発症しても仕事は続ける? 藤田紘一郎先生と考える「がん」とのつきあい方
日本人の2人に1人ががんになる時代――。がんは誰もがなりうる病気です。家族や友人に見つかって、「次は自分かも……」と、そのとき恐ろしくなったことのある人もいると思います。しかし、がんになったらどうするか、「自分事」として真正面から考えたことはあるでしょうか。人生100年時代、がんについて考えることは、生き方を考えることでもあります。
そこで本記事では、医師の藤田紘一郎先生がまさに「自分事」としてがんと向き合い、そのつきあい方について考えた新刊、『もしも、私が「がん」になったら。』から一部を抜粋・再編集して公開いたします。
あなたが、がんになったらどうするか。家族に見つかったらどう生きるか。がんを寄せ付けないためにできることはないか――。あなたも藤田先生と一緒に考えてみてはいかがでしょうか。
がんになった、仕事はどうするか
もしも、がんになったら……。そんなことを、誰もが考えておいたほうがよい時代になりました。私もすでに、その日が来ることを想定しています。
免疫学を専門としてきた私は、どんな道を選ぶのか。この質問をときどき受けます。参考までにお話しすれば、まずは詳しい検査を受けるでしょう。がんの性質や、どの程度進行しているのかを客観的に知るためです。その答えは、今後、自分がどのように生きていくかの指針になります。
万が一、たちの悪いがんや、治癒不能とされる状態だった場合、私は病院に入院するのではなく、インドネシアのカリマンタン島へ飛ぶでしょう。そこが、私自身の原点ともいえる場所で、世界でもっとも好きなところだからです。進行がゆるやかながんや早期発見だったとしても、好きな場所、行きたい場所をゆっくりとめぐるでしょう。
でも、仕事は続けます。「生涯現役」をモットーに今日まで生きてきました。仕事は私にとって大好きなことで、生きる道です。がんになったからといって、すぐに死ぬわけではないのですから、好きなことをあきらめる必要はまったくないと思うのです。
私はがんになっても標準治療は受けません
ただ、どちらのケースであっても、私はがんの標準治療を受けない、と決めています。
がんになると、多くの医者は「治る」か「治らない」かで、その後の方針を決めようとします。ですが、がんには第三の道もあることを知っておいてほしいと思います。
「がんとともに生きる」という道です。
私は、最期まで、好きな場所を旅し、好きな仕事を続け、好きな人たちと語らい、そして、大切な家族とともにある生活を続けたいと願っています。
その願いは、標準治療を受けると、一時的に絶たれることになります。もしかしたら、「一時的なこと」と思っていたら、「一生のこと」になってしまうかもしれません。これは、私の望む生き方ではないのです。
ただし、これは私の場合の話です。人にはそれぞれ死生観があります。死は誰にでも訪れることですが、どのように生きたいか、そして、どのように死にたいかという願いは、人それぞれです。
そうした死生観は、元気なときから明確にしておきましょう。それは、人生を自分らしくあり続けるうえで、とてもポジティブなことです。
75歳を過ぎるとがんとは「つきあいやすく」なります
がんになっても標準治療を受けない、と決めている私ですが、標準治療を否定しているのではありません。年齢などの条件によっては必要なこととも考えています。
がんの標準治療とは、「手術」「放射線治療」「抗がん剤治療」です。これらが、保険が適用される治療の中心で、「三大治療」とも呼ばれています。がんと診断され、「さあ、これからどうしよう」と考えたとき、まずは自分の年齢と向きあいましょう。治療のことを考えるのは、その次です。がんは、年齢によって進行のしかたが違ってくる性質を持っているためです。
多くの場合、高齢になるとがんの進行はゆっくりになります。個人差はありますが、だいたい75歳を過ぎたら、がんの進行は遅くなります。これは、あらゆるがんに共通します。がんとつきあいやすい、とてもいい年齢になる、ということです。
私はすでに80歳を超えました。人は誰でも100歳まで生きる遺伝子を持って生まれてきているので、私もあと20年は生きられるかなあと思っています。そのためにも、がんになっても標準治療を受けないほうがよいと私は考えています。
治療方針を決めるのに大切な「年齢」と「死生観」
一方、若い世代の人の場合、多くはがんの成長スピードが速くなります。がん細胞が非常に増えやすいためです。ですから、60代までの人は、治療を受けることを選択肢に入れておくとよいと思います。
がんの種類によっては、手術をすればほとんどが治る、というタイプのものもあります。若い人は進行が速いことが多いので、早めに病巣を切りとってしまうのは有効な選択肢の一つともなるでしょう。こうしたことは、検査を受けると、だいたいがわかります。
ただ一方では、増殖のスピードがとても速かったり、たちの悪いものだったりして、治療が難しいタイプのがんもあります。この場合、三大治療を受けることによって、命を縮めたり、生活の質を著しく落としたりすることが少なくありません。
自分の死生観と年齢に治療をどのように折りあわせていくのか。がんを発症したときにいちばん大切なのは、ここだと私は思っています。
「がんになりました」「じゃあ、治療をしましょう」と、医師にいわれるがままになれば、わからないことが多すぎて不安になります。「これから自分はどうなるのだろう」と恐れを感じるとも思います。この感情は当然のもので、人とは未知のことに恐怖を抱く心の持ち主です。
だからこそ、「自分はどのように生き、どのように死んでいきたいのか」を、あらかじめ想定しておくこと。すると、がんになっても自分にできることがたくさんあると気づけます。
ここが「がんと共生する」という道の大切な第一歩なのです。
『もしも、私が「がん」になったら。』目次
はじめに
第1章──もしも、私が「がん」になったら
第2章──私が、がんの三大治療を受けない理由
第3章──がんを知れば、がんとのつきあい方が決まる
第4章──がんを抑える食事、がんをつくる食事
第5章──がんを遠ざける生活習慣のコツ
おわりに
著者プロフィール
藤田紘一郎(ふじたこういちろう)
医師・医学博士。1939年、旧満州生まれ。東京医科歯科大学卒。東京大学大学院医学系研究科修了。東京医科歯科大学名誉教授。専門は、寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。著書に『人生100年、長すぎるけどどうせなら健康に生きたい。』(光文社新書)、『免疫力』(ワニブックスPLUS新書)、『「腸」が喜ぶお酒の飲み方』(日本実業出版社)など多数。
他にも光文社新書には藤田先生のこんな書籍も
『手を洗いすぎてはいけない』
『人生100年、長すぎるけどどうせなら健康に生きたい。』