認される一般社団法人を介した”中抜き”、政府も詳細が分からない五輪予算、孫の小遣いとなる中山間地域の助成金——。約3年にもわたる取材で分かった驚愕の事実を、ぜひ本書で確かめてみてください。本記事では発売を機に「第5章 名ばかりのワイズスペンディング」より一部を抜粋して公開いたします。 

放置される8.3兆円

 基金は本来、必要額が見込みにくい事業のために設置されるものだ。その年度の支出(歳出)はその年度の収入(歳入)で賄う「単年度主義」に基づく一般会計予算と異なり、複数年度にわたって柔軟に資金を拠出できるメリットがある。

 一方で、基金は国会によるチェック機能が働きにくい。その年に必要な事業を計上する一般会計予算の審議が優先されるためだ。ニーズが変化しても単年度予算のように毎年見直しが行われるわけではないため、制度設計もアバウトになる傾向があるように思える。

一般会計予算と基金の違い

 そのため、基金は「予算執行の例外」とされてきたが、2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災などの経済危機をきっかけに急増。経済対策が効果を発揮するまでのタイムラグが考慮され、複数年度を視野に入れた予算措置が求められるようになったためだ。

 リーマン・ショック後の2009年度補正予算の国会審議では、基金を多用した予算措置が問題視されたが、それでもその数は46(新規設置は30)だった。当時の地方を含めた基金設置団体数の把握が困難なため、単純比較はできないが、現在の基金の数は桁違いの多さといえる。

 はくおう大学の藤井亮二教授(予算制度)の研究室によると、2014年度補正予算以降に編成された予算では、少なくとも95事業で15兆5560億円の公金が基金に投入されてきた。

 新型コロナ感染が広がった2020~21年度に投入された基金はこのうち、12兆8000億円。2019年度までは3年連続で基金の予算が1兆円を下回り減少傾向にあったが、2018~19年度と比較して7倍へと膨張した。

 省庁別では、経産省が最も多く、約7兆2000億円。厚労省(約2兆7000億円)、農林水産省(約9000億円)と続き、当初予算と比べて査定の期間が短い補正予算で計上された基金が約6割を占める。このうち、使われずに積まれたままの状態となっている基金の残高は2020年度末時点で約8.3兆円だ。毎年のように赤字国債を発行し、社会保障費が膨らみ続けるにもかかわらず、これだけの予算が漫然と積まれて野放しになっている。

このまま緩めば合法的な裏金にも

 基金は積極的な財政出動を政治的メッセージとして発信する際に使われる傾向にあり、時の政権の看板政策や経済対策の規模を大きく見せたい時に使われがちだ。欧米に比べて「Too little Too Late(少なすぎる、遅すぎる)」との批判を浴びたコロナ禍の各種政策でも基金の新設が相次いだ。

 コロナ禍で売り上げが減った企業に実質無利子・無担保で融資する制度に必要な予算も基金に積まれている(第3章参照)。返済が滞っても、元本の8割か全額を政府の財源を裏づけとした信用保証協会が肩代わりし、各都道府県が利子補給する制度だが、この利子補給の原資を確保するために自治体に設立された基金は計309に上り、「地方創生臨時交付金」などから計1538億円が積まれている。しかし、その執行率は約1%(20年度末時点)だ。内閣府の担当者は「融資期間が長期にわたるため基金を設立した」と説明するが、足元の執行状況を尋ねると、「正確に把握できていない」と漏らした。

 他にも、経産省の「グリーンイノベーション基金」(2兆円)や厚労省の「ワクチン生産体制等緊急整備基金」(2577億円)、文部科学省の「東京オリンピック・パラリンピック開催準備基金(感染症対策)」(560億円)などが、コロナ禍で新たにできた基金の代表的な事例として挙がる。参院予算委員会で調査室長も務めた藤井教授はこう批判した。

「規模が決まった後に詳細を詰める傾向が少なからずあるのではないか。本当に必要な額がいくらなのか、正当なのかが問いにくくなっている。公金の無駄遣いにつながる恐れもある」

 基金の乱立については政府も問題意識を持ってきた。2006年には、設置済みの基金について、原則2015年度末を超えない範囲内で基金事業の終了時期を設定することを閣議決定した。それでも、基金の増加に歯止めはかかっていない。「一般会計予算の平均執行率は8~9割」(内閣府幹部)とされる中、低調な利用状況にとどまる基金事業は他にも次のようなものがある。

・電気自動車の充電設備整備:執行率約2割
・ニートなどの就労支援:同約2割
・中小企業におけるポリ塩化ビフェニール(PCB)廃棄物処理:同約6割

 また、岸田首相は2023年度に発足する「こども家庭庁」を中心に子ども関連予算を倍増したいとの考えを示しているが、ここでも関連の基金事業の執行率が低くとどまっている。子どもの人口自体が減少している中、こうした基金も倍増するのか注目されている。

 岸田首相は国会審議などで基金について、こう強調した。

「目的を吟味したうえ、基金の立ち上げを考えなければいけない。国民から理解される使い方をしていく、透明性を高めていく努力は重要だ」

 2022年度からは、単年度の事業費が10億円を超える場合は四半期ごとに支出状況や残高を公表することにしている。財務省幹部は「これまで基金のチェックは会計検査院や行政事業レビュー頼みだった」と話し、著しく成果が低い場合は予算の削減も検討する構えを見せる。

 ただ、一時的なチェックは事業を所管する省庁任せになるため、どこまで基金の見直しにつながるかは不透明だ。それに加え、基金全体でどれだけの額がつぎ込まれてきたかは財政当局でさえつかめずにいる。岸田政権が注力する経済安全保障などの分野でも基金が活用されていることもあり、別の幹部は「基金新設の抑制までは踏み込み切れないだろう」との見方だ。

「(医療情報化支援基金のような)執行率4%はあまりに低く、基金の必要性や規模、効果の検証が十分されていない証しではないか。このまま基金が膨らみ続ければ財政規律は緩み、『合法的な裏金』が増えることになる。基金の基本的なルールを法制度化することが急務だ」

 チェック体制の緩い基金について、元会計検査院局長の有川博・日本大学客員教授はこう話す。例えば、一律に5年というように基金の設置期限を区切り、その時点で所管省庁の責任で総ざらいし、サンセット方式(補助制度等について、あらかじめ制度の終期を条例や規則、要綱等で明示しておくこと)で見直す。こうした荒療治をしなければいけない時期にさしかかっているのではないだろうか。

※以上、「第5章 名ばかりのワイズスペンディング」より抜粋。本書では他にも「一般社団法人を介した"中抜き"」や「オリンピック予算の実態」などにも深く切り込んでいます。

目次

まえがき
第1章:官僚も黙認する中抜き
  —— 一般社団法人という隠れみの
第2章:ブラックボックスの五輪予算
  —— うま味だらけの人件費単価
第3章:バラまかれたコロナ支援金の行方
  —— ゼロゼロ融資、病院支援の副作用
第4章:地域のしきたりが搾取する公金
  —— 遊興費へと消える消防団員の報酬と農業補助金
第5章:名ばかりのワイズスペンディング
  —— 膨らむ防衛費と積み上がる基金
あとがき

※より詳しい目次はこちらをどうぞ!

著者プロフィール

高橋祐貴(たかはしゆうき)
神戸市出身。慶應義塾大学文学部卒業。2014年、毎日新聞社入社。和歌山支局、岡山支局を経て’19年から東京本社経済部。金融や経済産業省、財務省、国土交通省などを担当し、これまでにメディア・アンビシャス大賞の活字部門入選(’20年)、疋田桂一郎賞(’22年度)を受賞。連載「見えない予算」「再考エネルギー」「『平和国家』はどこへ」などの企画にかかわってきた。著書に『幽霊消防団員』(光文社新書)がある。

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