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【80位】スライ&ザ・ファミリー・ストーンの1曲―「夢から醒めた」やるせなさを、ファンクの道標に

「ファミリー・アフェア」スライ&ザ・ファミリー・ストーン(1971年11月/Epic/米)

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Genre: Funk
Family Affair - Sly and the Family Stone (Nov. 71) Epic, US
(Sly Stone) Produced by Sly Stone
(RS 139 / NME 294) 362 + 207 = 569

後世のアーティストに絶大な影響を与えたスライ・ストーンが、ザ・ファミリー・ストーンとともに大活躍していた時代の終盤に打ち上げた、大きな花火のひとつがこれだ。ビルボードHOT100では1位を3週、R&Bシングル・チャートでは同5週記録のヒットにして、未来のファンク/ソウル音楽のありかたを決定づける道標ともなった。イントロの最初から曲の最後までつらぬかれた「特異な」粘っこいグルーヴが、それだ。

この曲の新しさは「孤独」から生じた。まず最初に鳴り出すのが、リズム・マシーンのビートなのだが、これをプログラミングしたのはスライ本人だった。こんなビートで作られた曲が大ヒットしたのは、史上初めてと言っていいほどの椿事だった。

タイトルの Family Affair とは「家族の事情」だ。こういう語調の「事情」が、いい話だけのはずはない。「血は泥よりも濃い」なんてフレーズも曲中にはあるのだが、でも「いろいろあるよね」という内容の詞を、抑えたトーンでスライが開陳する。

歌唱をリードしていくのは、ファミリー・ストーンの一員であり、スライの妹でもある、ローズだ。掛け合いみたいに進んでいくパートもある。ほかのバンド・メンバーは一切この曲に参加していない。だからほとんどの楽器を、スライ本人が演奏していた。

つまり、後年のプリンス(もちろん、彼もスライの大ファンだ)よろしく「たったひとり」に近い状態となった彼が、あれやこれやと「思い悩む」過程にて誕生した黄金のひとつが、この曲だったわけだ。そんなスライを、流麗なる電子ピアノの美技で助けた友人が、ビートルズやストーンズとの共演でも名高い、腕利きキーボーディストのビリー・プレストンだった。ギターでボビー・ウーマックも参加している。

この曲は、邦題を『暴動』とする、彼らの第5作アルバムに収録された(原題はThere's a Riot Goin' On)。こちらも初登場全米1位を記録。しかしやはり、重さや薄暗さが目立つ内容だった。300万枚の大ヒットとなった前作『スタンド!』(69年)とは、そこが違った。スライたちは同年のウッドストックでも演奏した。だから60年代後半の、カウンターカルチャーという名の「夢から醒めた」あとの揺り戻し効果を、彼らはもろに体験したのだろう。そこから逃げずに「現実のささくれ立ち」を転写したならば、「家族ですらも」もはや心の故郷ではないとする、なんともやるせない諦念が浮かび上がってきた。それが、前作からおよそ2年ぶりに発表したこのナンバーだった。

(次回は79位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki



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