【60位】ザ・ローリング・ストーンズの1曲―禍々しさが吉と出る、魔のシタールが「黒く塗る」
「ペイント・イット・ブラック」ザ・ローリング・ストーンズ(1966年5月/Decca/英)
※画像はフランス盤ピクチャー・スリーヴです
Genre: Raga Rock, Psychedelic Rock
Paint It Black - The Rolling Stones (May, 66) Decca, UK
(Jagger/Richards) Produced by Andrew Loog Oldham
(RS 176 / NME 136) 325 + 365 = 690
当リスト初のストーンズ・ナンバーだ。日本では「黒くぬれ!」との邦題で親しまれている。不穏なこの1曲が、60年代後半以降の世相に与えた影響は、小さくない。ミック・ジャガーの「禍々しい」系の文学性が結実した、最初の例だ。ビルボードHOT100、全英チャートともに1位を奪取。前者11週、後者10週のあいだチャート内に留まるヒットを記録。アルバムとしては、アメリカ版の『アフターマス』(同年)に収録された。
なんと言ってもこの曲は、シタールだ。イントロから登場し、この曲独特のエキゾチックなリズムを、随所で文字通り「先導」し続ける。弾くのはブライアン・ジョーンズ。シタールをフィーチャーした彼ら初のナンバーであり、また「シタールもの」のロック・チューンとして初めて、全英および全米で首位を獲った。
が、ロック・ファンなら先刻ご承知、「シタールを使ったポップ・ソング」の先駆けといえば、ザ・ビートルズの「ノーウェジアン・ウッド(邦題「ノルウェイの森」)」だ。65年12月発表の『ラバー・ソウル』(『教養としてのロック名盤ベスト100』では9位)に収録、シングル化された豪では1位。ジョージ・ハリスンがシタールを弾いていた。
という曲の約半年後に出たのがこれなのだから「ハリスンの(ビートルズの)影響からシタールを導入した」と見るのが普通で、「インド勝負」としては二番煎じだった。つまり「永遠の二番手」としてのストーンズらしい出遅れ感だった――ような曲なのに、そこでいきなり「あっち側」に突き抜けてしまうというのもまた、彼ららしかった。
なにしろ、暗い。とんがっている。目に映るあらゆるものを「黒く塗れ」汚してしまえと煽動し続ける歌詞は、暴力や性への直接的な衝動を転写したかのようだ(上品な「ノーウェジアン」とは、かぎりなく遠い)。さらに、この生々しさ、危なさは、「街の不良」程度のものではない。ほとんど犯罪者一歩手前の心理状態のごとき、凄惨さをも感じさせた。これら「満たさせない」情動の渦巻きが、ビル・ワイマンの深く重いベース・ラインと、ボレロ調生ギターから生じるグルーヴ(の全体は、インドというよりも中近東的だ)によって、内へ内へと沈降しながら、しかし前へ前へと投射されていく。
こんな曲想が、ヴェトナム戦争が日々激化していく世相のなかで、大いに受けた。ゆえに同戦争を描いたスタンリー・キューブリック監督『フルメタル・ジャケット』(87年)のエンドクレジットで鳴り響いたのは、この曲だった。
(次回は59位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)
※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki