見出し画像

デバイスやメディアの普及に大きな役割を果たす成人コンテンツ

4章③ GAFAMのメタバースへの取り組み

光文社新書編集部の三宅です。

岡嶋裕史さんのメタバース連載の23回目。「1章 フォートナイトの衝撃」「2章 仮想現実の歴史」「3章 なぜ今メタバースなのか?」に続き、「4章 GAFAMのメタバースへの取り組み」を数回に分けて掲載していきます。今回はその3回目です。

ウェブ、SNS、情報端末などの覇者であるGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)はメタバースにどう取り組んでいくのか? 果たしてその勝者は? 各社の強み・弱みの分析に基づいて予想します。

前回に続いてフェイスブックの動きを見ていきましょう。

※下記マガジンで、連載をプロローグから順に読めます。

4章③ GAFAMのメタバースへの取り組み

フェイスブック②―映像体験が貧弱だったOculus Rift

 その後のVR市場は、ぼちぼちである。すごく良くもないが、すごく悪くもない。「あのザッカーバーグがオキュラスを買った」、「ソニーもPS VRで参戦する」などの話題に事欠かず、実際にOculus RiftとPS VRが市場に投入された2016年はVR元年と呼ばれた。

 確かにIT業界の中、ゲーム業界の中では盛り上がったのだが、一般消費者にそのブームは届かなかった。一製品としては成功だったろうが、インフラになったとはとても言えない。イノベーターからアーリーアダプターへの最初の溝を超えられず、まだアーリーアダプターにさえ、十分に受け入れられていないのだ。

 理由はいくつもある。まず、映像体験が貧弱だった。Oculus Riftの解像度は片目1080x1200(VRでは両目に異なる映像を映すため、片目ごとに独立したモニタを用意する)、両目2160x1200、PS VRは片目960x1080、両目1920x1080である。

 4K(3840x2160)には及ばないものの、フルHD(1920x1080)相当ではあるのだから、そこそこいい画質のように思えるが、ヘッドマウントディスプレイは極めて目に近いところで動作する。そのため、画面のゆがみを補正したり、全周を表示する必要もある。単純にテレビの解像度と比較するわけにはいかない。

 あくまでも目安に過ぎないが、没入感のあるVRを実現するには8Kや16Kの解像度が必要と言われており、それを基準にするとVR元年のVRヘッドセットは解像度が低すぎたのである。

重装備すぎたOculus Rift

 重装備であることも、普及を妨げた要因だ。

 画面を綺麗に表示することは、想像以上にコンピュータにかける負荷が大きい。4K程度の画像であっても、リフレッシュレート(1秒間に何回描画するか。テレビは約30回)を高くするためには高額で大きなGPUが必要になる。高性能GPUは排熱も多くなるため、これを擁したデスクトップPCを用意し、VRヘッドセットをUSBなどの有線ケーブルでそこに接続する形になる。

 あらゆるケーブルが邪魔者扱いされ、通信ケーブルや電源ケーブルなど生活必需品としての度合いが大きいケーブルでも無線化が進んでいる中で、これは捨て置けない逆風だった。

 また、自分のダンスをアバターと同期するなどの用途に使うモーションセンサーも、大がかりだった。総じて、気軽に購入したり、店頭で衝動買いできる製品ではなかったのである。

HMDかメガネ型か

 メタバースにアクセスするためのデバイスのあり方も、各社の事情やポリシーを反映している。フェイスブックはオキュラスを買収することで、HMDをその本命に据えていることを明示したが(フェイスブックもメガネ型ディスプレイであるスマートグラスを開発しているが、HMDにより多くの経営資源を割いている)、グーグル、アップルはスマートグラスに注力している。

 性能、機能的にはどちらにも一長一短あるが、特にアップルはメガネ型ディスプレイ以外の選択肢はなかっただろう。HMDはどうデザインしても無骨になる。スタイリッシュな機器とサービスを提供することは、アップルの企業価値の根幹を形作っている。冴えない形状の製品を投入すれば、その価値を毀損してしまう。

大きな役割を果たす成人コンテンツ―Oculus Goの普及

 フェイスブック傘下に入ったオキュラスは、これらの事態を重く見て製品構成に手を加える。具体的には、Oculus Goをそのラインナップに加えた。Oculus Goは無骨なHMDではあるのだが、母艦としてのPCに接続しなくてもよいスタンドアロンのデバイスだ。

 ケーブルが不要になった手軽さは、ライトユーザを呼び込んだ。パイとして巨大とは言えないものの、Oculus GoがそれまでマニアのものでしかなかったVR市場に質的な変容をもたらしたと見ていい。

 あるデバイスやメディアが持続的な普及を続けるためには、成人コンテンツが大きな役割を果たす。日本における成人向けVRコンテンツの最大手サプライヤはDMMで、VR元年といわれた2016年に有料VRコンテンツの販売を開始している。

 初年度の売上にはさほどのインパクトがなかったが、2年目にあたる2017年には売上を倍増させた。Oculus Goの普及は、その要因の一つであると強く推定される。成人コンテンツを視聴するときに、USBケーブルでがんじがらめになりたい人はいないだろう。いや、そういうプレイもあるのかもしれないが。

 Oculus Goの解像度は両目で2560x1440。スタンドアロンであるにもかかわらず、Riftに比べて解像度を上げてきた。さすがの資金力と技術力である。ただ、やはり膨大な計算量を求められるヘビーなコンテンツでは処理能力不足を感じさせた。

 また、初代Riftが利用者の頭の向きや傾きの変化に加えて、体の移動も検知できる6DoFであったのに対して、Goはコストカットのために3DoF(移動は検知できない)に抑制されていた。

 これだと、後ろを振り返ったり、空を見上げたりすることはできるが、仮想現実内を移動することはできない。仮想現実に没入してヘビーにその世界を楽しむのではなく、どちらかと言えば簡便に立体画像や360度ビューを楽しませる端末として設計されたことがうかがえる。

 それを裏付けるかのように、オキュラスは初代Riftの後継機に位置するOculus Rift Sを2019年3月に投入する。この時点ではまだ有線ケーブル仕様の、PCと接続するタイプのHMDを売り続ける意思があったのだ。

 しかし、時代の趨勢は明らかにスタンドアロン型に傾きつつあった。一般利用者を取り込みたいのであれば、そうせざるを得ない。オキュラスが、Oculus Goの系譜に連なるOculus Questを2018年に投入すると、市場は大きく反応した。(この項続く)

※このマガジンで、本連載を最初から読めます。


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

光文社新書ではTwitterで毎日情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください!